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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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315 野菜か果物か



「ハンバーグにかけるソースは、トマトのソースとなっております。お好みでかけて御賞味下さい」

 ハンバーグ自体に味が付いているからなくても大丈夫ですけど、と一応莉奈は一言添えた。

 デミグラスソースとかが出来たら良かったんだけど、時間がなかったし作るのが大変だしで今回はパスしました。



「ん〜!? わぁ、切ったらすげぇ肉汁が溢れてきた」

 ワクワクしながらエギエディルス皇子がハンバーグにナイフを入れたら、ハンバーグから溢れんばかりの肉汁が出てきた。

 それがまた、食欲をそそるのか興奮しながらエギエディルス皇子が莉奈を見た。

「それをパンに付けても美味しいよ?」

 莉奈はちゃんと肉汁が溢れるハンバーグが出来たと、ホッとしながらバゲットを勧めた。

 一個人としては、バゲットの固い耳を付けて食べるのは好き。だけど、ふわふわの所を付けて食べるのは、ベシャベシャで好きじゃない。肉汁を吸い過ぎてなんだか気持ちが悪い。

「リナ! ハンバーグすげぇ旨い! 口の中が超幸せだし。ん? だけどコレ、肉だけど肉じゃないのか?」

 肉の味はするが、ステーキみたいな肉の塊とは違う。エギエディルス皇子はモグモグと食べながら不思議そうにしていた。

「ハンバーグっていうのは、肉を叩いたり切ったりして細かくした後、調味料とか混ぜて焼いたモノ? かな」

「細かくした後にまとめるのですか。面白いですね」

 シュゼル皇子は興味深そうに、ハンバーグを観察しながら言っていた。

 何が入っているのか分析しているみたいである。



 フェリクス王をチラッと見たら、トマトソースを見て渋い顔をしつつも、ハンバーグにかける前に試しに少し食べていた。

「トマトお嫌いでした?」

「このソースは旨いが……」

 基本好きじゃねぇと、言葉を飲み込んだ。

 トマト嫌いだったんだ、と莉奈は苦笑いしていた。なら、悪い事をしてしまった。

「大体トマトは果物だろ」

 フェリクス王はそう呟きながらも、ソース自体は気に入ってくれたのか、ハンバーグにかけて食べていた。

「兄上、トマトは野菜ですよ?」

 シュゼル皇子はほのほのとしながら、ハンバーグをパクッと食べている。

「俺に言わせたら、この食感と酸味は野菜より果物だ」

「「…………」」

 弟2人は顔を見合わせて苦笑いしていた。

 急に変な事を言う兄王に、返す言葉がなかったのだ。あまり、果物が好きではない兄らしい言い分だなと。



「あ゛? 何がオカシイ?」

 そのやり取りを見ていた莉奈が小さく噴き出したのを、フェリクス王が見逃さなかった。

「いえ、可愛……じゃない、その話からある事を思い出しまして」

 時折、子供みたいなフェリクス王が可愛いなとは言えず、莉奈は慌てて誤魔化した。

「ある事とは?」

 シュゼル皇子が、興味深げな表情を莉奈に向けた。

「私の世界のとある国では、トマトが "野菜" か "果物" かで裁判沙汰になった事があるそうです」

「裁判沙汰!?」

 あまりの話にエギエディルス皇子は驚愕して声を上げ、兄2人は瞠目していた。

 給仕として控えていたラナ女官長達も、声こそ上げなかったが目を見張っていた。



 裁判内容が内容だけに、記憶に残っていた話だ。

「裁判が進むにつれ、植物学者は果物だといい、農務省では野菜だと言い張ったそうです」

「果物……なるほど確かに、こちらでも花が咲いた後の果実を果物と云う定義ですから、植物学者の意見は正しいですね」

 兄王が言った様に、正確にはトマトは果物だなと思ったのだ。

 そんな事を考えながら、シュゼル皇子はフムフムとさらに興味深げに頷いて聞いていた。

