267 かりゃあげ――っ
ゲオルグ師団長のガーネット邸の厨房も、王宮程ではないがやはり広い。2、30畳はありそうだ。
あっちの世界では、6畳くらいの台所しか使った事がなかったから、オープンキッチンはオモチャ箱みたいで面白い。冷蔵庫や食糧庫はビックリ箱の様だった。
「そうだった! 2度揚げするんだった」
「片栗粉だと、カリカリだな!」
「小麦粉と混ぜてもイイのか!」
莉奈が厨房でからあげを作れば、もれなく味見になる訳で……。
2度揚げ以外のカリカリになる方法を教えたり、小麦粉以外の粉でもからあげを揚げて、厨房の皆と食べ比べ大会みたいになっていた。
「やっぱり、本家本元のからあげは違うな!」
「衣が美味しい!!」
「鶏肉がジューシー!!」
莉奈が次々と揚げるからあげを、皆が頬張り、目を見張りながらも笑顔が漏れていた。
美味しい物を食べると、皆笑顔になるよね。氷の執事イベールは別だけど……。って言うか、本家本元ってなんだろう?
しかし、この国で出会う人達は本当に温かい。新参者と厄介払いしない処か、実にフレンドリーだ。まぁ、悪い人に会う機会がないだけかもしれないけどね。
「かりゃあげーっ!」
「コラコラ。あなたにはまだ早いの」
配膳用のカウンターから、ロッテを抱いたジュリアが顔を出していた。
このカウンター、実は最近までなかったとか。莉奈が王宮で、カウンターの様に使っているのを、見ていたゲオルグ師団長が、便利で楽しいと作らせたそうだ。
ロッテちゃんも楽しそうだから、皆も口が綻んでいる。
「あっつ、ん。美味しいっ……衣が全然違う」
出来立てホヤホヤのからあげを食べたジュリアが、顔を綻ばせ驚きの声を上げた。
いつもと違うカリカリのからあげに、ジュリアもご満悦の様子だ。
「かりゃあげ―――っ!」
「あ~もぉ。暴れないの」
腕に抱かれたロッテは、頬を膨らませて手足をバタバタさせていた。
母親が目の前で、からあげを食べているのが不満みたいだ。
「ロッテちゃんって、アレルギーとかってありますか?」
なんだか弟の小さい頃と重ねた莉奈は、ロッテを見ながら口が綻ぶ。
知らないで食べさせちゃうと、アレルギーは怖いし。消化器官がまだ発達していない内は、色々と良くない物も多いしね。
ハチミツやチョコレートなんて、この年齢だと早かったハズ。まぁ、チョコレートなんてないけど……。
「え? アレルギー?」
「卵や小麦粉を使ったご飯を食べて、痒くなるとか、発疹とか出るとか?」
「えぇ。ないわよ?」
アレルギーが何なのか分かったジュリアは、少し考えた後に答えた。柔らかいパンはあげた事がある様だった。
「ん~。なら、ロッテちゃんのために、マフィンでも作ろうかな」
確かロッテちゃんくらいの歳なら、牛乳も少しなら平気だったと思うし。
「マフィン?」
「お菓子」
"マフィン" なんて言ったところで分からないよね。
「え? この子にはまだ、早くないかしら?」
お菓子なんて聞いたジュリアは、心配そうに言った。
幼児食を食べている幼い子供に、味の濃い物や甘い物は不安みたいだ。
「小さい子供でも食べられる、ニンジンとバナナのマフィンです」
弟が小さい時に、母親が作っていたお菓子だ。
ハチミツや砂糖なんて、もちろん使わないよ。
「かりゃあげ!!」
うん。ロッテちゃん、からあげは違うからね?
「ニンジン……この子、ニンジンなんて食べないわよ」
食べる本人ではないのに、ジュリアが渋い顔をした。
幼児食をあげる様になったみたいだけど、ニンジンは食べないらしいとか。どの世界の子供もニンジンは苦手ですか。
エギエディルス皇子はシチューやスープに入っているのは食べて……。と考えて、莉奈は思い直した。あの子、嫌いでもガマンしちゃう優しい子だったなと。
「ニンジンの味なんて、ほとんどしませんよ」
うっすらと生地がオレンジ色にはなるけど、味はバナナが強いから、分からないと思う。
「試しに作りますから、まずはジュリアさんが味見してみて下さい」
いくら旦那のゲオルグ師団長から、自分の事を聞いていたとしても、初めて会った人間だ。その赤の他人が作った物を、大切な我が子に与えるのは不安だろう。
だから、まずは母親がどんな物か確認した後で、あげるかどうか判断してもらって全然構わない。
よし、作りますか……と気合いを1つ入れ、莉奈はマフィンを作る事にした。




