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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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280/677

280 リナが城下町に行った頃



 ―――その頃の王城。銀海宮では―――




 慌ただしく夕食の準備に掛かっているリック料理長達。

 莉奈が中庭で焼き鳥をモクモク焼くものだから、その煙りと同時に王宮にいる者達から王城の皆に、焼き鳥の存在はあっという間に広がってしまった。

 おかげで本日の夕食は焼き鳥となり、軍部や魔法省の料理人に作り方の説明をした後、大量の仕込みに追われている。


 そんな彼等の元に「リナはいるか?」と、エギエディルス皇子の可愛らしい癒しの声が響いた。

「あれから、戻って来たか?」

「いえ、まだですよー」

 厨房では、そんな答えが返ってきた。

 ならばと【碧月宮】で尋ねてみれば、侍女達からも「戻られておりません」との返答が返ってきた。



「どこに行ってるんだよ。あのバカ」

 2度も肩透かしを食らい、若干不機嫌気味になるエギエディルス皇子。

 いつもいる銀海宮の厨房にも部屋にもいない。竜の所かと考える。しかし最近 "魔法" を真面目に教わり始めたと、魔法省のタールから話を聞いていたのを思い出した。だとしたら、タールの所かもしれないとエギエディルス皇子は思い直した。

「あーっもう! ジッとしてろよ!」

 エギエディルス皇子は、堪らず声を上げた。

 部屋で大人しくしていれば、こんな苦労しないのにと。だが同時に、部屋で静かにしている方が気持ち悪いなと、失礼な事を考えていたのであった。



「エギエディルス殿下」

 とりあえず、先に竜のいる白竜宮に行こうとした時、廊下でラナ女官長にスレ違った。

「ラナか」

「いかが致しましたか?」

「リナを探している」

 ラナ女官長なら、ひょっとして知っているかとエギエディルス皇子が訊ねた。

 白竜宮か黒狼宮だろうと想定する。だが、次の瞬間エギエディルス皇子の耳には予想していた答えとは、違う答えが返ってきた。


「リナなら、陛下とリヨンに向かわれました」

「あ゛?」

「城下町リヨンに」

「……」

 エギエディルス皇子は絶句した。

 兄王と城下町リヨンに行っている事を知らなかったからだ。いくら捜してもいる訳がない。王城にすらいなかったのだから。

「……ない」

「は?」

「俺は聞いてない!」

 エギエディルス皇子は吐き捨てる様に言った。

 全く聞いていなかったからである。

 リヨンに行く事は勿論、兄フェリクスが連れて行く事もである。

「で、殿下の勉学の邪魔になるかと、お伝えしなかったのでは?」

 ラナ女官長は焦った様に、言い訳を探した。

 まさか、エギエディルス皇子に黙って行ったとは思わなかったのだ。

「……」

 ラナ女官長の言葉など、全く耳に入らないのかエギエディルス皇子は悔しそうに拳を握っていた。

「……たのに!」

「殿下!」

 エギエディルス皇子は小さく呟くと、ラナ女官長の脇をすり抜けて走り去ってしまった。



 小さくなるエギエディルス皇子の背中を、心配そうに見つめていたラナ女官長。



『俺が連れて行ってあげたかったのに』



 聞き間違いでなければ、エギエディルス皇子は確かにそう呟いていた。

 その言葉を聞き、ラナ女官長はもしかしてと考える。



 エギエディルス皇子は自分が置いていかれた事よりも、兄が莉奈と黙って2人で出掛けた事がショックだったかもしれない。

 そして……"自分が最初に" 莉奈を街に連れて行きたかったのでは? とラナ女官長は察した。



「ど、どうしましょう!?」

 ラナ女官長はオロオロとしていた。

 フェリクス王はすぐ戻るつもりだから、何も伝えなかったのかもしれない。そこには何の意図もないだろう。

 だが、エギエディルス皇子にしたら、何故一声かけてくれなかったのか。

 フェリクス王が1人で行くならともかく、莉奈を連れて行った。初めて行く街を一緒に仲良く散策している。その事が何よりショックなのかもしれない。

 エギエディルス皇子は自分でも気付いていないが、莉奈の1番になりたかったのでは? 

 そして、兄王に出し抜かれたと思ってしまったのだろう。



「あぁ。早く帰って来てよ、リナ!」

 そんなエギエディルス皇子に同情し、いたたまれなくなってしまったラナ女官長は、再びオロオロとしていたのであった。






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