309 スポンジケーキを作ろう
とりあえず、リリアン組にはメレンゲや卵黄を。新米組には生クリームを泡立てて貰っている。
「他には何をすればイイんだ?」
リック料理長が楽しそうに訊いてきた。
普段ない工程が多いので、お菓子作りが楽しいらしい。
「薄力粉はザルでふるっとく。バターは湯煎で溶かしておく。ケーキの型はないから……小鍋に油を塗っておいて?」
普通はスポンジ生地を焼く用の丸型で焼くんだけど、ある訳がないから、目についた小鍋で代用する事にした。
「小鍋なんかどうすんだ?」
「それを型代わりにして生地を焼くの」
「ふぅ〜ん」
率先して手伝ってくれている料理人が小鍋を手にして訊いた。
まったく想像がつかないから、焼くといっても小鍋を何に使うのかも分からない様子である。
そんなこんなで、一通り材料の下準備は出来た。
ここからが、難しくて楽しい作業だったりする。莉奈はお菓子作りの、この混ぜる作業が1番好きだった。
フェチと言っても過言ではない。ふわふわのクリームを混ぜる感覚と視覚が堪らなかった。
「まずは泡立てた卵黄に湯煎したバターを加えて良く混ぜる。そこに、メレンゲを2回くらいに分けて入れて、さらに泡を潰さない様に泡立て器で混ぜる」
「なんか、このメレンゲのふわふわした感触、堪らないな」
リック料理長が莉奈に教わりながら、隣で口を綻ばせていた。
どうやら、莉奈と同じ感覚みたいだ。
卵黄は泡立てないでそのまま混ぜる方法もあるが、両方とも泡立てた方が、個人的にふかふかになる気がする。
「綺麗に混ざったら、ヘラに変えてさっきふるっておいた薄力粉を、さらにふるいながら何回かに分けてココへ入れる」
「えぇ!? さっきふるったのに、またふるうのか?」
「キメ細かくするために、とことんふる」
それがキメ細かいスポンジケーキにするためのコツの一つでもある。
「3、4回くらいに分けて薄力粉を入れて、泡を壊さないよう丁寧に混ぜる。粉っぽさがなくなって少し混ぜると、こんな風に照りが出てくる。それでスポンジ生地は完成」
混ぜ始めは照りがないんだけど、泡を壊さない様にして良く混ぜると、バターの照りが出てくるのだ。そうなったら生地の完成だ。
溶かしバターは入れなくても別に問題はないけど、基本のスポンジケーキのレシピはとりあえずは押さえないと。
慣れたら、足したり引いたりしてやれば良いと思う。
ちなみに似た様な方法や材料で作る、ふわっふわのシフォンケーキもあるけど、スポンジケーキとは完全な違いがある。
それは、材料にバターを入れるかサラダ油を入れるかの違い。
バターを入れて作るのが、スポンジケーキ。
サラダ油を入れて作るのが、シフォンケーキ。
それが定義なんだけど、昨今の数多くのレシピにはどちらにもバターやサラダ油を入れる物もある。なんならどちらも入れない簡単スポンジケーキなんかも存在するし、もはや厳密な定義なんてないのかも。
ただ、バターを入れると冷やした時に生地が少し固くなるから、重ねたりしても崩れにくい。だから、バターを入れたスポンジケーキはデコレーションに向いていると思う。
「完成って、コレ食べられるの?」
指を咥えたリリアンがジッと見ていた。
莉奈が完成なんて言ってしまったから、勘違いしたようだ。
「 "焼けば" 完成」
莉奈は慌てて訂正した。
さっき焼くって言ったよね? 生だよ、コレ。食べられる訳がない。
「さっき、サラダ油を塗っておいた小鍋に7分目くらい入れて、170度のオーブンで20分くらい焼いたら完……いや、そこから冷やしてから完成?」
もう、リリアンのせいで、どこまでを完成と言って良いのかが分からなくなってきたよ。
だって、焼けば完成じゃないもん。まだやる事があるんだよ。
「先は長いな」
そんな様子を見ていたマテウス副料理長が、苦笑いしていた。
「さてと、スポンジ生地を焼いている間に。ハンバーグを作るとしますか」
莉奈は、まだまだやる事があると、気合いを入れ直した。
「「「ハンバーグ!?」」」
普段1つくらいしか作らない莉奈が本気を出したと、料理人達は驚きの声を上げた。
あの面倒くさがり屋の莉奈が、スゴイやる気だと皆はさらに目を見張り、そしてワクワクするのであった。




