28 鶏コンソメ
まだスープが出来ませんでした。
あれー?
下茹でした鶏の骨……鶏ガラを今、リック料理長と二人で無言で掃除しています。
出会った経緯とか、色々訊きたくもあったが、なんかラナ女官長の視線が"余計な事、言うなよ?"って言ってるみたいで何も言えない。
もう、コレだけで尻に敷かれてる感じがプンプンしますな。
怖くて言わないけど……。
周りにこびりついた、汚れやアクをキレイに取ると、莉奈はその鶏の骨を寸胴鍋に戻し水を入れた。
「……骨なんか、キレイにしてどうすんだ?」
骨を洗う人間を初めて見たのか、エギエディルス皇子が眉宇を寄せる。
「煮込むの」
「……ゴミをか?」
知らない人間から見たら、確かにゴミをキレイにして煮てる……と思われても仕方がない。
「……ゴミじゃなくて、鶏ガラね。煮込むと鶏コンソメが出来るよ?」
鶏ガラスープも鶏コンソメも、臭み取りに何を使うか、何を足すか引くかで似たようなものだ。
莉奈は、コンソメにしようと、玉ねぎの皮を剥いて数個丸ごとポイポイ入れる。
「コンソメ……?って、お前玉ねぎ まんま入れんのかよ」
「入れるよ?人参も皮ごと入れるし、セロリだって葉ごと入れちゃうよ?」
莉奈は、躊躇なく軽く洗っただけの野菜を、丸ごとポイポイ鍋に入れた。
日本酒的な、お酒があったら入れたい処だが……まぁ、訊くのも面倒なのでなくていいかと、適当に見つけた白ワインをカップ1杯いれておく。
「……お前……マジでなにしてんだよ?」
端から見たら、いい加減ともいう莉奈の行動に、エギエディルス皇子はますます怪訝そうだ。
というか、ここにいる全員がそう思ってるに違いない。
「何って、鶏コンソメ作ってるって言ったでしょう?」
「聞いたよ! だけど、鶏の骨入れて野菜丸ごと入れて出来んのかよ?」
「出来るよ?」
だって、こういう物だし。むしろ、他に作り方知らないし。
なんだったら、面倒だから顆粒かキューブ買ってきたいぐらいだ。
「……バカにしてる……とかじゃないだろうな?」
「こんな盛大になんてバカにしないから……。っていうかエド食べなきゃいいんだし、気にしなきゃいいじゃない?」
だれも、作るとは言ったが、振る舞うなんて言った覚えはない。
「…………っ」
エギエディルス皇子も、そう思ったのか押し黙った。
「……で、後はどうするの?」
ラナ女官長が代わりに訊いてきた。
「えーと、後は弱火で3・4時間ぐらい煮る。終わり」
「……え? そんなにソレ煮るの?」
とラナ女官長。"ソレ" と言ってる辺り、彼女もゴミを煮てどうするの? と思っているのかもしれない。
「煮るよ?……ちなみに骨の代わりに丸鶏入れて1日煮れば白湯スープが出来るよ?」
クソ面倒だからやらんけど。
「「「…………」」」
想像もつかないのか皆黙っている。
「えっと……その間ずっと、コンロ占領しちゃいますけど大丈夫ですか?」
今更だけど、一応了承を取っておこうと思ったのだ。
「あー……大丈夫ですよ?なんでしたらコレ見ておきましょうか?」
とまで料理長が言ってくれた。
「ありがとうございます! お願いします」
ここに長居しても邪魔なだけだ。リック料理長の好意は素直に取るに限る……と莉奈はお願いする事にした。
もちろん、ちょいちょいアクを取ってもらう事は、忘れずに伝えておく。
「では、3時間後に……お邪魔しました」
怪訝そうに見ている料理人達を横目に、莉奈は御辞儀をし厨房を後にするのであった。




