294 碧空の君
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アンナに騙され嘆く者達の側で、勝った者達の勝利の試食タイムが始まった。
「うんまーっ!」
「あの出くわすとドキッとする、ブラッドバッファローがすげぇ旨い」
「肉汁堪らん、口の中がスゴイ幸せなんですけど!?」
「アンナ、良くやった!!」
と食べられた者達が至福の声を上げれば、周りで恨めしい声が聞こえる。
「一口でイイからくれ!!」
「その端でイイから!」
「頼む! 俺達は仲間だろう!?」
「「「今は違〜う」」」
莉奈は阿鼻叫喚が聞こえる厨房を後にし、竜の宿舎に行く事にした。
空色の竜に、ご飯をあげなければいけないからね。
ちなみにアンナに後で聞いた話だけど。素材になる皮や牙、角等は全部邪魔だからと、解体したその場に捨ててきたそうだ。
魔法鞄を持ってないから仕方がないんだろうけど、潔いよね?
だって、大金をドブに捨てて、肉を持って帰って来る様なものだもん。
でも、牛肉の女王【シャトーブリアン】まで捨てたのかよ。アンナさんや。
少しガッカリしたのは内緒にしておく。
◇◇◇
「私の部屋にもリボンが欲しい」
約束したご飯を持って莉奈が竜の宿舎に着けば、開口一番空色の竜にそう言われた。
どうやら、あれからゲオルグ師団長の番の部屋をじっくり観察してきた様だ。
「付けすぎても下品になるよ?」
すでにたっぷりのレースで飾り付けしてある。これ以上は逆にゴテゴテして品が無くなる。
「でも、リボンが欲しい」
余程気に入ったのか、引き下がる気がない。
「なら、入り口に一個だけ飾ったら?」
「飾ったら? 何故、他人事なのですか。私が飾れる訳がないでしょう?」
「ハイハイ。暇な時に付けといてあげるよ」
番に睨まれ、渋々返事をした莉奈。
竜って意外と面倒くさいんだなと、ため息が漏れた。
「……っ! 何ですかソレは!?」
番と話しながら階段を上り、餌(ご飯)の台にフルーツの盛り合わせを置いた莉奈。
それを見た番は目を見張り、徐々に口を綻ばせていた。
「フルーツの盛り合わせ」
「そんな事を訊いているのではありません!! この花も果物ですか?」
「果物だよ」
番はフルーツの盛り合わせを見て、歓喜の声を上げていた。
そうなのだ。莉奈はただのフルーツの盛り合わせではつまらないだろうと、一部飾り切りをしたモノも乗せていた。
リンゴやバナナ、パイナップル等、以前シュゼル皇子から貰った果物に、少しだけ手を加えて葉や薔薇に似せていたのである。
もちろん、本物の好きな花々も飾り付けて盛ってある。だから、いつもの味気ない果物が華やかに見えたのだ。
「やはり、あなたを番に選んだのは間違いではなかった」
ピュルル〜と口笛を鳴らし、番の竜はご機嫌の様子だった。
本当に調子が良いなと、莉奈は階段を降りながら苦笑していた。
「あ、そうだ。名前……じゃなかった、呼び名の件だけど」
「 "からあげ2号" とかだったら噛む」
「からあげ2号な訳ないでしょう!?」
何を言っているのかな?
空色の竜が変な事を言ってきたので、莉奈は思わずツッコミを入れてしまった。
大体、ゲオルグ師団長の番は "からあげ" ではない。
「なら、何なのです?」
そう言って、疑りの目を向けてきた。
そんなに信用出来ないのなら、自分で好きに呼ばせればイイのに。
「 【碧空の君】 」
青空を意味する "碧空" 。
君は主とかの意味合いもあるけど、〜の君って付けると響きがキレイかなと、付けてみた。
本当はうちの子にも姫とか、可愛いのにしたかったけど、付けたら真珠姫が黙ってなさそうだ。
だからといって、嬢を付けるのもピンとこないし。これでも頑張って考えたんだよ。
ピュルル〜ルル〜。
空色の竜こと、碧空の君が可愛らしく鳴いた。
良かった、どうやら気に入ってくれたみたいだ。
「まぁ、実際には碧ちゃんって呼ぶけど」
だって付けといてなんだけど、呼びづらいからね。
「それでもイイ。気に入りました」
「良かっ……痛い痛い。ジョリジョリしないで」
スリスリと碧空の君に擦り寄られ、莉奈の皮膚が悲鳴を上げる。
犬や猫みたいに、竜の表皮は毛で出来てはいないのだ。防具に最適な硬い鱗。擦り寄られて気持ち良い訳がない。
「やめろ〜」
それでもご機嫌な碧空の君は、莉奈が殴るまでジョリジョリと続けるのであった。




