288 ゲオルグ師団長の竜の部屋
朝食を食べていた時、ラナ女官長とサリーにゲオルグ師団長の竜の部屋の改装を、手伝ってもらおうと頼んでみたのだけど、全力で断られてしまった。
竜はこの国の護り神的な存在だとしても、風貌は怖いみたいだった。何もしてこないと、分かっていても視線を感じるだけで畏れ慄いてしまうらしい。
ゲオルグ師団長を見ていると、白竜宮の人達より侍女の方がセンスがあるかな? と思ったのだけど、そう言うなら仕方ないよね。
莉奈が白竜宮に行こうとしたら、エギエディルス皇子が頼み事をしてきた。
「俺の番の部屋も決まったら、なんか飾ってやってくれ」
「イイけど、あれ? 女の子だっけ?」
エギエディルス皇子の竜はオスだった様な気がする。
「男、オスだよ。だけど、お前の番の部屋を見ていたらなんか飾ってやりたくなってきた」
自身も番を持った事で、何かしてやりたいと思ったみたいだ。
「アハハ、そっか。ところでその子どこにいるの?」
「俺の宮の屋上」
「あ、じゃあ、私の宮から見られるかな?」
莉奈のいる碧月宮とエギエディルス皇子の宮は、同じ5階建てで割と近くにある。高さが同じなら見られるかもしれない。
まぁ、歩いて20分が近いかは別だけど。
「いれば見られるんじゃねぇの?」
ずっとそこにいる訳ではないから、見られるとは限らないそうだ。でも、姿が見られるのは楽しい。
時間があったら、屋上から見てみようかな。
◇◇◇
「おおっ! リナ。良く来たな」
エギエディルス皇子と別れ、白竜宮に来てみれば、ちょうど廊下でゲオルグ師団長に出会った。
両手を広げ、さぁ来いと待ち構えている。
え? 飛び込まないよ?
「あ、ジュリアさんから言伝がありますよ」
「こ、言伝?」
言伝と聞いて何故か顔が引き攣るゲオルグ師団長。
なんで顔が引き攣るのかな?
莉奈は魔法鞄から例のナイフを取り出した。
「浮気をしたら、ブスリとやってくれって」
「……」
ゲオルグ師団長、顔面蒼白で彫刻の様に固まった。
たまたま通りかかった人達は、莉奈の持つナイフに目を見張り足早に去って行った。どうやら、見なかった事にしたらしい。
「愛されていますね?」
「愛……愛か、愛だな」
少しばかり……いや、大分重いけど。
莉奈は内心そう思いながらニッコリと笑った。
ゲオルグ師団長はさらに顔を引き攣らせながら、自分に言い聞かせる様に呟き、空笑いしていた。
「それはそうと、ゲオルグ師団長の番の部屋を改装しようと来たんですけど、見せてもらってもいいですか?」
「あ、あぁ、白の竜の隣の宿舎だ」
莉奈が本来の目的を言えば、ゲオルグ師団長は気を取り直した。
どうやら自身の竜の宿舎まで案内してくれる様である。
莉奈は案内されながら、街に出た時にアーシェスの所で紫の鱗を換金して、レースとか装飾品を買ってくれば良かったなと後悔していた。
街は初めてだったし、フェリクス王と一緒で舞い上がってたしで、すっかり忘れていた。
エギエディルス皇子と行く機会があったら、その時は竜のために買っておこうと、心に留めておく。
「なんか……したの? コレ」
ゲオルグ師団長の番の部屋を見た莉奈は、唖然とした。
何かが暴れた様な跡がある……って、竜の部屋なんだから、暴れたのは竜なんだろうけれど。
小さい頃に飼っていた犬が、遊んでぬいぐるみやクッションを噛んでいた事があったけど、そんなの比じゃなかった。
あれは、可愛いものだった。竜が暴れれば、冗談ではなく街が滅ぶ。
壁や床や柱は無事だったけど、何かの残骸がアチラコチラと散らばっている。
壁や床が無事じゃなかったら廃屋だ。
「置いた家具が気に入らないと、その日に破壊された」
「あ、そう」
なんで家具なんか置いたかな?
置く方も置く方だけど、破壊する方もどうかと思うよね。莉奈は渇いた笑いが漏れていた。
私のリノベーションも気に入らなかったら、破壊されるのかな?
「ちなみに、片付けてないのはナゼかな?」
「散らかしたのは、私ではないからな」
「……」
え、自分で片付けろって?
竜に何を言ってるのかね。ムチャクチャだよ、この人。
「人員と材料は用意する。好きにしてくれ」
ゲオルグ師団長はそう言って笑うと、呆れている莉奈を残し仕事に戻って行ったのであった。




