253 小さな悪魔の別名?
「足りなければ、指を咥えて見ているがイイ」
「「「ひでぇ」」」
莉奈はフフフと怪しく笑いながら、ドライ・ジンを手に取った。
大体、飲み過ぎなんだよ。この王宮の人達は……。浴びる様にって聞いた事があるけど、地でやってるからね、この人達。
「ガーネット師団長~っ。酒をくれ~!!」
「イッパイあるでしょう?」
「下せぇぇぇ!!」
足りないと察し始めた軍部の人や、料理人達のねだる声が聞こえた。
「まずは、お前達の部屋にあるやつを持って来い」
軍部なら、大抵の人達の部屋にはもれなく酒ビンがある。かき集めればどうにかなるだろう……とゲオルグ師団長はゲンコツを落とした。集るなと苦笑いしている。
「お酒好きだね~」
次なるカクテルを作るための準備に掛かりながら、莉奈は笑っていた。
両親もかなり好きだったけど、しっかり "休肝日" を作っていた。この人達にはあるのかな?
「「「だって、俺達の血は、酒で出来ている!」」」
「アホだアホ」
胸を張って誇らしげに言うものだから、莉奈はさらに笑っていた。血が酒で出来ている訳がない。
「そっちもホワイト・ラムを使うのか?」
そう言いながらもゲオルグは、さっき教えたニコラシカを一生懸命作っている。皆の分も兼ねて、奥さんのために練習している様だった。
「そうだよ。これは、ホワイト・ラムとドライ・ジンを同じ分量、1:1で混ぜるだけ」
莉奈はそう言いながら、ミキシング・グラスに2種類のお酒を注ぎカラカラと混ぜていた。
この氷同士がぶつかる、カラカラとする音がまた心地好い。冷凍庫の製氷機で作る氷は、ガラガラとした鈍い音だったけど。市販の氷の方はカランと良い音色を奏でる。
夏はジュースや麦茶を、市販の氷で飲むのは楽しかった。カランカランとする、あの不思議な心地好さが堪らない。なんで氷1つでこんなにも、音が違うのだろう。
魔法で作る氷も、カランコロンと実に良いハーモニーを奏でていた。
「これは、オリーブは入れないのか?」
空のワイングラスに注いだ莉奈を見て、ゲオルグが訊いた。
何か入れるかなと思っていたらしい。
「入れないよ。これはこれで出来上がり」
同量を混ぜて注ぐだけ。スゴく簡単。面倒ならグラスで直接混ぜてしまえばイイ。少しくらい分量が変わったって、それも楽しいでしょう。
カクテルが氷でキンキンに冷えているから、注いだ途端にグラスが曇って白っぽく見える。だけど、このカクテル、ブラックデビルほど白濁はしていない。
「へぇ、簡単だな。これなら俺にも出来る」
ゲオルグはスゴく簡単なカクテルを知り、満足気である。
「それは、なんていうんだ?」
ニコラシカを飲んでいた人が、ホロ酔いで訊いてきた。
誰かに出して貰ったのか、カリカリとピーナッツまで食べている。ここは居酒屋かバーじゃないんですけど?
「 "リトルデビル" 」
ブラックデビルに対して、面白くて覚え易いだろうから作ってみたのだ。
ちなみに、リトルなんてネーミングが付いているけど。アルコール度数は、全くリトルではない。
ブラックデビルが32、3度に対して、リトルデビルは43、4度もあるのだ。決して名前に騙されてはいけない。
「「「リトル……デビル」」」
全員がゴクリと生唾を飲んでいた。
キンキンに冷えたカクテルが、目の前にあれば飲みたくなるのかも。お腹を空かせた獣達に、肉を与える様なモノだしね。
莉奈はこれでフェリクス王用のが出来た……と魔法鞄にいそいそとしまった。
置いといたら勝手に、争奪戦の材料にされてしまうからね。
「リトル」
「小さい……悪魔か」
皆はブツブツ言いながら、莉奈をチラチラと見ていた。
「後で自分達で作りなよ!」
物欲しそうに見る皆には呆れしか出なかった。
今すぐには無理でも、後でいくらでも作ればいい。材料があるか知らないけど……!
「「「わかった!!」」」
納得したのか皆が、ニッコリと笑い大きく頷いた。
そして、次に莉奈をチラリと見ると、口々にこう言った。
「「「このカクテルの別名は "リナ" だ!!」」」
「は?」
莉奈は、どういう事だと眉根を寄せた。
リトルデビル→小さい悪魔→何かやらかす→リナ
と勝手に脳内変換した様だった。
「マジで失礼だから!!」
莉奈は別名を付けた理由を知り、皆に当然の権利として猛抗議すれば、厨房には楽しい笑い声が響くのであった。




