261 城下町に行くか?
イベールが去ると、中庭はフェリクス王と莉奈の2人きりになった。
部屋ではなく外なのだけど、妙にそわそわする。なんだか胸が落ち着かない。
「陛下は部屋に戻られないのですか?」
というか、戻って欲しい。弟や執事長イベールが戻ってもフェリクス王は残っていた。
莉奈が後片付けをしているのを、いつまでも面白そうに見ているのだ。
テーブル席を囲む様にある広い柵に腰を軽く掛けて。そんなジロジロ見て楽しい事など1つもないハズ。見られているコッチが緊張する。
「天気もイイ。城下町にでも行くか?」
チラリと空を見上げ、フェリクス王は急に突拍子もない事を言ってきた。
「へ?」
莉奈は聞き間違いかと、耳を疑った。
散歩でも行くか? という軽いノリで、フェリクス王がものスゴい事を言ったからだ。
「今なんて?」
「暇だろ? 城下町に行くか?」
そう言ってニヤリと笑ったフェリクス王。
暇と言えば暇だけど、何その決めつけた感じ。
「暇じゃないけど、行く―――っ!!」
だが、そんな言葉尻など気にもならないくらい、嬉しいサプライズだ。残りの物を慌てて魔法鞄に押し込み、テーブルをゴシゴシとフキンで拭く。
竜に乗れないし、まだまだ先かと思っていたよ。
「暇じゃねぇのかよ」
フェリクス王はくつくつと笑っていた。
嬉しそうに笑う莉奈が、案外可愛いと思ったのだ。そして、放り投げず、後片付けはしっかりやる莉奈に、思わず笑みを溢さずにはいられなかった。
「ゲオルグさんの番の部屋の改装やら、シュゼル殿下に頼まれたモノを作ったり、他にも色々あるんですよ!」
結局、厨房でゲオルグ師団長に捕まり、なんやかんやと作る暇はなかった。挙げ句、改装まで頼まれたしね。
弟の名が出て、思わず苦笑いが出たフェリクス王。迷惑を掛けている様な気がしてならない。
「改装……そういや、竜騎士から陳情書が届いてたな」
「陳情書?」
後片付けを終え、おしぼりで手を拭いていた莉奈は、眉根を寄せた。
"陳情書" とやらが、王の元に届いたとして自分に話す意味が分からない。
「改装費を必要経費にしろってな」
莉奈を見て面白そうにニヤついていた。
彼女が動くと、何かしらやらかすからだ。それが、新鮮で面白い。つまらない日常を送っていたフェリクス王にとって、莉奈はスパイスの様だった。
「あぁ~」
ナンとも言えない。自分は余ってた物や倉庫の肥やしを、再利用させて貰ったからタダみたいなモノだけど。まさか、広がるなんて思わなかった。
「ありゃあ、金も飛ぶ」
どこかの宿舎でも覗かせてもらったのか、呆れ笑いをしている。
「んじゃ、必要経費って事で」
今後のためにと、莉奈は手を出した。
だってうちの子、暴れたらレースのカーテンなんて、すぐにビリビリだしね。
「高すぎるわ」
さらに呆れた様に、莉奈の出した手をパシりと叩いた。
◇◇◇
「城下町って事は、竜に乗せてくれるんですか?」
後片付けも終わり、んじゃ行くかという話になった時、莉奈は王竜に乗れるのかとワクワクしていた。
自分の竜にはまだ乗れないのだから、当然そうだと思った。乗り方も知らないし、鞍も作っている最中だしね。
「飲酒運転じゃねぇの?」
フェリクス王はからかう様に言った。
さっき莉奈はそう言って、自分を乗せようとはしなかったハズ。
「自動運転だからイイんですよ」
だって、馬と違って完全に人の言葉や意思を理解しているし。完全サポートでナビ付きみたいなモノでしょ?
「ハハハ……」
そう言うと、フェリクス王は愉快そうに笑い、莉奈の頭をクシャリと撫でた。周りの人と、違う発想が実に愉快だったのだ。
「……で?」
乗るの? 乗せてくれるの?
期待してキラキラとした瞳で見る莉奈。竜に乗れるのなんて興奮しかない。それも、頂点の王竜だ。ワクワクしかない。
「仰々しくなるから、乗らねぇよ」
そんな期待した瞳で見られ、苦笑いのフェリクス王。
王竜なんかで飛来したら、自分が来たと一発で分かってしまう。お忍び向きではない。
期待させて悪かったと少し感じたのか、今度は優しく頭を撫でた。
「えぇっ!? なら、まさかの徒歩!?」
残念と思いつつ、莉奈はビックリしていた。
魔物がいるのに徒歩で山を下りるの?
「歩きてぇの?」
「は? 一般市民には無理でしょう?」
だって、本気のサファリパークに徒歩で入る様なモノじゃない?
「踵落としするヤツが一般市民?」
それを聞いて、ニヤつくフェリクス王。
最近、食堂のテーブルに落とした例のやつを、イベール辺りにでも聞いていた様だ。
「…………」
莉奈、絶句。テーブル壊したのバレてるよ。




