24 この女
前書き……って、何を書くものなんでしょう?
本文より悩む作者なのでした……。
「ぜえ…ぜえ…」
「……エド……運動不足なんじゃない?」
「……お……まえ……が……どうか……してるんだろうが!」
莉奈が、王宮に着いて数分、エギエディルス皇子が不機嫌そうにやって来た。
……息もたえだえで……。
パン酵母を、作ろうと思い付いた莉奈は、善は急げと云わんばかりに王宮まで猛ダッシュ。
急に、走り出した莉奈を追ってエギエディルス皇子も、慌てて追いかけた。
小デブになったとはいえ、まだ全然スリムではない莉奈になら、追いつくと思っていたが、まったく追いつかなかったのだ。
……いったいどうなってるんだよ!
エギエディルス皇子は、人知れず怒鳴っていた。
◇◇◇
【王宮】……本宮と呼ばれるこの宮は【銀海宮】と云うのが、正式名称。
そして、位置的にはこの王宮 左隣、莉奈のいる離宮は【碧月宮】と呼ばれ、主に賓客用の邸のようだ。
基本、それぞれの建物には【色】がついた名称になっている。
その後は【月】だったり【空】だったり【生き物の名】だったりだ。
面倒な時は、色で伝えたりするのだそう。
ちなみに、王の住まう所は【漆黒】だと勝手に思っていたけど【金】でした……。
……すみません……フェリクス王。
見た目で、想像してました。
◇◇◇
「……ここが、厨房?」
木製の両開きの扉には彫刻が施されていて、扉だけでも値段が高そうだ。
中が見える様に、人の頭の高さに丁度ガラス窓がある。
小柄な莉奈は、少し背伸びをして覗ける位置だ。
中では料理人達が、慌ただしくしている。時間的に、昼食の準備に追われているのだろう。
「……お前、ソレ怪しいから……さっさと中入れよ」
扉の窓越しに背伸びをして、中を見ていた莉奈にエギエディルス皇子が呆れていた。
「……忙しそうだけど?」
「……お前のその配慮、皇子の俺にこそ、あってもイイと思うぞ?」
自分には、全然 "遠慮" や "配慮" がない莉奈に、さらに呆れてみせた。
「……配慮しましょうか?……エギエアティブ皇子?」
「……まず、名前を覚えろや……」
「……たのも~~~ぅ!!」
莉奈は、おもいっきり大きな声を上げて扉を開けた。
………あれ?……これじゃあ、道場破りみたいだ……。
「お前……どういう挨拶なんだよ」
なかばツッコミ係になりつつある、エギエディルス皇子が疲れた様に言う。
「…………っ!?」
「…………っ……で……殿下!!」
初めバタンと、おもむろに開いた扉と莉奈に驚き、その後…脇にいるエギエディルス皇子に、ハッっとしバタバタとし始めた。
「……そのままでいい……」
頭を下げ始めた料理人に、エギエディルス皇子は手で制した。
厨房では、火を使う。目を離してはと配慮した様だ。
「……エギエディルス殿下……この様な所に何用で……? ま、まさか、朝食に何か……!?」
頭を深々下げ敬意を見せていた料理長は、震えるように言った。
わざわざ皇子が、御自らここまで足を運んで来たのだ……何かあったに違いないと勘違いしても仕方ない。
「朝食に問題はない……用があるのはこの女だ」
……この女?……今、この女って言った?
……ちょっと~!? 絶対フェリクス王の影響だ!!
「……今、殿下からご紹介戴きました "この女" と申します。以後、お見知り置きを……」
「「「…………えっ?……」」」
厨房にいる人達は唖然とした。エギエディルス皇子の言う "この女" は、勿論そういう意味合いで言った訳ではない。
なのに莉奈は、それをわざとそういう意味として取り、なおかつ頭を下げて挨拶までしてみせた。完全にイヤミだ。
「……っ……お前マジで、イイ性格してるな……」
これには、エギエディルス皇子も呆れつつ驚いてもいた。
自分が何気なしに言った言葉を、そう取るとは想像してもいなかったのだ。
しかも、まだ子供とはいえ"仮にも"自分は皇子だ。
そんな風に接する市民などいない。
普通なら、不敬もいいとこだが……エギエディルス皇子は、逆に身分に関係なく接する莉奈に、楽しささえ感じ始めていたのだった。