26 あなたは一体?
「……ところで、リナ」
「……うん?」
「料理した事ある……?」
どういうつもりで訊いてきたのか、ラナ女官長が言う。
「あるわよ?……作るの好きだし」
色気より食い気。料理番組は欠かさずに見るし、作るのも食べて貰うのも好きだ。特にスイーツなんて、作ってるのを見るのも好き。
……言っておくけど、それはこの体型になる前からだからね!!
「……なら、何か作ってみない?」
「…………えっ?」
ラナ女官長の願ってもない提案に驚いてしまった。
自分で作ればいい! なんて言っといて、何も考えてなかったからだ。
「素材が一緒かは分からないけど、材料ならいっぱいあるし。足りない物もあるかもしれないけど、何かしら作れるんじゃない?」
「……いいの?」
莉奈は、お伺いを立てる様に周りを見た。
新参者どころか、自分は得体すら怪しい人間に違いない。
そんな、訳の分からない人間に厨房を貸してくれるのかな……と。
「構いませんよ。……と言うか、他国の食文化には興味があります」
と料理長らしい男性が微笑みを浮かべて言った。
料理長のその言葉に、皆も頷いてる様に見えなくもない目をしている。
興味津々そうですな。
まぁ、それもそうか。他国……どころか、もはや "異世界" なんだもんね?
「……ん~。まぁ、見てみない事には分からないけど、作らせて貰おうかな」
莉奈は、頷いた。材料と云うか素材が、どんなものがあるのかは分からないが、今まで食べてきた感じ名称こそ違うが、自分の世界と同じ物がほとんどだった。
なんだったら "鑑定" してしまえば、わからない事もないだろう。
っていうか、私の "鑑定" ……必ず "食える" "食えない" が表記されるのよね。
例えば、この冷蔵庫……。
【冷蔵庫】
<用途>
氷の魔石を使用した入れ物。
主に食料の保存、冷却などに使用。
<その他>
食用ではない。
"食用ではない"
アホかーーー!!
いくら食いしん坊でも、冷蔵庫なんか食うか!!
絶対、この異世界 私の事バカにしてる……。
……くそったれ!!
莉奈は、ひっそりと冷蔵庫に怒鳴った。
「……どう? 何か出来そう?」
カパカパと莉奈が一通り見終わったのを、見計らってラナ女官長が訊いてきた。
「……何かどころか、いろんなの出来そう」
葉ものは少なめだが、根菜は豊富だし。
チーズやバター、生乳、乳製品もある。
牛肉、豚肉はないが、鶏肉はある。
醤油、味噌はないけど、塩、砂糖、酢など結構充実している。
さすがは王宮。
和食は難しいが、洋食はかなり作れるだろう。
「……作れそう……って、お前料理なんかできんの?」
わくわくした気持ちを叩き切る声がした。
出来ないだろう……とバカにしているに違いない。
「プロ並……とは、言わないけど、作れるよ」
「食える物作れよな」
「ちょ~失礼じゃない? エギエラー皇子?」
だから、今度はワザと名前を間違って言った。
まぁ、そもそも覚えてもないけど。
「……お前ほどじゃねぇよ」
エギエディルス皇子は、呆れつつ笑う。
もう、皇子自身 このくだらないやり取りが楽しくなっている。
だが、初めて見た厨房の人達は唖然だ。
少年とはいえ、この子はこの国の "皇子" だ。
その御方に、敬語を使わないどころか憎まれ口まで叩く莉奈に驚愕していた。
この少女は一体なんなんだ!?……と。
そして、これをきっかけとして…知らず知らずに一目置かれ始めていた事に、莉奈はまだ気が付いていないのであった。