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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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259 良く滑るよね~?



「コリコリして旨いな」

 結果、強烈な圧力に負けなかったイベールは正解を導き出し、フェリクス王の前にもヤゲン軟骨があった。

「……」

 イベールは無表情で、コリコリとヤゲン軟骨を食べている。

 要らぬ冷や汗を掻いたに違いない。

「この食感すげぇイイ! リナ、もう1つ!」

 ねだる様に言えば、皇子の跳ねっ毛がピョコピョコして、なんだか可愛い。

「エド、焼き鳥は他にも色々あるから、1周してから好きな物を見つけてみなよ」

「わかった!!」

 莉奈がそう言うと、満面の笑みで頷いた。

 部位は色々と用意してあるからね。先にいっぱい食べてしまうと後が入らないに違いない。



「右からボンジリ、つくね、鶏皮。真ん中のつくねは卵黄を浸けて食べると、なお美味しいよ」

 今度は3種類をいっぺんに出した。卵黄はもちろん、小皿に別盛りで。レモンやライム、一味はお好みにして出して置く。

「ボンジリ?」

 聞き慣れない言葉に、エギエディルス皇子は首を傾げた。

「鶏のお・し・り」

 脂がタップリのってるから、お父さんは胃にもたれるって、お母さんといつも半分こにしていた。

「鳥のケツなんか食うのかよ!!」

 目を丸くしてエギエディルス皇子が叫んでいた。

 まぁ。お尻なんて聞くと一瞬抵抗感はあるよね。

「脂がのってて美味しいよ?」

 莉奈は他のを焼きながら、ボンジリを頬張った。

 立ち食いで少し行儀が悪いけど、焼きながらだから仕方がないよね。脂が気になるなら、フェリクス王、イベールは一味。エギエディルス皇子なら、レモンかライムかな?

「うん。美味しい」

 脂がイイ具合に落ちて、外は香ばしく中はプリっプリっだ。

 鶏の脂が甘くて美味しい。



「マジかよ」

 エギエディルス皇子が不審そうにしている。

 だが、その隣では兄王が躊躇いもなく口にした。莉奈が美味しいと言っている以上、美味しいのだろうと妙な信頼があったのだ。

「確かに、すげぇ脂だな」

「でも、美味しくないですか?」

「あぁ。旨い」

「ちなみに、これはエールが良く合いますよ」

 脂っこい物、揚げ物は炭酸が欲しくなると思い、フェリクス王の前にドスンとエールを置いた。

 もちろん、ジョッキに入っているしキンキンに冷えている。



「……っ!」

 エールまで出てくると思わなかったのか、フェリクス王は一瞬驚いていた。

 だが、ニヤリと笑うと気持ち良さそうに、口の脂を洗い流していた。

「私にも」

 気持ち良さそうにノドを潤すフェリクス王を見て、我慢出来なかったイベールは思わず言ってしまった。

 目の前でゴクゴクと飲まれれば、どうにも我慢が出来なかったのだ。

「どうぞ」

 莉奈がエールを出してあげれば、イベールもまずはとボンジリを1口味わい、エールをゴクゴクと飲むのであった。

「……」

 エギエディルス皇子は未知なる魅惑の炭酸を、美味しそうに飲む兄を羨ましそうに見ていた。



「エド。そんなに飲みたいのなら、"炭酸泉" を探してみれば?」

 天然の炭酸水、炭酸泉があるって聞いた事がある。そしてこの国、温泉が湧いているからね。ある可能性はかなり高いハズ。

 炭素ガス、いわゆる二酸化炭素が自然に溶け込んでいるのが炭酸泉だ。市販されている人工的な炭酸水ほど、炭酸は強くないと思うけど、微炭酸で案外美味しいのかも。

 あっちの世界では、天然のサイダーも売ってたくらいだし作れるんじゃないかな?

