251 可愛い奥さんには、お酒を
「なら、その化け―――」
「化け?」
「可愛い奥さんに、簡単なカクテルを自分で作ってあげなよ。きっと喜ぶよ?」
ヤバイヤバイ……化け物なんて思ってたから、ついつい口からポロリと洩れちゃったよ。
「……! それはイイ! ぜひ教えてくれ」
イスに座っていたゲオルグ師団長は、勢いよく立ち上がった。
出会いはどうであれ、羨ましいくらいに仲が良さそうだ。家の両親もスゴく仲が良かったなと、懐かしさに笑みが溢れる。
「で? どうすればイイ?」
ゲオルグが厨房に入ってくれば、途端に莉奈は首が痛くなった。
垂直に上がる首は、まるでどこまで曲がるかを、試されているみたいだ。
「女性向きに作るから、グラスは可愛い物を選ぶとする」
「え?」
ゲオルグは可愛い? と眉を顰めた。
グラスと聞き、ゲオルグが真っ先に手に取ったのは、まさかのビールジョッキだった。
「なぜ、それを取る」
よりにもよってジョッキかよ、と莉奈は呆れ返った。
質より量重視らしい。バーでカクテルを頼んでジョッキで出たら、その店のセンスを疑うよ?
「ウチの奥さん、たくさん飲むから……」
ボソボソと言い訳を言うゲオルグ。
そういう問題なのかな?
冗談ではなく、本気で酒豪らしい。莉奈は呆気である。
「グラスはこのシェリーグラスを使う」
ゲオルグをガン無視し、莉奈はグラスを手に取った。
このグラスは持ち手が長く、グラスの下だけが少しだけ膨らんでいるシェリーグラスである。
「なら。シェリー酒を使うんだな?」
ゲオルグは当然そうとばかりに、シェリー酒を手に取ろうとした。
「残念でした。ブランデーだよ」
「シェリーグラスなのにか?」
「可愛く見えれば何でもいい」
シャンパングラスでも、カクテルグラスでもである。可愛らしく見えればいい。ジョッキは論外。
「後はレモンと砂糖を使う」
そう言いながら、莉奈はレモンを輪切りにスライスした。
材料はこれだけの簡単カクテルである。
「輪切り? 中に入れるのか?」
さっぱりと分からないゲオルグは、グラスとレモンをどうするのか見ていた。
「違~う。まずは、グラスにブランデーを適量注ぐ。んで、輪切りにしたレモンを上に乗せる」
コポコポとブランデーをシェリーグラスに注いだ。そのグラスの上を塞ぐ様にして、輪切りにスライスしたレモンを1つ乗せた。
「え? レモンでフタなんかしてどうすんだ?」
「それじゃあ。飲めないだろ?」
「そもそも、カクテルなのに酒同士で混ぜないのか?」
カクテルは酒と酒、あるいは酒と何かを混ぜる物だと聞いていた。なのに、莉奈がブランデーだけしか注がなかった事に、疑問を覚えた皆は次々と疑問を口にした。
「まぁまぁ。最後まで見ててよ」
答えを急かすゲオルグ達に、莉奈は笑いながら次の工程を始めた。
今度は砂糖を取り出し、小さじくらいの大きさのスプーンに1杯掬った。その砂糖を、まとまる様に軽く上から押さえ固める。
そして、その固めた砂糖を、先程のレモンの上にポンと乗せた。
「これで、出来上がり」
不思議で可愛い、カクテルが完成した。
琥珀色のブランデーが入ったグラスの上にレモンのスライス。そして、そのレモンの上に砂糖がこんもりと乗ったカクテルである。
「え? 可愛いけど、これもカクテルなの?」
料理人が驚いた様に訊いてきた。
今までの混ぜるカクテルとは、また別の新しいカクテルに驚きとワクワクした感覚が走る。
「これは、口の中で作るカクテルなんだよ」
混ぜて出すだけでなく、自身の口で作るカクテルも結構あるのだ。見た目もオシャレで、楽しめる。カクテルの醍醐味だろう。
「「「口の中で……」」」
皆の生唾が、ゴクリと飲む音がした。
味を想像して、自然と顔がニヤついている。本当に楽しそうだ。
「く……口の中でってどうやってだ?」
ゲオルグが前のめりに訊いてきた。興味津々そうである。
「レモンのスライスで砂糖を挟んで口に含む。そして、それを少しだけ吸ってブランデーを飲む」
アイスティーでやった事はあるけど、個人的には微妙だった。ブランデーではやった事がないから知らない。お母さんは「面白くて美味しいけど、手が汚れる」って文句を言っていた様な気がする。
「なるほど……」
再びゲオルグがゴクリと生唾を飲んだ。
レモンの酸っぱさを想像して飲んだ訳ではなさそうだ。
「非番のあなたにプレゼント」
もはや、配膳用の窓は、王宮もここもカウンターの様になりつつある。
そのカウンターから、知らない間に覗いていた人がいたから、莉奈はどうぞと差し出した。私服を着ているから、非番でしょ?
「よっしゃ~っ!!」
貰った軍部の人は皆が注目する中、盛大に拳を天に上げた。
莉奈が来ていると耳にして、たまたま見に来ていたのだ。それが、思わぬ収穫に繋がった。嬉しくて仕方がなかった様である。
「「「チッ」」」
背後から舌打ちが聞こえた。
「簡単なんだから、夜に作ればいいじゃない」
もう笑うしかない。莉奈が誰かにあげようとすれば、必ずと言っていい程、貰えない人達の残念そうな顔があったからだ。
「砂糖がない」
「金もない」
「リナがパクって何もない」
パクったって失礼じゃない?
人聞きの悪い呟きが、料理人達から聞こえた。
以前来た時に大量にあったから、莉奈が半分以上 "貰って" いったのだ。決してパクった訳ではない。
まぁ、たとえ厨房にあっても莉奈のように、勝手に大量には使えない。そして、余程でない限り、高価な砂糖は個人的には買わない様だ。
「「「……」」」
ジトッと皆の視線が莉奈に突き刺さる。
莉奈が勝手に使う分には問題がない。だから、自分達の分も勝手に作ってくれれば、問題ないのだ。作れ~作れ~と念を送っていた。
「い、1キロあげるから、そんな目で見ないでくれるかな?」
莉奈は魔法鞄から、以前貰った砂糖を1キロ返す事にした。だって怖いんだもん。
針のむしろって言葉があるけど、こういう事なのかもしれない。
「リナは優しいな。ポーションをあげよう」
代わりにゲオルグから、ポーションを手渡された。
おかげで莉奈の魔法鞄の中には、結構な量のポーションが入っている。
使う機会がないから、ポーションがドンドン増えてるよ。




