308 卵はどうしようかな?
ーーあの後。
笑顔で固まっていたシュゼル皇子に、莉奈は何が視えたのか訊いてみたが、力のない微笑みを返されただけだった。
はたして、シュゼル皇子に何が視えたのかは、謎である。
◇◇◇
莉奈は1人で銀海宮の厨房に戻ってきた。
エギエディルス皇子は素材と用途を勉強するため、表情に力のないシュゼル皇子と白竜宮に残る様だった。
「「「あ、リナおかえり」」」
厨房に戻ったら、休憩中のリック料理長達が迎えてくれた。
リック料理長を鑑定して視たら、多分こう表記されるに違いない。
〈状態〉
いたって健康。
だが、お腹がぽっこり。
見れば見るほど、イイお腹に育ちましたな。
「リナ、何かな? その不気味な笑みは」
何かに勘付いたリック料理長が、頬を引き攣らせていた。
「皆、大きくな〜れ?」
ククッと莉奈が両腕を広げて意味深に笑えば
「「「ヤメてーー!!」」」
と皆がお腹を押さえて悲痛な叫びを上げていた。
「さて、どうしよう」
莉奈は、エギエディルス皇子お祝いのご飯の続きを作りに戻って来たのだが、悩んでいた。
お祝いと云えばケーキかな? と思った訳だが、スポンジの生地作りに悩んでいた。
「どうしようって、何を作るかで悩んでいるのか?」
マテウス副料理長が訊いてきた。
莉奈の事だから、エギエディルス皇子のお祝いが、まさかあのアボカドサラダだけって事はないだろう。
「違うよ。デコレーションケーキを作ろうと思ってるんだけど、スポンジ生地を別立てで作るか、共立てで作るか悩んでる」
「デコレーションケーキ?」
「別立て?」
「共立て?」
訊いていた料理人達が、一斉に首を傾げた。
デコレーションケーキも分からないが、別とか共とかなんの話なのだろう。
「デコレーションケーキっていうのは、お菓子」
「「「お菓子」」」
「それに必要なスポンジ生地を、卵とかで作るんだけど色々なやり方があるんだよ。だから、まずどのやり方で作ろうか悩んでるの。卵黄と卵白を別々に泡立てるのが別立て。全卵で泡立てるのが共立てっていうんだよ」
「「「へぇ〜」」」
「ちなみに、皆が好きなマヨネーズも卵黄で作った後、泡だてた卵白を混ぜると不思議な食感になるよ」
「なんだと? やらざるを得ないな」
マヨネーズ好きの一部が試しに作ってみるみたいだ。
まだまだ、知らない事や方法がたくさんあるのだなと、さらに莉奈の事を尊敬していたのだった。
「別立てと共立てだと、何か違うのかい?」
リック料理長が疑問の声を上げた。
マヨネーズの時みたいに、泡立てる時に違いが出るのだろうか。
「別立てはふんわり、共立てはしっとり? まぁ、比べないと全く分からないと思う」
シフォンケーキなら断然別立て派だけど。
「比べないと分からないなら、何を悩んでいるんだ?」
「砂糖の問題」
「砂糖?」
ますます分からないと皆は首を傾げた。
「本来、お菓子作りは砂糖よりキメが細かいグラニュー糖っていうのを使う事が多いけど、残念ながらここにはない。普通の砂糖で作ると、スポンジ生地が少しもっさりする」
「もっさり?」
「だから、湯煎をしながら全卵で泡立てる共立てがイイんだけど……」
「イイんだけど?」
「完全に体力勝負」
全卵は、大抵ハンドミキサーでやるのが普通だから。かなりの気合いと体力が必要になる。
「「「あぁ〜〜っ」」」
その説明ですべてを察した皆は、なんとも言えない表情で悲しい声を上げた。
マヨネーズの時にも思った事だが、ものスゴく大変な作業だ。
フェリクス王なら楽勝だろう。
可愛い弟のためなら、スポンジ生地作りに協力してくれるかな?
と莉奈はチラッと思ったが、そんな事のためにフェリクス王を呼んだり出来ない。
「仕方がない、別立てにしよう」
莉奈は諦めた。
完璧な物を作りたいけど、不味い訳ではないからイイよね。妥協も必要だ。
「誰でもイイから卵白に砂糖を加えて、泡立ててメレンゲを作って貰えるかな?」
「あたしがやるー」
リリアンが元気良く手を上げた。
「んじゃ、リリアンよろしく。卵白を少し泡立ててから砂糖は加えてね。それと、後数人手伝ってくれると皆の分もーー」
「「「手伝います!!」」」
「う、うん。なら、卵白組と卵黄組に分かれて泡立ててくれるかな?」
「「「分かった!!」」」
皆の分と言った途端に、ガッツリ食い付いてきたよ。
莉奈は、力が有り余っていそうなリリアンと、他数人にお願いした。
卵白組には砂糖は先に入れない様に教えて、卵黄組には砂糖を入れて泡立てる様にお願いした。
もちろん分量は言っておいたよ。塩を少し加えると泡立て易いんだけど、リリアンがなんかやらかしそうなので黙っておく。
気合いで頑張ってもらおう。
今回、デコレーションケーキは皆の分も作る予定。
エギエディルス皇子のお祝いだからね。皆で楽しくお祝いしたい。もちろん、ケーキはエギエディルス皇子からって事にするよ。




