291 ブラッドバッファロー
もう、笑いが止まらない。我慢出来ずに顔からは、笑顔が溢れに溢れまくっている莉奈。
「アンナ」
「なぁに?」
「コレ、"全部" くれるのかな?」
「あげるよ? だってしんゆーだもんね?」
「ん、あ、そうだね? しんゆーだアンナ!!」
そう言うと莉奈とアンナ2人はハイタッチしたり、抱き合ったり笑いながらクルクルと回っていた。
「「「…………」」」
料理人達は妙なテンションの莉奈とアンナに、ドン引きしていた。
その肉はアンナが "買って来た" ではなく、"獲って来た" と言うのだから、それは紛れもない魔物の肉。
なのに、この騒ぎ。一瞬、頭がどうかしてしまったのかと、皆は顔を見合わせていた。
「アンナ、今日は特別に食べたい物を言えば作ってあげるよ」
莉奈のテンションは上がりに上がり、アンナに何でもしてあげたい気分だった。
「本当!?」
アンナは嬉しそうにしていた。
そして、どうしようかな〜どうしようかな〜と悩んでいる。
急に言われても、何を作って貰おうか決まらないみたいだ。
「とりあえず、リナに任せる!!」
結局は悩んでも決まらず、莉奈に任せる事にした。
莉奈の作る物なら、何でも美味しい。なら、決めるより何が出てくるか、楽しむのもアリだと思ったのだ。
「任せたまえ!!」
◇◇◇
莉奈はもう誰にもやらんとばかりに、使う肉以外をすべて魔法鞄にしまった。
見える所にあると絶対に集られると、経験が語っていたからだ。
「リナ、お前……今、絶対【鑑定】使ってただろう?」
「結局、何の肉なんだソレ」
「やっぱり魔物の肉か!?」
「魔物の肉なんだな?」
「そして食べられるんだな?」
怪訝な顔をしていた莉奈が、ジッと肉とにらめっこをしていたかと思えば、急に歓喜に沸いたのだ。
絶対に鑑定で食用と出たに違いないと、皆は確信した。
莉奈は皆が注目、いやガン見している中、鼻歌交じりに調理し始めた。
エギエディルス皇子に作ってあげたい、ハンバーグは今度に作るとして、今は絶対にステーキが食べたい。
肉をガッツリと言ったらステーキか、焼き肉でしょう? 私は今、肉にカブりつきたいのだ!!
ヨシ。贅沢にサーロインステーキとカルビの焼肉の2種類作ろう。
食べた事のないサーロインステーキとカルビだ。絶対、アンナも喜ぶに違いない。
時間があるなら、ローストビーフも作りたいところだけど、今すぐ食べるのなら断然にステーキだ。
サーロインはTVで見た様な脂の編み目、サシが入っている。カルビはほんのり脂がのっていて、これまた美味しそうな肉だ。
自分用とアンナの分。それと、忘れずに王兄弟と執事イベールのも作る事にする。
とりあえず、はやる気持ちを落ち着かせながら小鍋にお湯を沸かしておく。
付け合わせのニンジンとブロッコリーを茹でるためだ。
バットに準備しておいた肉には、塩胡椒を振りかけておく。
さて、次は牛脂の代わりに牛肉にこびりついていた脂身とオリーブ油をフライパンに。
そして火を点ける前に、スライスしたニンニクを入れた。ではスイッチオン!!
