239 超簡単、超面倒。生キャラメル作り
「チョコレートってヤツ、そんなに大変なのか?」
マテウス副料理長が訊いてきた。
莉奈とシュゼル皇子の会話を聞いていたらしく、皆もチョコレートとやらに興味津々である。
「ハハハ……。シュゼル殿下がカカオ豆を見つけて来たら、私はリックさん達に作り方説明して、丸投げするからヨロシク」
あんなモノ、手作りしようなんてどうかしているよ。しかも、滑らかに出来る保証なんてないし。苦労した甲斐があるとは思えない。だから、丸投げに限る。
「「「はぁぁぁ~っ!?」」」
一同唖然だ。とんだ飛び火であった。自分達は関係ないだろう。
「でも、確実に食べられるよ?」
「「「うっっ!」」」
口に出来ると言われ、皆はグッと押し黙った。
作るのは大変……だが食べたい。心中は複雑な様である。
◇◇◇
「さて。今日明日にカカオ豆が見つかる訳もないし、今はキャラメルを作りますか」
心に正直過ぎる皆に苦笑いしつつ、莉奈は改めて気合いを入れ直す。
いつ手に入るかも分からないチョコレートの存在より、今は目の前のキャラメルである。リック料理長とマテウス副料理長は強制参加させるとして、後は繊細な人を数名選んだ。
「キャラメルと一口に言っても、生キャラメルとただのキャラメルがある」
「生? どういう事?」
「レアって事か?」
「火を通さないのか?」
説明をし始めれば、新たな疑問と興味が皆から湧いて出る。
「火は通すよ。生キャラメルは、口溶けがソフトで柔らかいから生と付いてる。ちなみに、シュゼル殿下が探してしまうかもしれない、カカオ豆から作るチョコレートも、生と普通のチョコレートがある」
「「「へぇ~っ」」」
「要は、柔らかいのを "生" って言うのかな?」
で、イイハズ。何が定義なのかなんて考えた事もないから、説明しようがない。違ったとしても、誰も分からない訳だし問題ないでしょ。だって、ここでは私が法律だもん。
「で。私は断然生キャラメル派なので、生キャラメルを作ります」
「「「おぉ~~っ!!」」」
莉奈がそう宣言すれば、生キャラメルがまだ何だか分からないのに、皆が歓声を上げた。
新しいお菓子が食べられれば、何だってイイのかもしれない。
莉奈はいつも通りに、まずは見せながら作り始めた。深さのない大鍋に、シュゼル皇子から貰った砂糖とバターをたっぷりと入れた。
「まずは、浅い大鍋にバターと砂糖を入れて溶かす」
「「「ふんふん」」」
「砂糖を溶かしながら10分くらい煮詰める、そんで人肌に温めた生クリームを一気に投入……で」
「「「で?」」」
「ひたすら混ぜる」
これだけである。莉奈は皆に説明しながら、同じ事をやらせる。
何百と作る訳だから、大人数で作らないと無理だからだ。家で作るのなら、フッ素樹脂加工のフライパンでやれば焦げ付きにくいし、量も少ないしで簡単に出来る。
だけど、この大人数だ。大鍋でグリグリとひたすらかき回すのは、気が遠くなりそうだなと少々気分がブルーになる。
材料がすべて入っている練乳を使えば、1番簡単なんだけどね。
ウワサに聞いた話によると、寸胴に市販の練乳の缶詰をそのまま入れて、10時間コトコトと弱火で煮れば簡単に出来上がるらしい。
1度はやってはみたかった作り方だったが、なんだか缶詰が爆発しそうで怖いので実践はした事がなかった。
「……で?」
「これをクリーム状になるまで、気合いで混ぜる」
「え? それだけ?」
「それだけ」
「簡単過ぎるな」
作り方を教えたら、リック料理長やマテウス副料理長達が、驚きの声を上げていた。
材料も少ない上に、やる工程も少ないからだ。
「だけど、スゴい時間が掛かるよ。弱火でじっくりクリーム状になるまで、ただただ混ぜる。びしゃびしゃだからと時短で強火にしちゃうと、すぐに焦げ付くし……あまり火を通し過ぎると、ただのキャラメルになるし」
そうなのだ。混ぜるだけの簡単な作業な訳だけど、ずっとグリグリと目を離さずやっているのは苦痛でしかない。
油断するとすぐに焦げ付くので、鍋底をヘラでまんべんなく削ぐ感じで混ぜなければいけない。
挙げ句、火を通し過ぎれば、普通のキャラメル。火を通すのが甘いと、ドロドロのキャラメルになる。
スゴい簡単でスゴい面倒くさい作業である。
「……柔らかい食感にはならない……と」
理解が出来たのか、リック料理長がヘラで混ぜながらウムと頷いていた。
1を言えば5は分かる料理人達に、莉奈は感服していた。
近くで聞いている侍女達は、分かりませんと頭にお花が見えるしね。考えてもいない様子である。
「じゃ。私は違うフレーバーを作りたいから、後はよろしく」
見学のため……というか、タダの野次馬で近くにいるラナ女官長にヘラを渡した。
他の料理人でもイイけど、夕食作りもあるからね。それに、どうせ出来るまでいるに違いない。
「え゛? わ、私がやるの――――っ!?」
莉奈の唐突な無茶ぶりにラナ女官長、大絶叫である。
新しいお菓子への好奇心でいただけなのに、参加するハメになるとは予想外であった。
「焦げない様に、ヘラで底をまんべんなく混ぜてるだけで出来るよ」
「だ……だけど!!」
「手伝ってくれたら、違うフレーバーのもあげる」
「…………や……やるわよ」
違う味も貰えると聞き、ラナ女官長は覚悟を決めた様である。それなら参加せざる得ないと。
「私は? 私は何をやればイイの!?」
モニカがピシリと手を挙げ、これでもかって程、激しく主張して見せた。
ラナ女官長だけ、ズルいと表情に出ている。他の侍女達も同じみたいで頷いている。
手伝うから頂戴と、目をランランとさせながら無言で訴えていた。
「んじゃ。モニカはこっちのフレーバーを手伝ってもらうとして、後の人達は、あのガラスを片付けなよ。それから、何か手伝ってもらうから……」
「「「分かったわ!!」」」
真珠姫の怒りで飛び散ったガラス片が、まだそのままだしね。片付けるのが先だろう。
莉奈はとりあえず、何か参加する約束をさせて、残りの侍女達の圧を苦笑いしつつ抑えるのだった。
この世界。甘味といえば、煮た豆に砂糖をまぶす豆菓子。後はアメみたいなモノや、ドライフルーツ等簡単に出来る物しかない。圧倒的に種類がなかった。
その上に、砂糖は服を何着か買うより高い。だから、庶民はおいそれと甘味を出さない、買わない。
そして、例え砂糖が手に入ったとしても、レシピがないお菓子は作れない。万が一失敗すれば、お金をドブに捨てる様なモノである。
となれば、必然的に莉奈に群がるのである。
莉奈が作る物が少量だとしても、口にした事のない甘味は食べたい。運が良ければ、今日みたいに食べられるからだ。
それも、莉奈が作る物はどれもが美味である。とりあえず、集っておいて損はない……という妙なルーティーンになっていた。
まっ。食材や砂糖が誰でも安く手に入ったとしても、莉奈に集るのは変わらない気はする。
だって莉奈が作ると、ナゼか特別に美味しいからね。
◇【聖女じゃなかった~】のコミックを家に迎えてくれた皆々様、ありがとうございます!!
今後とも、よろしくお願いいたします。
ヽ(*≧ω≦)ノシ




