264 ガーネット邸
ゲオルグ師団長の屋敷に行く前に
「ゲオルグさんのお屋敷にも、これに登録すれば行けるんですか?」
って訊いてみたのだけど 「さてな」 と誤魔化された。
以前、フェリクス王にこの魔導具を貰ったが、色の変化によって行ける宮が違う。だから、何か特殊な事をすれば城外にも行けるのかな、と思ったのだけど。
まぁ、そんな簡単に教えてくれる訳ないか。そう納得した莉奈は、ペンダントを不思議そうに触るのであった。
◇◇◇
若干ウザくなったゲオルグ師団長に見送られ、ガーネット邸の屋敷に瞬間移動した。魔法陣を使用すると、歪みが違う気がする。
グニャグニャがグニャに変わった程度の違いなのだろうが、全然違う。魔法陣は偉大だ。安定させるっていう意味が、改めて分かった気がする。
「ん? 魔法陣が微妙に違う」
光が収まった足元の魔法陣を、莉奈はマジマジと見ていた。
魔法が発動した瞬間、王城にある魔法陣の "陣" と紋様が微妙に違って見えたのだ。
形のすべてを覚えている訳ではない。だが、何かが違う気がする。
「どこが違う?」
呟きを拾ったフェリクス王は、面白そうにしていた。
「……比べないと分かりません」
今初めて、この屋敷にある魔法陣を見たのだ。
あれ? とわずかな違和感を感じた程度で、どこと答えられる程、何が違うのかはまったく分からない。見比べれば別なのだろうけれど。
「……」
分からないと答えたのだが、フェリクス王はどこか満足そうにその場を後にしていた。
莉奈の言う通り、各々微妙に紋様は違う。だが、魔法が発動した瞬間だけ見える紋様もあれば、違う形に変化する紋様もある。それに気付く者は数少ないのだ。
魔法の発動と同時に、独特な身体の浮遊感や目眩が襲う。スカイダイビングの最中に、あるかも分からない間違い探しを、やる様なモノだからだ。
それを、数える程しか使っていない莉奈が気付いた。フェリクス王は驚くと共に、感心し満足していたのだった。
◇◇◇
ゲオルグ=ガーネット。
近衛師団長を務める彼が、実は侯爵家の息子だと初めて知った。
嫡男ではなく、五男坊なので爵位は継げない。元々文官より武官肌の彼は、これ幸いと軍部に入り師団長になったらしい。
平民とは思わなかったけど、侯爵家の息子とは驚きである。人は見かけによらないとは、この事だよね?
ちなみに瞬間移動の先は、王のお忍びのためにワザワザ建てた訳ではなく、元々あった屋敷の離れを利用させてもらっている。
その離れは、ゲオルグ師団長が小さい頃の遊び場だったとかで、今は家具も何もない。広さは30畳程の広さの部屋だった。
ここから、庭を挟んで本邸がチラリと見える訳だが、遠くから見ても屋敷はデカイ。
自分の住んでいる碧月宮と同等か、それ以上に見えた。そう考えると、自分はとんでもない所に住まわせてもらっているんだと、ものすごく恐縮する。
「へ、陛下!?」
「旦那様!! ビクトール様に報せて来い!!」
扉を開けた時、たまたま居合わせた屋敷の庭師達に見つかってしまった。
咄嗟に目配せし、1人だけ報せに走らせると、残った数名がフェリクス王に平伏していた。
この屋敷、ゲオルグの邸宅というより生家、実家である。彼は王城勤めでほとんど帰れないので、実家に妻と子も住まわせているらしかった。
ビクトール様というのは、ゲオルグの父親の事だろう。
「チッ」
それを見たフェリクス王は、面倒くさいとばかりに舌打ちしていた。
いつもなら、こんなヘマはしなかったのだが、莉奈がいた事で気が緩んでいたらしい。その舌打ちは自嘲気味でもあったのだ。
主人に報せに行った者は、途中で会った使用人達にも触れを出したのか、ザワついた空気が流れ始めていた。
「……」
自分を敬い、崇めてくれる様な市民の行動を、良しとするのではなく、面倒くさそうにするフェリクス王に、莉奈は苦笑いが漏れた。
当然なモノとして受け入れない、それが彼らしいなと思ったのだ。
「リナ。俺は用がある。先に済ませてくるからココにいろ」
起立の許可を出し、屋敷の主人を待たずにどこかへ行こうとする王。
「はぁ!? ちょ、ちょっと待って!!」
思わず敬語も吹っ飛び、止める様に王の服を引っ張った莉奈。
初見でしかも他人の家に、1人置き去りにして行くなんて最悪である。紹介された後だとしても、あり得ない。
「なんだ」
「なんだじゃない!! 私を置いてどこに行くんですか!!」
こんな所に置いて行くなと、抗議する。
「女のお前には用のない所だ」
普段女扱いなどしない王が、面倒くさそうに言葉を吐いた。
「あっ、トイレ……」
ボソリと呟いたら、莉奈の頭にバシリと平手が落ちた。
相変わらず、いいツッコミをしてくれる。
「「「……っ!?」」」
庭師達は起立の許可が出たのにも関わらず、莉奈の言動が恐ろしくて震えきっていた。
下手に動いて、目立ちたくないと身を竦めていたのだ。
「刀を見てもらいに行くんだよ」
洋服やアクセサリー等売っているハズのない、武器防具の店に行くのだと説明する。いつも提げている長剣ではなく、魔法鞄に入っている、対魔物用の刀だと。
「……っ!!」
説明を聞いた瞬間、莉奈の瞳がキラリと光った。
マジか!
武器防具の専門店だと!?
興味しかないんですけど!?
「……興味あるのかよ?」
そのエライ食い付きに、フェリクス王は小さく笑っていた。
普通、武器を扱う店に行くと聞いたら、御自由にと返事が返ってくると想像していたのだ。
なのに、逆に食い付いてくるとか、想定外過ぎて笑えたのである。
「興味しかない!!」
莉奈の瞳は、さらにランランと光った。
本物の武器や防具を見られるなんて、こんな嬉しい事はなかった。昔の話か、ゲームの世界の物だからだ。それが、この目で見られるなんて夢の様である。
「お前……相変わらず、変わってやがるな」
思わず言わずにはいられなかった。
武器の話をして食い付く女は、これまでいなかった。コイツも一応女だし、どうせ興味ないと勝手に思い込んでいた。
退屈するだろうと、後で迎えに来るつもりだったのだ。なのに、驚くくらいの反応にフェリクス王は苦笑いが漏れた。
そして、気付けば莉奈の頭に手が伸び、ナゼか撫でていたのであった。




