304 シュゼル皇子の最強技能(スキル)
解体場は、白竜宮の1階角部屋にあった。
広さはざっと見た所、教室10部屋分くらいはありそうだ。となると、大体だが1階の半分以上が解体場で占領されている計算になる。
両壁は全面棚になっていて、解体した物をトレイに載せたりして、一旦そこに置くみたいだ。
前方の壁には、ほぼ一面大きな窓になっている。これなら、換気も良いし臭いも篭らない。
おまけに、天井にはリゾート顔負けの天井扇〈シーリングファン〉が2台クルクルと回っている。空気の循環は完璧だろう。ちなみに原動力は魔石の様だった。
床は基本的に平らな石だが、所々金網になっていて、厨房みたいに汚れがすぐに洗い流せる仕様に。
作業台は完全な平らではなく、少し真ん中に窪んでいる。大きくて浅い流し台みたいな物と、想像すれば分かり易いかも。
血や体液も、モノによれば大切な素材。一滴も無駄にしない様に、作業台の中央にある穴から下に用意してある瓶や器に、流れて落ちる仕組みになっていた。
ーーで。
今現在、作業台にはドカンと茶色の竜が載っている。シュゼル皇子と真珠姫の倒した魔竜だろう。
「……はぁァァ」
莉奈はまず魔竜の姿に目を奪われ、次に解体場の仕様に目を奪われていた。
すべてにおいて圧巻である。言葉が出ない。
「朝早くから申し訳ありませんね? リナ」
「えっ。あっ! まったく気付かず大変申し訳ありませんでした」
莉奈は近くにシュゼル皇子とゲオルグ師団長、タール長官がいたのに、まったく視界に入っていなかったのだ。
慌てて平謝りをした莉奈だった。
「お前ってそういうヤツだよな」
一緒に来ていたエギエディルス皇子が呆れていた。
一国の宰相がいたのに、視界の片隅にも入らないなんて普通だったらありえない。
「えっと?」
この竜を【鑑定】すればイイのかな? とシュゼル皇子にお伺いを立てる。
昨日の今日で呼ばれた先に竜があれば、そういう事なのかな? と。
「確かリナの鑑定は、食用か否かが分かるだけでなく、その素材の活かし方まで分かるのでしたよね?」
「ん? え、はい」
シュゼル皇子が改めて訊いてきたので、莉奈は何故だろうと首を傾げた。
今さら、確認なんてどうしたのだろう。
「リナさえよろしければ、その【鑑定の技能】を模写させて貰ってもよろしいですか?」
「ふぇ?」
莉奈はほのほのとしたシュゼル皇子の、唐突で突飛な申し出に目を丸くした。
【模写】って何!?
「リナの技能を疑っている訳ではないのですが、口頭で説明されるより実際に視た方が早そうですし。私も使えれば今後、リナの負担の軽減にもなるかと。それに、一個人としてリナの【鑑定】がどのように視えているのか、大変興味があります。リナさえ宜しければ模写させて頂けたらありがたいのですが」
「模写」
莉奈、唖然呆然である。
そんな技能があるのかよ!?
「リナ?」
莉奈が固まっていたので、シュゼル皇子が顔の前で手を左右に振った。
何そのチートな技能!!
最強じゃん!!
シュゼル皇子、やりたい放題出来るじゃん!!
「えっと?」
「シュゼ兄。ダメだわ、コレ」
瞳をキラッキラとさせて、空想の世界に行ってしまった莉奈に、シュゼル皇子は戸惑いエギエディルス皇子はさらに呆れていた。
人の技能を模写させて欲しいと言ったら、普通は怒るものだ。
模写なんて聞こえは良いが、人の技能を掠め取る様なモノ。大抵の人間は拒否したがるし、嫌な顔をする。
だが、莉奈は一瞬驚きはしたものの逆に興味深そうに瞳を輝かせた。想定外でシュゼル皇子も対応に困っていたのだ。
「帰って来いや」
「イタッ」
空想の世界に行っていた莉奈の頭を、エギエディルス皇子がパシリと叩いた。
あぁしたら凄そうだとか、こうしたらとか持ってもいない莉奈が、勝手な想像をしていたら叩かれたのだ。
「だって、エド。模写なんて最強じゃん!! 世界のありとあらゆる技能模写したら、シュゼル世界最強伝説が出来ちゃうよ!?」
そうなったら、シュゼル皇子に敵うモノなんていないと思う。
莉奈は興奮を隠せずに、一人ワクワクしていた。




