244 アナコンダ?
「ところで、何故ここに?」
莉奈が頭を撫でられて、怖がっているのを知っていたかはさておき、撫でる手を止めシュゼル皇子が尋ねた。
最終的に、アメリアの件で弟がふて腐れ、兄に連れて行かれたのだが……自分に会いに来た訳でもなく、竜を見に来た訳でもなさそうだったからだ。
「あ~え~と」
頭を撫でられた恐怖で、すっかり目的を忘れてしまっていた莉奈。慌てた様にガサゴソと魔法鞄を漁った。
「生キャラメルを作って――――」
「ありがとうございます!!」
シュゼル皇子はグイグイと、ものスゴい食い気味に笑顔で答えた。相変わらず最後まで、話をさせてもくれない。
作れない事になったら……本当にどうなるのかが怖い。
「なんだか、可愛らしいですね」
ビンの中には、キャンディ包みをした生キャラメルが、10ヶずつ入っている。
ノーマル、ビター、マーブル……そして塩である。チョコレートがあればチョコレート味も出来るのだが、ヤヤコシイ事になりかねないので口をつぐむ。
「生キャラメルは溶けやすいので、油紙で包んであります」
「ノーマル……ビター……色々な種類があるのですね?」
ビンの側面に紙を貼り付けておいたから、それに気付いて見た様だ。種類別に書いておいたからね。
「そうなんですよ。あっ! ゲオルグさんもどうぞ」
廊下の隅で待機していた、近衛師団長のゲオルグを呼んだ。
他にも色々と種類があるのかと聞かれたりしたら、このままだと余計な事をポロリと口から滑りそうだった。
チョコレート、抹茶、ヨーグルト……生キャラメルの種類は実に豊富にある。好みでいうなら、ノーマルか抹茶だけど。
チョコレートの原料のカカオでもあの騒ぎなのに、抹茶とか言ったら地獄を見そうだ。
でも……緑茶は飲みたいので、そのうちワザと口を滑らせようと莉奈はほくそ笑む。
だって、この世界に紅茶はあるのだから、同じ茶葉から作る緑茶も烏龍茶もあると思う。この国にはなさそうだけど、どこかの国にはあるのかもしれない。
製造方法は知っているから、教えて作って貰う事も出来るけど……先にお手本を見せるのが面倒くさい。発酵やら手揉みやら乾燥やら、やる事が山程あるからね。
「私の分もあるのか!! よし、ポーションをあげよう」
「なんでだよ」
そんな事を考えていたら、ゲオルグ師団長が莉奈の手にポーションを載せた。
どうやら、生キャラメルの代わりという事らしい。何故この人はポーションをあげたがるのだろう。貰って損はないからいいけど……。
「んん~!!」
ではさっそくと、生キャラメルを口に放り込んだシュゼル皇子が、口を押さえた。
口に入れると、口の中の体温ですぐに溶け出す生キャラメルに驚き、つい溢れないかと口を咄嗟に押さえた様だ。
「で……殿下!?」
莉奈が毒を入れた訳ではないのは百も承知だが、シュゼル皇子が慌てて口を押さえたので、ゲオルグ師団長は驚いて声を上げてしまった。
「な……なんですか。コレ!!」
それが、生キャラメルですよ? と莉奈は笑う。
「口に入れた途端に美味しさが広がって……アイスクリームとは違うこの不思議な口溶け……はぁぁ」
シュゼル皇子は、ものスゴく気に入ったのか、ほぉと惚け瞳がキラキラとしていた。
そこまで喜んでくれたのなら、作った甲斐もあるというもの、だからついつい口がするりと滑らかに動いてしまった。
「ですよね~。コレ、クリーム状にしてア……」
アイスクリームにかけると……と言いかけてグッと口を閉じた。
口は滑らさんと、つい先程誓ったハズなのに、何故また口を滑らせてしまった。
仕方がないよね? 気付いたら口が動いていたのだから。
「ア?」
なんですか? と、キラキラして惚けていたシュゼル皇子が、聞き逃す訳がなく莉奈をロックオン。莉奈は空笑いが漏れ、脂汗が流れていた。
そして、動揺しまくった莉奈は、さらに余計な言葉が口から漏れた。
「ア、アナコンダに付けて食べると美味しい?」
「「「………………へ?」」」
たまたま通りかかった近衛師団兵も、思わずその足を止めて莉奈を見た。莉奈は今、何か変な事を言わなかったか……と。
「「……は?」」
シュゼル、ゲオルグも目が点である。聞き間違いかと、互いをチラリと見ていた。
そして通りかかったすべての人達と、シュゼル皇子、ゲオルグが再び、莉奈を見て口を揃えこう言った。
「「「「「アナ……コンダ?」」」」」
「……」
莉奈、無言である。
アハハ…… "アナコンダ"
ナゼ、よりにもよって "アナコンダ" をチョイスしたかな私?
生キャラメルをアナコンダにかけるって、何なんだよ!!
「……ぷっ」
そんな妙な沈黙は、シュゼル皇子が吹き出した事で破れた。
「リナ?」
それで思考が戻ったゲオルグが、どういう事なのだと莉奈に問う。
すみませんが問われたところで、答えなどないのだから……皆さん見ないでくれるかな?
「それ……」
「「「それ……?」」」
「アナコンダに付けて食べてね――――っ!!」
もうどうにもならないと諦めた莉奈は、そう叫んで脱兎の如く走り出していた。
こういう時は逃げるに限る。最悪だよ。最悪!!
アナコンダに生キャラメルを付けて食べるなんて事、あって堪るか―――っ!!
穴があったら入りた――い!!
「「「どういう事なんだよ、リナ―――っ!?」」」
近衛師団兵の皆の、驚く様な声が背中に響く。
「プッ……アナコンダに……生キャラメル」
シュゼル皇子は言い逃げした莉奈を見て、堪らずお腹を抱え笑っていた。
莉奈が、何を言いかけていたのかは分からない。だが、そんな事より言い訳が面白過ぎる。強大な蛇に、生キャラメルをかけて食べるとは、予想もつかない答えだった。
「アナコンダに……」
近衛師団兵達は、生キャラメルが分からない。……が、強大な蛇、アナコンダに、何かソース的なモノをかけるのかと想像する。
「ど……どういう意味なんだ?」
「蛇にソースって事?」
「え? リナは蛇を食うのか!?」
「そもそも、生キャラメルって何?」
「「「っていうか、アナコンダって食えるのかよ!?」」」
近衛師団兵達はざわめきを隠せず、ボソボソと口を開いた。そして、一様に顔を見合わせ眉を思いっきり寄せた。
そして、皆は思った。莉奈は竜達の言う通り、何でも食らう人間なのかもしれない……と。