フライパンを斜めにして、ゆっくり焦がさない様にニンニクを揚げ焼きにする。
ニンニクがジワジワと揚がるにつれて、厨房には食欲をそそるイイ匂いが広がり始めていた。
程良く揚がったニンニクと脂身は小皿に取り除き、片方のフライパンにはサーロインを、もう片方のフライパンにはカルビを投入。
ジュウッ。
フライパンに肉が焼ける心地良い音色が、莉奈達の耳を襲撃していた。
その音と肉の焼ける堪らん匂いに、食堂では待てなかったアンナが、ヨダレを垂らしながら莉奈の近くに来ていた。
「アンナ、お湯が沸いたからーー」
「ニンジンとブロッコリーは茹でておけばイイんだな?」
アンナに頼もうとしたのだが、やる事が分かったのか匂いに負けた料理人サイルが、率先して手伝いをし始めた。
一口大に切ったニンジンとブロッコリーを、沸いたお湯に投入している。おこぼれが貰えるかもと、ほのかな期待もこもっているに違いない。
「固めに茹でて」
「アイアイサー!!」
下心しか見えないサイルに苦笑しつつ、茹で加減を言っておく。
「リ、リナさん? 何かお手伝いしましょうか?」
「お皿のご用意しておきました!」
「カトラリーの用意もOKです!」
誰も分けるなんて言ってないのに、他の料理人達も皿やらナイフやら並べ始めていた。
「魔物の肉に抵抗はないの?」
あれほど、瘴気がどうたらこうたらと言っていたのに、莉奈が作り始めたら魔物かもと勘付いていながらこの様子だ。
莉奈は苦笑いしか出ない。
「ウマければイイんじゃね?」
「ロックバードで魔物が美味しい事は知ったもの」
「赤の他人なら不安しかないけど、リナだもんな」
「「「美味しいに決まっている!!」」」
サイルだけではなく、全員が大きく頷いた。
ハハ……妙な信頼度に莉奈は、再び苦笑いが漏れていた。
◇◇◇
さて、サーロインステーキ肉は両面が焼けた。
だけど、これで出来上がりではない。
ウェルダンにしたいのなら、このままフライパンにしばらく置いとけばしっかりと火が通る。
でも、ミディアムレアにしたい莉奈は、肉をバットに取り出して油紙を被せ、その上からふわりと布巾を被せて置いた。
アルミホイルがあれば、それで包んでしばらく置けばOKなんだけど、ないから代用したよ。
カルビはさっと焼いて、お皿に盛ったら魔法鞄にしまっておく。
「え? 出来上がりじゃないの?」
指を咥えて待っていたアンナは、ションボリしていた。出来上がったと思っていたみたいだ。
「少しだけこうやって肉を落ち着かせると、肉汁が逃げなくて美味しいんだよ」
莉奈がそう言うと、アンナも皆も生唾をゴクリと飲んだ。
「さて、その間にニンジンとブロッコリーの添え物を作ろう。アンチョビってある?」
アンチョビとは、アンチョビーっていう小魚の塩漬けだ。
長期保存のために油に漬けてある事が多い。
発酵食品だから苦手な人もいる。
「アンチョビ? あぁ、油漬けならあるよ」
訊いたら、あるみたいで見習いの料理人が持って来てくれた。
貰ったアンチョビは缶詰ではなく、瓶詰めでなんだか高級感がある。
缶だったらフタを開けてネギとか好きな薬味をのせて、チョロッと醤油を垂らして、直火かオーブンでそのまま焼いて酒の肴に出来る。
立ち飲み屋とかでもある、簡単で美味しい酒の肴になるのだけど、そもそも醤油ないし残念だ。
「ありがとう。じゃあ、ニンニクとアンチョビ、ハバチョロを微塵切りにして、オリーブオイルを入れ炒める。少し炒めたところに、固茹でにして貰ったニンジンとブロッコリーを投入。で、塩胡椒を軽く振って2、3分炒めればピリ辛ガーリック炒めの出来上がり」
莉奈はササッと作り、ソレを平たいお皿に盛ると、皆の味見の分も渡した。
コレもピリッとしていて、お酒には合うけどね。
ちなみにハバチョロとは、唐辛子の一種で同じく辛い。タバスコの材料にもなっているとか。
パスタがあったら、ペペロンチーノが作れるのにと思う莉奈だった。
さて、ステーキも食べやすい様に切って、試食といきますか!!




