274 フェリクス王の小さな苦悩
赤茶色のレンガ造りの街並み。街道は石畳だ。しっかりと整備されている。だけど、どこも似た様なレンガ造りで、フェリクス王がいなかったら絶対に迷子になる自信しかない。
「あれ? 武器屋は?」
莉奈はおかしいなと辺りを見た。
ここは洋服や小物が売っている、ショッピングモールみたいな感じで、武器が売っていそうな気配は一切しないのだ。
隠れ蓑として混じっているのだろうか?
「お前、マジで武器屋にしか興味ねぇの?」
そんな莉奈に、一瞬呆気にとられたフェリクス王。
こんなんでも一応女だと思い、自分にはまったく興味のない女性物の洋服やアクセサリー店が並ぶ通りに、わざわざ来たのだ。
なのに、見向きもしないとか肩透かしもイイところだった。
「え?」
どういう事? と首を傾げた莉奈。
「んん~?」
フェリクス王に呆れる様に見られ、莉奈はどういう事なのだろうとさらに首を深く捻った。
「お前……」
自分がどうしてココに連れて来たのか、本気で分かっていない莉奈にフェリクス王は唸る。
おしとやかとはほど遠い……いや、無縁と言ってもイイ莉奈だが、一応性別は女だ。だから、洋服店や小物が売っている雑貨店にも、当然興味があるだろうと連れて来たのだ。
なのに、開口一番に「武器屋は?」だ。
フェリクス王は、莉奈の "取り扱い説明書" が欲しいと本気で思い始めていた。
ショッピング<武器屋
どうなってやがるんだ? と再び唸った。
今まで接してきた女と同じ扱いをしても、コイツには何も響かない。服やアクセサリーに釣られて喜ぶ女ではないのだと、改めて理解したのであった。
「あっ」
莉奈は、王がそんな事で苦悩しているとは露知らず、とあるお店に目がいった。
そこは小物や雑貨類が売っている小さなお店だった。
ガラス越しに、飾ってある小物類が見える。マグカップやグラス、鏡等、色々置いてあった。
莉奈はその中で、髪飾りの隣にひっそりと飾ってある、あるモノに釘付けになっていた。
それは、竜のキーホルダーだった。
鉄かメッキかは良く分からないが、竜が内側に尻尾を丸めているカッコ可愛いキーホルダー。
『お姉ちゃん! 見てみて竜だよ! 竜!!』
莉奈は途端に、ジンと目頭が熱くなっていた。
弟がコレを見たら、絶対に欲しがるな―――と。
「フェルナンデスさん。竜はこの国の象徴なんですね?」
ゴシゴシと目を擦り、莉奈は振り返った。
あちらこちらと見てきたが、店の軒先には必ず、竜を象ったこの国の国旗がヒラヒラと飾ってあるのだ。
「他国では魔物の様に言われているが、この国では護り神の様な存在だからな。御護りとしてこうやって、売られている」
フェリクス王は、莉奈の頭をポンポンと優しく叩いた。
竜は風貌から恐れられてもいるが、同時に市民の憧れでもあり、護り神の様な存在だと教えてくれた。
だから、店先や民家の軒先には竜をモチーフにした小物類か国旗をこうやって飾り、御護りとしても売られている様だった。
で? 武器屋は? という莉奈の視線に負けたフェリクス王は、内心妙に不納得さを感じながら方向を変えた。
自身でも良く分からないが、胸がモヤッとしていたのである。
―――――そして数分後。
まるで迷路の様に、細い路地を右や左にしばらく歩くと、何の変哲もない普通の家の前に着いた。
「え? ココが武器屋?」
外壁は良くあるレンガ造り、扉は木製。店を示すモノは何一つない。
どう考えても、ただの民家にしか見えなかった。
だけど、それが逆に秘密の店みたいで、莉奈はワクワクする。
「不安はねぇのかよ?」
王は小さく笑っていた。
普通、人気のない怪しい民家の前に連れて来られたら、不安しかないだろう。なのに、ココかと訊いてきた莉奈の瞳は、あり得ないくらいキラキラしていた。
どうかしているだろう? と思うのは自分だけだろうか。
普通はさっき喜ぶところじゃねぇの?……とフェリクス王は考え、苦笑した。コイツは普通じゃなかった。
「なんで?」
莉奈はキョトンとした。
知らないオッサンとだったら不安しかないけど、相手はフェリクス王だ。不安になる意味が分からない。
「お前……武器屋に連れて行ってやると言われたからって、知らねぇ男に付いて行くなよ?」
そんな莉奈をよそに、王は不安しかなかった。
莉奈が人気のない脇道に、警戒心を微塵も感じずに付いて来たからだ。だから不安はないのか訊いたのに、この返事。
普通ならお菓子かアクセサリー、と言いたいところ。だが、莉奈なら武器屋を見せてやると言ったら、誰にでもホイホイ付いて行くのではと一抹の不安が過る。
「はい? 知らない人なんかに付いて行きませんよ?」
子供ではないのだから……と、莉奈は眉を寄せた。
たとえ、日本に還してくれると言う人がいたとしても、黙って付いて行くわけがない。何故、そんな心配をされているのだろう?
「……」
フェリクス王はしばらく莉奈をジッと見た後、頭をガシガシと掻いていた。
コイツはそこまで子供ではないのに、何故そんな心配をしているのだろうか。
それとも、子供じゃないから心配なのか?
自分でも良く分からず、王は無性に魔物を斬り倒したい気分だった。だが、そうもいかず最後に深いため息を吐き、自分で自分を誤魔化すのであった。




