240 ビターもイイけど塩もイイよね
「それは……わざと、焦がしているのかい?」
莉奈が新しくバターに砂糖を溶かしていると、不思議に思ったリック料理長が訊いた。
莉奈が作っているのは、先程のとは色が違ったのだ。先程が黄土色ならソレは焦げ茶色だった。
「だよ? コッチはほろ苦いビター味にするからね」
これを、ノーマルタイプと軽く混ぜてマーブル状にしても美味しい。勿論そのままのビターでも美味しいけど。
作りながら、混ぜるか混ぜないか悩んでいた。いくらシュゼル皇子が砂糖をくれたとしても、すべてをこれに使う訳にはいかない。
だから限度がある。作るとしてもマーブルは、とりあえず自分と2人の皇子の分しか作る予定はない。文句がありそうだけど……。
「リナ。ひょっとして……キャラメルって色々な種類があるのか?」
莉奈がそんな事を考えながら下準備をしていると、今まで作ってきた物と莉奈の行動でもしかして? と疑問に感じたマテウス副料理長が訊いてきた。
……が、莉奈は面倒くさいな……と聞こえなかった事にした。
「「「リ~ナ~」」」
まぁ。無視したところで、結局は皆に捕まる訳だけど……。
「あるけど……全部はムリだから、とりあえず、すぐ作れるフレーバーは作るよ」
「「「やったぁ!!」」」
喜ぶのはイイけど。皆には4種類全部は無理だと思う。
箝口令でも出して、ここの厨房にいる人限定にすれば、あるいはだけど。
「やったぁって、全員になんてムリ―――」
莉奈がそう言おうとした瞬間。皆の目が、こちらを悲しそうに見てきた。自分はガッツリ貰う気なので、皆はダメだよ? とは強く言えない。
「わ……わかった。食堂、厨房を、準備中かなんかにして、後から人が来ない様にしちゃいなよ。ノーマルタイプはこれから来る人達の分も含めて全員分作るけど、違う種類のは……」
「「「……のは?」」」
「今、ここにいる人達限定って事で……」
「「「よっしゃあ~~っ!!」」」
「「「やったぁ~~っ!!」」」
莉奈が妥協案を伝えると、皆が歓喜に沸いた。
皆で嬉しそうに仲良くハイタッチしている。楽しそうで何よりだけど……明日は我が身じゃないのかな?
莉奈は苦笑いしていた。
「あっ。じゃあ、準備中の札出しておくわ!!」
「誰かが開けない様に、掃除でもしながら見張ってる」
「なんだって訊かれたら、お楽しみってボヤかしとく!!」
そうと決まれば、料理人や侍女達は一致団結である。
興味本意で覗きに来る人達や、ちょっと早めの休憩組を追い出す算段を、協力し合い準備していた。
そんな皆の様子を複雑な表情で見ていた、エギエディルス皇子なのであった。
◇◇◇
そんな騒ぎの中、生キャラメルは完成した。
後は、油紙を敷いたバットに移して冷やすだけ。一口大に切り分けるのには、冷やさないといけない。
冷蔵庫で冷やしてもイイけど、時間が掛かるから魔法で冷してもらうとして……まだ、やる事はある。
「え? せっかく作ったのに混ぜるのかい?」
リック料理長が、少し驚き訊いてきた。
ノーマルタイプを流したバットの上から、莉奈がビタータイプを流し始めたからだ。何故そんな事をするのかと。
「軽くね。こうすると、甘さの中の苦味がアクセントになって美味しい。プリンのカラメルみたいな感じ」
そう言って軽くマーブル状に、フォークでクルリとひと混ぜした。
「あぁ。確かにあれは良いアクセントになっていて美味しいな」
リック料理長は顎をひと撫でして頷いた。
初見で食べれなかった人達も、あれから何度となく機会があって、口に出来ていたのだ。
王宮の砂糖は使えなくても、ここは貴族の御子息様や御令嬢様もいるからね。砂糖持参で頼む人も中にはいる訳。
「えぇ!? リナ!?」
「なんで塩なんかかけるんだよ!?」
ラナ女官長とエギエディルス皇子が声を上げた。
今度はバットに流した生キャラメルの1つに、莉奈が塩を振りかけ始めたからである。
甘いお菓子に塩をかける。台無しになるだろうと驚いていたのだ。
