245 久し振りの、イイ痺れってナニ?
「わっ。リナ?」
あまりの恥ずかしさに走りまくっていた莉奈は、曲がり角で人にぶつかりそうになっていた。
「あっ! タールさん。すみません」
それは、魔法省長官のタールだった。彼も近衛師団に所属しているから、いてもオカシクはないのだろうけれど、ここで会うのは珍しい。
「すみませんはいいですけれど……慌ててどうかしました?」
いや~。アナコンダなんて口走って? とは言えない莉奈は、笑って誤魔化すしかない。
「まぁ。色々と……あっ! それより、生キャラメルを作ったんですよ。どうぞ!!」
莉奈は魔法鞄から、生キャラメルのビンを4ヶ出した。
魔法省の黒狼宮にも誰かが運ぶとは思うけど、あんな小さいのを1個ではなくて、お世話になっている人にはたくさんあげたい。
「生キャラメル?」
「バターと砂糖などで作った、甘味です」
「ありがとうございます。ビター、マーブル……ほぅ。色々とあるのですね。リナの作る物は何でも美味しくて……また、是非作りに来て下さいね?」
魔法省長官タールは優しく微笑むと、それを自分の魔法鞄にしまった。後でゆっくりと味わわせて頂きますと、微笑んだタールさんはいつも優しいなと、莉奈は心がほっこりしていた。
「あっ! そうそう。えっと……例のアナ……じゃなかった。キャリーの干し肉? も出来たのでどうぞ」
頭がアナコンダの事で一杯だったから、危うくアナコンダとか言っちゃうところだったよ。
「ありがとうございます!!」
キャリーで莉奈が何を言ったのか分かったのか、途端に目を輝かせたタール。
食い付き方が、さっきの生キャラメルと全然違う。普通、逆じゃないのかな?
「これを炙れば……」
縦長のビンに入った、キャリオンクローラーの干し肉を見るタールの目がキラキラとしている。
この人……感性が皆とは少し違う気がする。
「そう言うと思って、炙ってあるのもありますよ」
莉奈はもう1つビンを取り出した。
炙りたてホヤホヤのキャリーのお肉である。乾燥すると黒っぽいんだけど、火で軽く炙ると元の青紫色に変わる。キモイ干し肉だった。
「はぁぁ~。すぐ食べられる様にと……配慮ありがとうございます」
タールは満面の笑みを見せた。
ちなみに炙ると、肉に近いイイ匂いがするから不思議だ。
「では、失礼して。さっそく1つ」
タールは何の躊躇いもなく、小さめのキャリオンクローラーの干し肉をビンから取り出し口にした。
「えぇっ!?」
そんな真っ先に口にするとは思わなかったから、莉奈は絶句である。
何故、生キャラメルは "後で" なのに、キャリオンクローラーの肉は "今" なの!?
自分を信用してくれるのはありがたいが……そんな貰ってすぐとは予想外であった。
――もぐもぐモグモグ。
「ど……どうなんですか?」
タールが無言のまま食べているので、莉奈は不安しかない。
美味そう……とは思えないけど、不味かったらすぐに吐き出しそうなものである。
「スパイスの味以外は……特……に……っ!!」
味の感想を話していたタールは、身体をビクッとした後、急に硬直した。やはり毒があるのかもしれない。
「え!? タ、タールさん!?」
莉奈は慌ててタールの身体に触れた。
鑑定ではピリピリすると表記されていたが、死に至るとは書いてなかったハズ。だが、タールがピクピクしたまま動かないのだ。
「きひゃっ!! さ……触らないで!!」
「え!? あ、はい? 大丈夫なんですか?」
莉奈が、軽く肩に触れた途端に、変な声を上げて悶えた。動くたびに変な奇声を上げそうになっている。
「……」
莉奈はドン引きであった。
死んでしまう感じではない様だけど……身体には良くなさそうである。動くのも辛そうだ。
「ひっ……はぁっ」
変な声を出してヒクヒクしている。
莉奈がどうしたものか悩んでいると、タールは魔法鞄から何かを取りだし、ゴクゴクと一気に飲み干した。
「ぷはっ。痺れで死ぬかと思いましたよ」
どうやら、キャリオンクローラーから精製した解毒薬の様である。
「……そう……ですか」
何してるのかな? この人。
貴重な解毒薬を、試食のために1本空けたからだ。この人、こんな人だったかなと、莉奈は眉をひそめていた。
「味はスパイスがほとんどでしたけど、いやぁ……久し振りにイイ痺れでした」
「ソウデスカ」
実に爽やかに言うタールに、莉奈は無表情に答えた。
毒の芋虫を食べて "イイ痺れ" でしたってナニ? 痺れに良いも悪いもないと思うのだけど。
だって、痺れは痺れじゃないのかな。




