283 エショデとフワス
どうしようか悩んでいたら、フェリクス王に見つかった。
早く来いと視線で促され苦笑いする莉奈。
「ですよね~」
"何なのあの女" という視線を背中にガンガンと受けながら、渋々向かう莉奈。
妬みと嫉み、色々な感情がナイフの様に突き刺さっていた。
足早に歩き出したフェリクス王の後を、莉奈はパタパタと慌てて追いかける。
「高みの見物とはイイ度胸してやがる」
「したくてしてた訳じゃないんですけど?」
「あ゛?」
「ファンに囲まれていて割り込みづらい?」
「何がファンだ。アホ」
女性陣から大分離れたのを確認すると、フェリクス王は速度を弛めた。
「何が可笑しい?」
「いえ、なんでも」
一緒に歩いていて思ったが、フェリクス王はやっぱり優しい。
彼が普通に歩けば確実に莉奈となんて合わないだろう。だが、莉奈の歩く速度にちゃんと合わせてくれている。無意識か意識してかは分からないが、どちらにしても優しい。
そう思ったら莉奈は思わず笑みが溢れていたのだ。
街を一緒に初めて歩いて、フェリクス王が女性に人気があるのは良く分かった。スレ違う女性はもれなく彼に見惚れる。
王城にいたら全く分からなかった事だ。そして、基本的にフェミニストだという事も知った。
日本でいうところの車道、馬車通り側は常に自分が歩いているし、莉奈が人にぶつかりそうになれば自然な仕草で引き寄せる。
見た目だけでも堪らないのにコレだもの。モテない理由がない。
◇◇◇
フェリクス王が足早に向かったのは、公園だった。王城の中庭と比べたら断然狭いが、整備された綺麗な公園である。
遊具らしい物は1つも見当たらない。真ん中に大きな噴水があり森林浴をする様な場所の様だ。その噴水近くにあった木のベンチに、2人は並んで座っていた。
「んーっ?」
莉奈は早速とばかりに、先程買ったお菓子の1つ "エショデ" にかぶりついた。
大きさは煎餅程だが、食感は煎餅とは全く違うし、クッキーの堅さとも違う。漫画だったら、噛んだ瞬間バキッかボキッとした擬音が出ているに違いない。
「ウマくねぇだろ?」
隣でフェリクス王が笑っていた。
「スゴい堅くて……しょっぱい」
堅い上にカラッカラに乾燥している。お煎餅みたいに良い塩梅ではなく、ものスゴくしょっぱいお菓子。
なんて言ってイイか分からないけど、塩だけかけて焼いたピザの生地を、さらに一晩部屋に置いといた感じ?
おまけに、口の中の水分は全部持っていかれる。
莉奈は正直一口だけで、もういいやと思った。
「陛……フェ、フェリクスさんも飲みますか?」
喉が渇いたので莉奈は、魔法鞄から瓶を2つ取り出した。そのうちの1つをフェリクス王に渡すと、自分の瓶のコルクを抜きゴクゴクと飲んだ。いつでもどこでも飲める様に、ガラス瓶に紅茶や水を入れて持っているのだ。
「何だよコレ?」
「紅茶ですよ」
「お前……」
なんでそんな物を入れているんだと、受け取りながらも呆れていたフェリクス王。
莉奈の魔法鞄の使い方は、予想外だらけだ。
そして、飲んでみればキンキンに冷えていて美味しかったので、フェリクス王はぐうの音も出なかった。
「んー?」
フワスも一口かぶりついた。
これは、手のひらくらいのサイズで、やはり丸っこい。ナンよりも少し堅め。そして、やはり塩味だった。さっきのエショデよりは良い塩梅だが、もう口が塩味は求めてない。
ただ何かの香辛料が練り込んであるのか、塩辛いだけではなく複雑な味だ。黄色なのは、サフランの色の様である。
そして、こちらも小麦粉で作られていて、薄くて固いパンかナン? 説明の難しい食べた事のない不思議な味だった。
「食べますか?」
今さら過ぎるけれど、1人で食べているのも失礼かと差し出してみた。甘くはないし、食べるかな? と。
「……」
フェリクス王は片眉を上げた。
「あっ。すみませーー」
食べかけなんて失礼極まりなかったと、慌てて手を引っ込め様とした。だが、フェリクス王にその手を掴まれると、手ごと引き寄せられパクリと、フワスを一口食べられた。
「あぁ、こんな味だったな」
莉奈の食べかけを、気にもせずに食べたフェリクス王。ものすごく久々に食べたその味に渋面し、すぐに口を紅茶で洗い流していた。
「……っ」
莉奈は、ボッと顔が火照っていた。
思わず弟や家族にするノリで言ってしまったが、フェリクス王がそんな行動に出ると思わなかったのだ。
握られた手が熱いとか、今のは間接キスではないのか……とか今さらながら気付き、莉奈は頭がショートしかけていた。
そんな莉奈を見ていたフェリクス王は、面白そうに口端を上げた。
自分から食べる様に勧めて、恥ずかしそうにしているからだ。普段まったく女性らしくない莉奈が、妙なところで見せるウブな仕草や態度が、可愛いと笑っていたのだ。
「〜っ! か、帰ろう!! そうだ、帰らねばならん!」
隣で面白そうに見つめられ、いよいよ恥ずかしくなった莉奈は、勢いよく立ち上がった。
どうしていいのか分からなくて、ジッとしていられなかったのだ。とにかく走り出したい気分だった。
そんな莉奈を見て、ますます笑うフェリクス王なのであった。
◇誤字脱字の報告ありがとうございます。
お恥ずかしい誤字もあり、穴があったら入りたい。
アナはドコ〜! ヽ( ̄д ̄)ノ=3+3=6