「なんだよ、急に "炭酸泉" って?」

 エギエディルス皇子が、唐突に言い始めた莉奈の言葉に眉を寄せた。

「温泉……お風呂に入って、何か身体がシュワシュワする事ない?」

 莉奈は、どう説明したらイイかなと悩んだ後、ふと思い出した。

 お風呂(ハマム)にある浴槽に浸かった時、微かにシュワシュワとしたモノを感じた。

 今まで余り意識した事はなかったけど、あれは "二酸化炭素泉" だからに違いない。なら、この国には天然の炭酸水がある。

 詳しくは知らないけど、湧いてる所があれば、天然のサイダーが作れると思う。


 確かエギエディルス皇子も、自分の宮に造ったと聞いていた。同じ源泉だと思うから、シュワシュワと感じた事はないかな……と。



「ある!」

 そう言われればなんとなく、シュワシュワと感じた事があるのか、大きく頷いた。

「それが、炭酸ガス。炭酸泉」

 だから余計に、身体がポカポカと温まるのだろう。

 人工的に造るのなら、炭酸ガスを注入する道具が必要だけど。ある訳がないから、天然の炭酸泉で作ればイイ。

 気体が炭酸ガス 〈二酸化炭素〉、液体が液体二酸化炭素、固体がドライアイスって呼ばれるんだっけ? 水に溶かすと炭酸水な訳で……ややこしいなぁ。

 あ~ぁ……こんな事なら、もう少し化学の授業を、マジメに受けとくんだった。

「……それが何なんだよ」

 エギエディルス皇子は、炭酸ガスが炭酸泉と言われても、いまいちピンとこないらしい。眉を寄せ、何だか一生懸命考えていた。



「え~と。私も詳しくは知らないけど。エールの炭酸は、酵母が麦芽のタンパク質を食べて、発酵する時に出来る炭酸ガス。炭酸泉は自然の炭酸ガスが、水に溶け込んで出来たモノ? だから、炭酸泉が見つかれば、エールみたいなシュワシュワのサイダーが作れるよ?」

「……全っ然分からねぇ」

 そう言ってエギエディルス皇子は、テーブルに頭を突っ伏した。

 説明を聞いたものの、サイダーという飲み物が作れるかもとしか、分からなかった様である。

 まぁ、何も分からないのに、いきなり炭酸泉とか炭酸ガスとか言われてもね。正直自分で言っていても、これが正解なのかも分からないし。



「 "サイダー" 以外には出来ねぇの?」

 残りのボンジリを口に含み、フェリクス王はニヤリと興味深そうに訊いた。

 理解したのかしていないのか分からないが、エールに似たと聞き、王のお酒レーダーに引っ掛かったのだけは確かだ。

「……」

 げっ……しまった。

 エギエディルス皇子が可哀想すぎて、余計な事を言ってしまった気がする。



「リナ」

 口を閉ざしたところで、フェリクス王に捕まるよね~。

「リナ」

「ウ、ウイスキーと割れば "ハイボール" ってカクテルが出来ますよ」

 薄笑いを浮かべた目で見られ、逃げられないと悟った莉奈は諦めた。

 やっぱり、この人シュゼル皇子のお兄ちゃんだよ。

 


「ほぉ? 他に?」

 まだあると、莉奈の表情を見て感じた様だ。

「……」

 コレ、絶対にあかんヤツだ。

 甘味のシュゼル、お酒のフェリクスだった。ついつい忘れていたよ。

 ハイボールは、ウイスキーと炭酸水を好みで割ればイイけど、他には? って言われるのが面倒くさい。だって、色々と種類があるんだもん。

「リナ」

「……」

 何にもありませ~ん……と心で叫んでみた。

「リーナー」

 思わず現実逃避していたら、フェリクス王の目が眇められ、地響きの様な声が1つ莉奈の耳に聞こえた。

 



 もぉ。ハイボールだけでイイじゃん!!




「や……」

「や?」

「焼き鳥……冷めない内にお召し上がり下さい」

 莉奈は目も話も逸らす事にした。

 今は焼き鳥がメインだ。お酒は違うんだよ。焼き鳥食えよ!!

「ハハハ……!!」

 そんな様子を見たフェリクス王が、面白そうに笑った。

 冗談だとしても、自分が睨んで話を逸らすとは思わなかったのだ。

「なら……後で、ゆっくり聞こうか? リナ」

 どうやら、逃がすという選択肢はないらしい。

「あはは」

 もう、笑うしかないよね?




 

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