276 リナは意外と……。
しかし、武器や防具が色々とある。
剣だけでも、短剣や長剣と様々で何十種類とあるだろう。日本の自分の部屋に飾ってある短剣と、同じ形の武器もある。ポピュラーな形なのかもしれない。
「さっきからダガーやショートソードばかり見てるけど、興味があるの?」
少し驚いている様子の店主ことアーシェスが、ゆっくりと歩み寄って来た。
興味本位にしろ何にしろ、女性がこんなに瞳をキラキラさせて、武器や防具に魅入っているのを初めて見たのだ。
連れのフェリクス王に合わせて、仕方なく見ているフリをしているのではと思ったが全然違った。本気で莉奈自身が興味があるのが見てとれた。
「似たのが家にありますからね」
武器に集中しきっていた莉奈は、思わずポロリと漏らした。
レプリカと比べると、やっぱり本物の方が断然精巧で綺麗だと思う。芸術品として飾る理由も分かるなと、ため息が漏れた。
「家にあるのかよ?」
「は? やっぱり護衛なの!?」
何も知らないフェリクス王と店主は、莉奈の言葉を聞き瞠目していた。
護衛ではないと言った莉奈の家に、何故武器があるのか。やはり、タダ者ではないのかと店主アーシェスは一瞬思い、頭を振った。
タダ者でないのなら、同行しているフェリクス王が知らない訳がないからだ。なのに彼も同様に驚いている。さっぱりと分からない。
「あ、えっと。レプリカですけど」
本物ではないですよ? と強調する。
あっちの世界にしろ、こっちの世界にしろ、普通の一般家庭に短剣は飾ってある訳がない。その事に驚かれているとやっと気付いた莉奈は、返答がしどろモドロになっていた。
「……」
それを聞いたフェリクス王はさらに瞠目していた。
レプリカにしろ武器まで持っているとは思わなかったのだ。何ヵ月か一緒にいて、莉奈を知ったつもりでいたが、まだまだ序の口だったと改めて感じたのである。
「ねぇ。あなたが持つなら短剣より、こっちのダガーの方がイイと思うわよ?」
お飾りとしての興味でないと分かった店主は、莉奈にダガーを勧めた。
短剣より少し短い、だがナイフよりは長い20cm程の剣である。
「持つ予定はありませんけど……使いやすそうですね」
勧められたダガーを持てば、莉奈の掌に柄がピッタリと収まった。慣れないから重さはかなりある様に感じるけど、包丁を持つ様に手に馴染んで持ちやすい。
「ちなみにですけど、ナイフやダガー、短剣の違いって何ですか?」
莉奈は見ている内に疑問が湧いたので、素直に訊いてみた。
当然、刃の形や柄の形は各々違うけど、ダガーと短剣では同じ装飾で変わりのない物もある。ナイフとダガーなんて素人が一見したら、まったく違いが分からないのだ。
「……」
アーシェスは少しだけ驚き、小さく笑っていた。
この年齢の少女が、武器の事を本気で知りたいと思っている。それが、なんだか珍しくて可愛らしいなと思ったからだった。
「厳密な定義はねぇが、基本的に "ダガー" は刃渡り30cm以下。それ以上のを短剣、ショートソード」
アーシェスが莉奈に興味を持ったのを、なんとなく察したフェリクス王が説明に入った。
自分でも正直良く分からない。だが、初めて会ったアーシェスに興味を持たれるのが、少し気に入らなかったのだ。
「ダガーとナイフの決定的な違いは、刃の厚さだ。ナイフの刃よりダガーの刃の方が少し厚くなっている」
「あっ、本当だ」
ダガーや短剣等を手に違いを詳しく聞き、莉奈は大きく頷いた。
言われてみれば、短剣とダガーでは長さが違う。ナイフとダガーは長さは変わらないが、確かに比べると刃の厚みが違った。
ナイフの刃は数ミリと薄く、ダガーは剣の様に厚めの刃をしているとの事だった。明確な決まりはなく、造り手の意向で名が付く事も多いそうだ。
普段聞かない話を色々と教えてもらい、莉奈は楽しくて仕方がなかった。
「あなた……面白いわね?」
そんな莉奈を見ていたアーシェスは、久々の感覚を思い出していた。
冗談でなく武器の話を真面目に、そして楽しそうな莉奈を見ていたアーシェスは、ますます興味を惹かれたのだ。
フェリクス王と初めて逢った時も、こんなワクワクとした感覚だったな……と。
「……はぁ? どうも?」
自分の事を「面白いね」と言われても全然嬉しくない莉奈は、複雑な表情である。
どうして、どいつもこいつも "面白い" とか言うのかな?
「アハハ!!」
莉奈のそっけない返事に、アーシェスはますます面白いと笑い始めていた。
自分にここまで興味のない人間は初めてだったのだ。
恵まれた容姿のおかげか、もれなく男も女もすり寄ってきた。興味を持つのが普通だったのだ。
だから、自分にすり寄る女性がウザったいのと、武器に興味もない恋人を連れて来るから、この店は自然と女人禁制となっていた。
フェリクス王も所詮そんな輩に成り下がったかと、初めはガッカリとしていたが、蓋を開けて見ればまったく違った。
"普通じゃない" と言った彼の意味が良く分かる。
自分にすり寄らないのもそうだし、武器に興味のある事にも驚いた。そして何より、自分の奇抜な服装や口調を聞いても、嫌な顔や変な表情を一切しなかったのだ。
莉奈の瞳は、異質や奇妙なモノを見る好奇な目でなく、自身の姿をすんなり受け入れてくれた目だった。
それが、アーシェスにはものスゴく心地良かったのだ。