「これは塩キャラメル。塩をかけると、甘さが引き立つんだよ」
「マジで?」
「マジでだよ」
不審そうなエギエディルス皇子に莉奈は笑った。
絶対に信じていない顔をしている。甘い物に塩を掛ける発想が、今までなかったのだろう。
「へぇ。今度は塩か。後かけにするのは、アクセントにするためだな?」
リック料理長はすぐに理解が出来たのか、なるほどと大きく頷いていた。
そうなのだ。混ぜてしまうより、より一層甘さが引き立つのだ。
「なら、アイスクリームにも塩をかけたら甘さが引き立つのか?」
甘さが引き立つならと、エギエディルス皇子が疑問を投げ掛けてきた。
「……う~ん?」
やった事はあるけど、私は美味しいとは感じた事はない。
「モノによるんじゃない? 試してみれば?」
「断る」
そのままでも美味しいアイスクリームで試す気はないのか、エギエディルス皇子はキッパリ断った。
そんな彼に小さく笑いつつ、相変わらず予想もしない質問をしてくる皇子には、莉奈は唸るばかりであった。
塩大福は美味しいと思う。だけど、私は塩アイスクリームは美味しいとは思わない。好みにもよるのだろうけど。
「バットに移した後の残りは、食べていいの?」
高速料理人リリアンが、莉奈の肩をドドドと連打していた。
リリアン……マジで肩に穴が開くんだけど?
取りきれなかった生キャラメルが、鍋にこびりついて残っている。気になるのかリリアンが訊いてきたのだ。
なんなら、莉奈がどう返してくるか、皆が固唾を飲んで見ている。味見がしたくて仕方がないみたいである。
「この鍋以外は、味見に回していいよ」
生キャラメルを作った鍋を2つ確保しておく。ノーマルタイプとビター味のである。これはエギエディルス皇子と自分の楽しみ用だ。
「よっしゃー!!」
「スプーンを用意しよう」
「って、待てよ! リリアン指を突っ込もうとするな!!」
「スプーンだ。スプーンを使え!!」
「え~っ」
「「「え~じゃない!!」」」
歓喜に湧いて料理人達が、味見用のスプーンを探していると、早速リリアンが鍋に指を突っ込もうとしたので、皆は必死に止めていた。
ペロペロ舐めた指を、何度も入れられたら嫌だよね。リリアンは口を尖らせて文句を言っているけど。
「はい。エド味見」
莉奈は早々と小さいスプーンを棚から出し、出来立てホヤホヤの生キャラメルをスプーンに掬った。
出来立ての生キャラメルは、ものスゴい柔らかくてクリーミーで美味しいハズ。
「いい……のかよ」
生唾をゴクリと飲みながらも、お伺いを立てるエギエディルス皇子。
わぁわぁと騒ぐ料理人達とは大違いである。
「超美味しいよ?」
莉奈は試しにと、先程混ぜたフォークの方を口に入れた。
口に入れた瞬間、口の中の体温でふわりと広がった生キャラメル。甘さの中に良い苦味が広がる。堪らない美味しさである。
普通のキャラメルと違って、すぐに溶ける口どけは生キャラメルならではだ。
「んーっ!?」
生キャラメルを口に含んだ瞬間、エギエディルス皇子の目が驚き開いていた。
アイスクリームとは違う、ゆっくりと口に溶ける滑らかな舌触り。そして、口一杯に広がる甘いキャラメルが、初めての感覚で驚いているみたいである。
「どう? 美味しい?」
「すげぇ!! 口を開くと口から美味しさが漏れそうだし!! なんだよコレ!!」
エギエディルス皇子の瞳は、キラッキラッとしていた。
どうやら気に入ってくれた様である。
「ん~っ!?」
「甘~い~っ!」
「口から甘さが溢れそう」
「はぁぁ~っ」
「美味し~い」
料理人、侍女達は一様に口を押さえ、瞳を煌々とさせ甘美に震えている。
初めての感覚に、女性達はメロメロでふにゃふにゃとしていた。あまりの美味しさに腰が抜けたみたいである。
しばらく、余韻でぽやぽやとしていた……が、リリアンがシュパっと素早く二口目を伸ばせば、負けないとばかりに目がギンギンとし始めたのは云うまでもなかった。




