316 殴りた〜い!!
「さて、本日は最後にスペシャルなデザートをご用意してあります」
話はそこまでにし、莉奈は頑張って作ったデコレーションケーキをテーブルにドンと取り出した。
白い生クリームの上にブラックベリーとククベリー、そしてヨウマンゴーが散りばめられたケーキ。それはまさに、宝石箱の様にキラキラして見えた。
「「…………!?」」
エギエディルス皇子はそのケーキを見た途端、ガタリとイスを引き腰を上げる。
初めて見たデコレーションケーキに驚き、行儀を忘れ堪らず立ち上がっていたのだ。
シュゼル皇子も瞳をキラキラ輝かせ、莉奈の出したデコレーションケーキに釘付けである。
侍女達も初めて見るケーキに一瞬目を見張り、莉奈に何コレ!? と聞きたい所をグッと抑えていた。
そのワクワクした様な空間に、ただ1人渋面の方がいた。その名はフェリクス。
デコレーションケーキを見た瞬間に皆が皆、興奮した様子で瞳をキラキラとさせている中、フェリクス王だけが顔を顰め口元を布ナプキンで押さえていた。
「クソ気持ち悪ぃ」
甘い物嫌いのフェリクス王は、1人甘味の塊と甘い匂いに吐き気を覚えていた。ウンザリしどんよりしている。
「リナ!! コレ何? コレ!!」
エギエディルス皇子が興奮した様子で訊いてきた。
小さい子だったら、テーブルに手を掛けてピョンピョンと跳ねているに違いない。
「デコレーションケーキ? ブラックベリーのショートケーキかな?」
基本的に苺がポンと載っているのを、ショートケーキって呼びがちだけど、スポンジケーキに生クリームと果物を挟んで飾ってあるケーキは、デコレーションケーキでもショートケーキでも、どっちでもイイんだよね。
「ブラックベリーのショートケーキ」
エギエディルス皇子はイスに座り直しながら、莉奈がケーキを取り分けてくれるのを待っていた。
なんだか、尻尾をフリフリしている仔犬みたいで、堪らなく可愛い。その向かいには中型犬が同じく尻尾を振って待っている訳で、マジで萌え死にする。
デコレーションケーキこと、ブラックベリーのショートケーキを1カットにし、先にエギエディルス皇子。続いてシュゼル皇子の前に置く。
執事長イベールは、温かい紅茶を淹れて2人に出した。
「ふわふわだコレ!! んっ、甘くて酸っぱくてふわふわでウマ〜イ!! なんだコレ!?」
エギエディルス皇子は早速とばかりに一口頬張ると、ビックリした様に感動していた。
「んん〜っ! 何でしょうこのふわふわ感。程良く甘い生クリームに甘酸っぱい苺。はぁ、苦い紅茶とまた合って、美味しい」
シュゼル皇子は、まるで女性の様に細く美しい手を頬に当て、夢心地の様なウットリとした表情をしていた。
「…………」
そんな弟2人を見ていた兄は、対照的に心底不快な表情をしていた。
「あ゛?」
もうお腹はいっぱいかな? と思いつつ、莉奈はケーキの代わりにとフェリクス王の前に、何かが載った小皿を出した。
「鶏のひざ軟骨のからあげです」
酒のツマミにはもってこいである。
胡椒多めにすればエールと良く合うだろうと、キンキンに冷えたエールも出してみた。
コリコリコリ。
「ヤゲン軟骨とは違って、コレも旨いな」
エール片手に鶏のひざ軟骨を食べる王。庶民的でなんか萌える莉奈だった。
ーーパシン。
そんな時、誰かが何かを叩く音がした。
「人の物に手を出すんじゃねぇ」
物欲しそうな弟2人が伸ばしてきた手を、フェリクス王が叩いた音だった。
「少しくれよ」
「味見させて下さい」
「お前らには、生クリームの塊があるだろうが」
「だから何だよ」
「だから何ですか?」
それはソレ、これはコレと当然の様に主張する弟皇子2人。
呆れ返ったフェリクス王に代わり、莉奈が仕方がないと、2人にも鶏のひざ軟骨のからあげを出してあげた。
喧嘩にはならないだろうけれど、出さないとフェリクス王の分が減って可哀想だ。
「コリコリしてうっま〜い!! やっぱりからあげ最高」
どうやらエギエディルス皇子は、ブラックベリーのショートケーキよりも、からあげらしい。
なんか複雑な莉奈である。だって、ケーキの方が手間暇が掛かっているからね。
「テメェは何をしてやがる」
シュゼル皇子が何かをやり始め、フェリクス王が不愉快な声を出した。
「鶏のひざ軟骨のトッピング」
そう言って、ブラックベリーのショートケーキの上に、鶏のひざ軟骨をポンと載せていた。
そして、何が満足なのか誇らしげに笑みを溢している。
「「「…………」」」
その行動に一同絶句である。
何故、甘いケーキの上にひざ軟骨のからあげを載せる?
ブラックベリーのショートケーキに対する冒涜だ。
莉奈はシュゼル皇子の頭を、後ろから叩きたい手を強く強く握りしめ、フルフルと我慢するのであった。




