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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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246 ゲオルグの悲劇



 莉奈が少しばかりドン引きしていると

「ヴィル」

 ゲオルグ師団長がやって来て、タールに声を掛けた。

 隣にはシュゼル皇子がいる。タールと話し込んでいたせいで、追い付かれてしまった。

「シュゼル殿下……と」

 タールはシュゼル皇子に深々と礼をした後、ゲオルグを見てナニやら舌打ち混じりに呟いていた。

「……ぇ」

 莉奈は、目を見張り耳を疑った。たまたま隣にいたので聞こえてしまったのだ。気のせいであって欲しいと願う。

 だってタールさん……ゲオルグさんを見た途端に、ものスゴく嫌そうな声でこう言っていたのだ。




 "筋肉ダンゴ" と。




 見た目が爽やかなタールからは、想像もつかない悪態だ。そういう事を、絶対に言わないタイプの人間に見える。

 莉奈は気のせいだろう……と、思う事にした。



「何か用でも?」

 タールの声がワントーン下がった。

 いつも優しく微笑むタールからは、想像出来ないくらいの冷たい表情と声。ゲオルグを見た途端、という事はゲオルグを嫌っているという事なのだろうか?

 だけど、職務上私情を挟むタイプではないハズ。理由は分からないが、それを抑えられないくらいに嫌っている雰囲気だ。

「イイ加減、その態度を止めてくれないか?」

 ゲオルグが降参とばかりに、両手を上げた。

「魔竜退治など、この男にやらせれば良いのですよ。シュゼル殿下」

 タールはさらに冷ややかに言った。

 この2人に何があったの知らないが、この態度と口調。間違いではなく、嫌っているらしい。しかもタールの方が一方的に。

「通例ならそうですが、陛下に御指名が上がったのは私ですからね。残念ながら譲れません」

 シュゼル皇子は、ほのほのと微笑んだ。

 確かに他の国なら一国の宰相が、自ら危険な魔物討伐に行くのは絶対にあってはならない。だが、陛下から直接命令を下された。

 勅命である王命を反故にし、他人に任せたとなれば、陛下が黙っている訳がない。



「何のための筋肉だか……」

 それを聞いたタールは、小さく小さく呟いた。

 聞こえてしまった莉奈は、苦笑するしかなかった。魔物退治のためだけに、鍛えている訳でもないだろうしね。



「あぁ。そうだ、ゲオルグ。リナが美味しい干し肉を作ったので、少し味見をしてみませんか?」

 何を思い付いたのか、莉奈をチラリと見た後、タールはにこやかに笑った。




 うっわ。今の黙っとけよ? って合図だよね?




 タールさん……。




 あのキャリーの毒肉。ゲオルグさんに食べさせるつもりですね?

 莉奈は頬が、ピクピクとひきつり始めていた。

「お前が私に笑顔を向けるなんて、裏しかない気がするのだが?」

 ゲオルグはタールの企みを読んでいるみたいだ。

 普段から自分に笑顔を向けている人ならともかく、自分を嫌っている人が急に笑顔を向けたら、普通に何かあると思うだろう。

「作ったのが私なら警戒しかないでしょうけど、リナですよ? はぁ。信じられないのならイイですよ。肉が好きだからと、なけなしの厚意で勧めたのに……」

 タールはこれみよがしにため息を漏らして見せた。

 本心から残念だと思っていないハズなのに、知らない人が見たら、本当にガッカリした様子に見えた。

「肉か……」

 何も知らないゲオルグは、生唾をゴクリ。

 莉奈は何かを知っているから、固唾をゴクリ。




 タールさん……。怖い。




「見てすぐ分かってはつまらないので、目を瞑って食べて当てて頂きましょうか? ね? リナ」

「え? あ、はい?」

 ちょっと~っ!! こっちに話を振るの、ヤメてもらってイイですかね?

 共犯者になっちゃうでしょう!? 巻き込まないで下さい!!



「目を……お前、やはり何か企んで―――」

「私も今しがた食べましたが、大変スパイスが効いて "痺れる様な" 美味しさでしたよ? ね、リナ?」

 ゲオルグの話を遮り、タールはにこやかに微笑んだ。賛同しろと目が言っている。 

「まぁ……痺れる様な……確かに?」

 アハハ……ガチでだけど?

「ヴィルは本当に食ったのか?」

「ほんの10分前に食べましたよ?」

 不審過ぎて眉を寄せたゲオルグに、莉奈はアハハと笑った。嘘はついてない。食べたのは本当だし、痺れたのも本当である。


 

「ゲオルグ。試しに食べてみたらどうですか?」

 爽やかなシュゼル皇子の笑顔が1つ。

 あ~あ。無責任過ぎるシュゼル皇子の、後押しまでもが付いてしまったよ。

 こういうところ、やっぱりフェリクス王の弟だ。自分に無関係で面白そうだからと、後押ししたに違いない。



「殿下がそうおっしゃるのなら……」

 シュゼル皇子にもそう言われ、ゲオルグは食べてみるかと腹を括った様だ。

 皇子にまで言われたら、拒否なんて出来ないだろう。ゲオルグは何も知らないだけに憐れである。



「で……では、口に入れますね」

 タールに例の干し肉を手渡され、もはやノーとは言えない莉奈は背伸びをし、目を瞑ったゲオルグの口にポイッと入れた。

 干し肉を見たシュゼル皇子は、一瞬驚いた表情を見せたが、横を向いて肩を震わせていた。

 あれは、絶っ対に笑っているに違いない。

 青紫色の干し肉を見て、あの例の肉だと気付いた様である。 



「ん? 確かにスパイスが強め―――で!?」

 咀嚼をして味を確かめていたゲオルグは、ある瞬間に身体をビクリと硬直させた。

 先程のタールとまさに同じ状態である。

「痺れる様な美味しさでしょう?」

 くつくつと笑うタール。もはや悪魔と化した彼は、痺れるゲオルグにゆっくりゆっくりと歩み寄る。

「お……前……」

 ピクピクと痺れて逃げれないゲオルグに、悪魔の様な微笑みを浮かべたタールが、ゲオルグの肩をツンと軽く突っついた。

「あんぎゃ~ぁ!! 触るな! あぎゃお!!」

 痺れに痺れたゲオルグが、ヒイヒイ叫びを上げて悶えていた。

 だが、日頃の恨みとばかりにタールは、ツンツン指先で突っつく。

「ふぎゃ――――っ!! やめ……あぎゃ~っ!!」

 容赦ないタールの攻める指先に翻弄されまくり、ゲオルグは巨体をヒクヒクとさせていた。

「フフフ……」

 逆にタールは、実に満足そうに突っついていた。

 その手を緩める気など……ある訳がない。痺れて逃げる事も出来ないゲオルグを、悪魔の様な笑みを浮かべて再び突っつく。

「の、のわぁ~っ!! ぐっ!!」

 数歩離れたところにいるシュゼル皇子も、その奇妙なやり取りを楽しそうに見ていた。

 解毒薬を持っていない莉奈は、憐れむしかなかった。



「やめろ――――――――っ!!」

 その効果が消えるまで、ゲオルグの悲しい悲鳴が、しばらく白竜宮に響いたのはいうまでもないのだった。

 






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