313 今さら猫は被れない
出来た料理を持って王族専用の食堂に着くと、扉の前で執事長イベールが冷ややかな視線で出迎えてくれた。
すでにお待ちですと、尖った視線が莉奈にグサグサ突き刺さる。
うげっ、という言葉を飲み込み
「大変お待たせ致しました」
莉奈は頭を深々と下げた。
だって、王族3兄弟がすでに着席しているのに、フフッ待った? とは言えない。
「有意義な時間でしたのでお気になさらずに」
優しい言葉を掛けながら、テーブルの書類を片付けるシュゼル皇子。
莉奈が来る間、仕事を済ませていた様だ。
フェリクス王も書類をイベールに手渡しているところを見ると、各々待ちつつ職務をこなしていたらしい。
エギエディルス皇子は勉強かな?
テーブルから書類が失くなると、ラナ女官長を筆頭に、数名の侍女達が素早くテーブルセットをする。
モニカも黙っていれば出来る侍女に見えるのにと、その作業を莉奈は無言で見ていた。
「リナ。この飲み物は何?」
イベールに渡していたソフトドリンクが、先にエギエディルス皇子の前に出されると、新作かとエギエディルス皇子が嬉しそうな笑みを溢した。
黄色っぽい色のドリンクなので、ククベリーやリンゴではなさそうだと、匂いを嗅いでいた。
「マンゴーとオレンジを混ぜた飲み物にございます」
莉奈には珍しく作り笑顔で、姿勢を正し丁寧に答えれば
「すげぇ気持ち悪ぃんだけど、お前熱でもあんのか?」
エギエディルス皇子に心底怪訝そうな表情をされた。
「エド? マジで失礼だから」
エギエディルス皇子のお祝いだからと、真面目にやろうとしたらコレだ。
莉奈はエギエディルス皇子の失礼な言葉に、思わず素に戻ってしまった。
イベールにチラッと睨まれた様な気がしたので、ゴホンと軽く咳払いし莉奈は再び姿勢を正した。
「本日は皆様、大変お忙しい中お集まり頂き誠に感謝致します」
「「結婚式かよ?」」
「夕食に集まっただけですよ?」
莉奈が真面目にそう言えば、途端にフェリクス王達にツッコミを入れられた。
「あの、申し訳ありませんが、先程から全然締まらないのでツッコミとかヤメてもらえます?」
確かに結婚式の口上みたいだけども。
莉奈はガックリと肩を落とした。ラナ女官長達は笑いを堪えるために、唇を必死に噛んで耐えていた。
「お前がオカシな事を言うと、鳥肌が立つのは俺だけ?」
身をブルリと震いエギエディルス皇子が腕を摩りながら、失礼な事を言った。
「安心しろ。俺は寒気がする」
「イベール。厳重に警戒を」
「御意に」
その言葉には、フェリクス王を筆頭にシュゼル皇子、執事長イベールも乗っかった。
「なっ!? マジで失礼なんですけど!?」
真面目な態度で接すればこの所業。莉奈は憤りしか感じない。
莉奈が抗議をすれば、さらに3兄弟から小さく笑われた。
「お前は不敬極まりないくらいが丁度イイ」
「無礼者と書いて」
「リナと読む」
「…………」
莉奈は怒りを通り越して、言葉を失っていた。
確かに普段から無礼、不敬はしていましたけれど失礼過ぎませんかね?
「とにかく!! 本日お集まり頂いたのは "エギエディルス殿下" のお祝いーー」
「お前っ!! 名前呼べたんだな!?」
莉奈がハッキリと、しかも初めて自分の事を "エギエディルス" と名前を呼んだ事にエギエディルス皇子は目を見張っていた。
「私は無礼者だけど馬鹿ではないのですよ。エギエディルス殿下」
莉奈は渇いた笑いを、唖然としているエギエディルス皇子に向けた。
「腹回り同様、豪胆だっただけだ」
フェリクス王はクツクツと愉しそうに笑っている。
「なっ!? 本っ当に、黙っていてもらえますかね!?」
莉奈は頑張って被っていた猫を、もう我慢ならぬとばかりに盛大に脱ぎ捨てた。
お祝いだからと真面目に頑張ってやっているのに、茶々を入れると莉奈が頬を膨らませて抗議する。だが、その反応さえ面白いのか、フェリクス王達は楽しそうに笑うのであった。
「で? お祝いって何だよ?」
エギエディルス皇子が、笑いを堪えながら苦しそうに訊いてきた。
「エドが番を迎えたお祝いだよ」
なんだか釈然としないけれど仕方がない。
なかった事にしよう。
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(╹◡╹)