 トマトが野菜か果物かなんて、なんの機会もなければ考えた事もなかったのだ。野菜だと言われているから、野菜だと思っていた。

「え〜? トマトが果物かよ」

 エギエディルス皇子は、シュゼル皇子の意見を聞いても納得いかず眉を寄せていた。

 果物という程甘くはないし、不服しかない。

「その定義だと、カボチャやキュウリも果物だな」

 カボチャやキュウリも花を咲かせた後の果実だ。

 裁判沙汰になったと聞き、フェリクス王は面白いと顎を撫でた。



「で?」

 フェリクス王はハンバーグをペロリと平らげ、執事長イベールが注いだ赤ワインを飲みつつ、莉奈に話の続きを促した。

「……以上……です?」

「あ゛ぁ?」

「「え?」」

 フェリクス王と弟2人だけでなく、その場にいた全員が時を止めていた。

 何がどうしたら以上なのか、と。

「そんな裁判があった、と言う話?」

 莉奈はとぼける様にあさっての方向を見ていた。

 だって、結果は知らない。

 そんなアホみたいな裁判がありましたね〜くらいな記憶しかない。

「裁判結果は?」

「存じません」

 莉奈が改めて答えたら、シュゼル皇子が笑顔のまま固まった。

 答えのないクイズを出されたみたいで、ものスゴくモヤモヤする。



「結果はないのかよ!?」

 エギエディルス皇子が皆の心の声を代弁した。

「ないね〜」

 だって、そんな裁判の内容に驚いた記憶しかない。

 結果なんて全く覚えていないのだ。

「うっわぁ、すげぇモヤモヤする〜」

 エギエディルス皇子が天を仰いだ。

 結局、果物なのか野菜なのか結論なし。

「結果がどうであれ、何故そんな裁判が行われたんだ?」

 フェリクス王は別の事が気になったのか、赤ワインを追加して貰いながら訊いてきた。

 結果は知らないなら仕方がないとして、何故そんな裁判に発展したのかが気になったらしい。

「私も詳しくは存じませんが、輸出入の関税の問題だった様な記憶があります」

 ひょっとしたら違うかも。

 正直言って記憶にございません。

「あぁ、そういう事か」

「なるほど」

 それでフェリクス王とシュゼル皇子は理解した様子だった。

「え? 分からねぇんだけど?」

 エギエディルス皇子はサッパリと分からないと、兄2人を見た。



「この国にも関税があるでしょう?」

「あぁ、もちろん知ってる」

「うちでは野菜も果物も同じ税が掛かりますが、リナの言う国では、野菜と果物で掛かる税率が違うのでしょう」

「あ〜そういう事か」

 シュゼル皇子が簡単に説明してくれれば、一回で理解したのかエギエディルス皇子が納得し、大きく頷いていた。

「税率によっては大きく変わりますからね。輸出入する側からしたら死活問題でしょう」

 裁判するかしないかは別として、とシュゼル皇子は紅茶を一口。

 裁判費用と時間を考慮して、どこまで得なのか損なのか考えているのだろう。

 だとしても、何十年先を見越したらやる価値はあるのかもしれない。だって、どちらになるかで税率がそれだけ変われば、年間にしたら収益に何億もの差が出る事になるだろう。だから、裁判を起こしたのかもしれない。

「リナ、その国の野菜と果物の関税率は?」

「存じません」

「だと思ったよ」

 フェリクス王は呆れた様に笑っていた。

 莉奈に参考程度に訊いてみれば、想像通りの答えで笑っていたのだ。所々しか覚えていないとか、莉奈らしいと。



「まぁ、この世界では魔法鞄マジックバッグを使えば隠して輸出入が出来そうですけど」

 莉奈は小さく言った。

 だって、見えるから関税が掛かる訳で、バレなきゃイイかなと。



 そう言ったら

「ふふっ。世の中そう甘く出来ていないのですよ?」

 とシュゼル皇子に意味深に微笑まれた。

 どうやら、そんな事は百も承知でバレない訳がない様だ。申請しないのはもちろん犯罪行為な訳で、物と量によっては極刑になると、後から聞いてゾッとしたのはココだけの話である。






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