307 何が視えたのですか?
「おでこのキスくらいで大袈裟なんだよ」
ソファに寝かされている莉奈を見ながら、エギエディルス皇子は呆れていた。
王族にも堂々と立ち向かえる強靭な精神を持っているクセに、あんな可愛らしいキス一つで倒れたのだ。
エギエディルス皇子は普段の莉奈だったら「何をするんだ!」くらい返しそうなモノだと思っていた。
「なら、エドも一度シュゼル殿下にキスされてみればイイ」
「……気持ち悪ぃ」
莉奈にそう言われた瞬間、エギエディルス皇子はものスゴい顔を顰め、ブルっと身震いしていた。
あの破壊力を身をもって知れば分かるだろうと、思ったんだけど、異性でもない上に兄だからね。心底嫌みたいだ。
「だけど、模写出来るなら、始めからそうすれば良かったのにね?」
わざわざ呼ばなくても済むし、シュゼル皇子的にもその方が楽なハズ。
毒の芋虫の時だって、自身の目で視られたのに。
「人権的な問題だろ。勝手に模写するのは気が引けるし、あの瞳をお前には見せたくなかったんじゃねぇの?」
エギエディルス皇子は、兄シュゼルの心情を勝手に想像して代弁した。
自分だったら、莉奈に不気味がられるリスクを犯してまで、模写しないと思うからだ。
「カッコいいのに?」
「カッコいいなんて言うのお前だけだよ」
普通、瞳の色が変わったり、変な紋様が現れれば思わず眉を顰めてしまうものだ。
あんな子供みたいなキス一つで倒れたクセに、あの瞳が全然平気とか、エギエディルス皇子は莉奈の基準が分からなかった。
「リナ、大丈夫ですか?」
エギエディルス皇子とそんな会話をしていると、シュゼル皇子が様子を見に来てくれた。
タール長官とゲオルグ師団長も、もちろん一緒だ。
「大変お見苦しい所をお見せ致しました」
莉奈はソファから降り、ゲオルグ師団長には改めてお礼を、シュゼル皇子には失態を謝罪した。
「見苦しい事など、何一つとありませんよ」
シュゼル皇子はニコリと笑った。
むしろ、楽しんでいる節がある。
「そうそう、リナから模写させて頂いた【鑑定】で先程早速、討伐した魔竜を視ましたが、大変便利で詳細でした。ありがとうございます」
そう言ってシュゼル皇子は、さらに良い笑顔を見せてくれた。
「えっ、あ、視たんですか?」
当然、そうするとは思っていたが、思わず訊いてしまった。
正直莉奈は、呼ばれたはイイが "竜" はあまり鑑定したくなかったのだ。
竜と仲良くなる前なら良かったが、会話もして良い関係である。なんなら番までいる。
そんな竜を鑑定して、万が一、万が一にでも……"絶品" なんて表記されたら、どんな表情で碧ちゃんに会えばイイのか分からなくなるからだ。
「竜が美味しいか、知りたいですか?」
そんな莉奈の心情を知っているのか、シュゼル皇子は人の悪そうな笑みを浮かべた。
「いえ、遠慮しておきます」
「そうですか?」
莉奈は無理に笑おうとして、頬が引き攣っていた。
美味しいか不味いかはともかくとして、竜は【薬】の材料になる生き物だ。もちろん食用表記が出るに違いない。
「知らない方が良い事もありますからね。賢明な判断ですよ」
シュゼル皇子は、ほのほのと莉奈の頭を撫でていた。
「ちなみにですけど、私が模写を拒否した場合はどうするおつもりでした?」
「その時は、竜の鑑定結果を口外しないと書面にサインして貰ってから、視て頂くつもりでした」
要するに、それだけ秘匿案件であるという事らしい。
竜はその昔、誰かの手によって【鑑定】はされていたが、文献が古いため相互確認が必要だったとか。
なら、視ないで良かったかなと莉奈は安堵する。
そんな国家機密みたいなモノを、興味本位で視たくはない。話さないにしても、秘密を知ったプレッシャーは感じるからね。
「しかし、この【鑑定】は面白いですよね? 何にでも口に出来るか否かが表記される」
「そ……うですね」
シュゼル皇子は余程楽しいのか、辺りをキョロキョロしながら言った。
多分だけど、オモチャを得た子供みたいに鑑定を使いまくっているに違いない。
そんな楽しそうなシュゼル皇子とは逆に、莉奈は眉根を寄せていた。
自分の持っている鑑定を面白いと言われると、なんだか釈然としないのだ。
「あ、そうだ。シュゼル殿下」
そんなシュゼル皇子の様子に、フと思い出した事があった。
「なんでしょう?」
「それで、ご自身を【鑑定】して視て下さい」
「え?」
「面白いですよ?」
シュゼル皇子に勧めながら、莉奈は内心ほくそ笑む。
だって、自分以外に掛けて視た事がないから、どう出るのか知らない。だが、きっと莉奈と同様に手厳しい鑑定結果が出るに違いない。
ちなみに、私に【鑑定】を掛けるとーー
〈状態〉
いたって健康。
やっと標準体型……だが、すぐ戻る。
すぐ……戻る。
すぐ…………。
莉奈は試しに自分を鑑定して視て、ドンヨリしていた。
何この手厳しい鑑定魔法。
確かにすぐ戻るかもしれないけど、コレいらなくない!?
急にドンヨリした莉奈に首を傾げつつ、面白そうだと思ったシュゼル皇子は「自分を鑑定ですか、なるほど面白そうですね」と楽しそうに、右手に【鑑定】魔法を掛けて視ていた。
「…………」
視た途端にシュゼル皇子が、笑顔のまま固まった。
誤字脱字の報告、ありがとうございます。
エギエディルスの "ス"が抜けていたとは……。
恥ずかしいを通り越して、衝撃でした。
:(;゛゜'ω゜'):




