233 毒……?
頭が甘味で埋まっているシュゼル皇子はともかく、果実は実に様々であった。
呆れしかないが、甘味にかける情熱なら右に出る者などいないだろう。
莉奈は、そんなシュゼル皇子に呆れつつ、改めて食材を見ていた。そこで、ふと気になる果実、野菜を見つけた。一見トマトに見える果実があったのだ。
赤くて細長い野菜か果実。大きさは10cm程で、ナスの様に細長い。試しに手に取って視た。触った質感や質量的にトマトに見えるけど、これも果物なのだろうか? と。
【トマヒトマト】
土と水さえあれば、荒れ果てた土地でも生える実。
〈用途〉
実の搾り汁をポーションに混ぜると、熱傷薬になる。
〈その他〉
食用である。
実には微量の毒があり、1日に400キロ食べると死に至る。
――なるほど。やっぱり、トマトか……ん?
莉奈は、やっぱりトマトだと納得しつつ、ある項目に目が釘付けになった。
〈その他〉
実には微量の毒があり、1日に400キロ食べると死に至る。
……ん!? 1日に400キロ食べると……?
死に至る。
そんなに、食うか―――っ!!
毒があってもなくても、そんなに食べたら普通に死ぬ!!
果実に混ざっていた "トマヒトマト" を【鑑定】した莉奈は、思わずツッコんでいた。
1日に400キロも食べなきゃ効かない毒の表記いる!?
ひと月にだって400キロは無理でしょうよ!!
え? 私の鑑定バカなの?
「トマトがどうしました?」
莉奈がトマトをガン見したまま、ワナワナと震えていたのでシュゼル皇子が不審そうに訊いてきた。
その実に、何か妙な事が【鑑定】で視えたのかと。
「あ~。熱傷薬が作れます?」
「熱傷薬ですか。民間療法で実をすり潰して塗ると、火傷に効くとは耳にした事がありましたが……あながち嘘ではなかったのですね」
莉奈がどうやって作るのか説明すると、シュゼル皇子はさらに、感心した様に聞いていた。民間療法は迷信めいた事が多いため間違いも多い。
だが、すべてがそうではないのだと、感心していたのだ。
「で? 他には、何が視えたんだ?」
勘の良いエギエディルス皇子は、莉奈が何かを視て微妙な顔をしていたのに気付いていた。
「ん~」
視ておいてなんだが、この情報いるのかな?
「食べ過ぎると、毒で死んじゃう的な?」
一応言っておくかと、莉奈は渋々口を開いた。
「「「毒で死ぬ―――っ!?」」」
その瞬間、厨房で料理を作っていた人達が驚愕し、青ざめ絶叫した。
「うそ――っ!!」
「うっわ。俺、トマト好きだったのに~」
「いや―――っ。毎日の様に食べてたわよ!?」
厨房は大騒ぎである。大混乱といってもいい。今さらでも吐き出そうと、ウエウエとえずく声まで聞こえ始めた。
自分達が、知らずに食べていた野菜に毒があると聞き、皆は衝撃を受けていたのである。
「リナ。致死量は?」
そんな中、至って冷静なシュゼル皇子。
彼は、今まで食事を摂ってこなかったのだから、危機感もないのだろう。1日に400キロどころか40グラムも怪しいしね。
「えっと……1日に……400キロ?」
「「「…………」」」
騒いでいた皆が、固唾を飲んで聞いていると、莉奈の言葉に固まった。
400キロ?
皆が耳を疑い、莉奈は何と今言ったのかと、にわかにざわめく。
「あ゛? お前、今、400キロって言ったか?」
全員の思った事を代弁した様に、エギエディルス皇子が訊いた。
聞き間違いかもと考えて。
「言ったね~」
「4キロとか4グラムとかじゃなくて?」
「400キロだねぇ」
「誰が食うんだよ。トマト400キロ」
「しらん」
だって、そう鑑定で視えただけだもん。
「1日400キロ摂取しないと、致死しないと?」
「そうですね」
「ひと月にでも1年でもなく?」
「1日」
シュゼル皇子が改めて訊いたので、莉奈は空笑いしていた。
視えた以上は伝えた方が良いかな? と言ってはみたものの、意味があるのか分からない。
だって、大概何でも食べ過ぎれば、身体に良くないのは当たり前だ。
「1日400キロ!?」
「誰が食うんだよ!」
「一生になら食うかもだけど」
「俺、死んじゃうのかと思った~」
「何だよ。結局食べても平気なんじゃねぇか」
「「「リ~ナ~」」」
今度は安堵で騒ぎ始めた厨房。良くも悪くも、莉奈の言葉に翻弄されていた。
400キロなんて、食べろと言われたとしても絶対に無理だ。むしろ、他の物の方が中って亡くなる確率が高い。
料理人達は、ホッと胸を撫で下ろし作業に戻るのだった。




