255 マッシュルームのチーズ焼き
「酒の肴ね~」
何にしようかなと、莉奈は食料庫を漁りに行く。
酒に合うツマミって、基本的に味は濃いめで、塩辛いイメージしかない。じゃなきゃ揚げ物。酒にサラダはあまり作らない。
「あっ、キノコがある」
莉奈は、木の箱に並んで入っている、キノコを見つけた。
見た目は軸が短く、笠は丸めの真っ白い、1口サイズのキノコ。パッと見だけなら、マッシュルームに見える。
【マッシロマッシュルーム】
適度な湿気があれば、どこにでも生えてくる。
〈用途〉
マックロマッシュルームより、香りが少なく万人受けするキノコ。栽培しやすい。
〈その他〉
食用である。
マッシロマッシュルーム。まんまだね。
マックロマッシュルームもあるのかよ。
莉奈はマッシュルームを見ながら、1人でツッコミを入れていた。
「マッシュルームを使うのか?」
異様な圧を感じると思ったら、背後にゲオルグ師団長がいた。
それなりに広い食料庫も、プロレスラーも真っ青なデカさの彼が入って来たら狭く感じる。
「奥さんマッシュルーム大丈夫?」
作ったところで苦手なら、ガッカリだしね。
「大好物だ」
そう言ってニカッと笑うゲオルグ。
本当に奥さん一筋なんだなと、ほっこりもするけど少し羨ましくもなる。これだけ愛されるのって、イイよね。
「じゃ、このマッシロマッシュルームで作りますか」
莉奈がそう言うと、ゲオルグがマッシロマッシュルームの入っている木の箱を持ってくれた。
ゲオルグさん、フェミニストでもあるんだよね。こりゃ食べられる……じゃない、モテる訳だ。
「これも簡単だから、ゲオルグさんも覚えて奥さんに作ってあげると、絶対に喜んでくれると思う」
「惚れ直すかな?」
「直し過ぎて気絶すると思うよ」
嬉しそうに言うものだから、莉奈もついつい大袈裟に言ってしまった。
なんかね、料理人達も生暖かい目で見てるんだよね。
タール長官もゲオルグ師団長が、しっかり愛情をもって大事にしているのを知っているから、からかう程度に留めているのかもしれない。
「マッシュルームは少し泥が付いているから、濡れ布巾で軽く拭き取る」
「あっ」
ゲオルグが莉奈の言う通りにやったら、マッシュルームが潰れ割れた。泥を落とそうとして、つい力を入れすぎた様だ。
「奥さんを触る様に、優しく触らないと~」
「いつも通りソフトに~」
「あなた、優しくしてぇ」
いつの間にか集まった近衛師団兵達が、食堂の窓というかカウンター越しから、ヒュウヒュウとからかっていた。
「うるせぇ!」
部下にからかわれ、睨んだゲオルグ。でも表情は少し笑っている。ゲオルグが師団長だと、実に楽しそうだ。
「リナ、泥落としたぞ?」
何個か割れたけど、ゲオルグはマッシロマッシュルームの汚れを落とした。うん、ものスゴく大量だ。
「んじゃ、フライパンにバターを適量入れて、溶けたらマッシュルームを……」
莉奈はチラリとゲオルグを見て、ビックリしていた。
当然の様に1番大きいフライパンを選んだからだ。そのフライパン、パエリアを何十人分作れるの? ってぐらい大きくて、莉奈は重くて持てない。
だが、ゲオルグは軽々と持った。それどころか、彼が持つと普通のフライパンのサイズに見える。
莉奈は、はぁぁっと感嘆の声が思わず漏れていた。
「マッシュルームは時々ひっくり返して、まんべんなく焼き色を付ける。焼き色が付いたら塩、コショウを振りかけて、白ワインを少し振りかける」
「なるほど、ここで白ワインか」
ゲオルグが真剣に聞きながら、作っている。
大きなゲオルグがこじんまりと料理を作っている姿は、ギャップ萌えかもしれない。奥さんはこういう姿に、また惚れ直すに違いない。
「で、フタをして2分くらい蒸し焼きにする。最後は粉チーズと、お好みの香草をみじん切りにしてまぶし、器に盛れば出来上がり」
簡単マッシュルームのチーズ焼き、完成である。
焼いた白いマッシュルームが、焦げ茶色に色付いている。バターで照りも出て、実に美味しそうに仕上がった。
香ばしいチーズと香草の香りが、厨房に充満すると皆の表情も自然と緩む。今回はローズマリーをパラパラとかけたけど、バジルやパセリでもイイ。
「「「うっまそ」」」
チーズの匂いが堪らないのか、物欲しそうな声が聞こえた。
「まぁ、待て。味見させてやる」
ゲオルグがいそいそと、小皿に出来たばかりの料理を盛っていた。
どうやら、皆の分も作るために、そのフライパンを選んだみたいだ。例えこれが、奥さんのための試作だとしても、部下にスゴく優しい。
「ちなみに、白ワインに合うよ」
莉奈は使っていた白ワインのビンを、食堂に繋がる窓、カウンターにドスンと置いた。
もちろん赤ワインでも合うけど、目の前に白ワインがあったから渡してみた。
「「「ありがてぇ!!」」」
そう言って、白ワイン片手に、出来立てのマッシュルームのチーズ焼きを口にする。
「アッツ! はふはふっ、うんまっ」
「マッシュルームがすげぇ、ジューシー」
「白ワインがあるから、なおイイ」
非番の近衛師団兵達は、実に美味しそうに食べていた。
チーズがあるから酒が進むと、次から次にとマッシュルームに手が伸びる。小皿に乗っていた料理は、すぐにペロリだ。
もれなく、白ワインも空っぽになった。
「いやぁ、リナ。これなら、イイ奥さんになるよ~?」
「ヨシ。リナ、俺と結婚するか?」
「イヤイヤ。俺と結婚しよう!」
酔いどれ近衛師団兵達は、ご機嫌な様子で莉奈を見て言った。
冗談にしても、言い方が大雑把過ぎるから。
「はいはい。なら、皆と結婚しましょうかね~?」
絶対に酔っている皆に、苦笑しかない莉奈は、適当にあしらった。
父親が連れて来る友達も、酒の肴を作ってあげると、似た様な事を言ってきたからね。イチイチ本気に捉えていたら、キリがない。
酔った男共は、本当に質が悪い。まったく困った人達である。
「リナ、重婚は禁止だぞ?」
ゲオルグは莉奈の肩をポンと叩き、ニカッと笑った。
数年前に、王族以外は禁止になったらしい。
マジで、する訳がないじゃん。
ゲオルグのこの笑い。本気か冗談かまったく分からなかった。




