221 メレンゲ作り
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「お菓子を作るけど、この中から数名。体力に自信のある人に手伝ってもらいます」
「体力?」
「え? 何するの?」
莉奈が卵白で何をするのかが分からない皆は、一斉に眉を寄せた。体力が必要とは、何だ?
「卵白を泡立てて "メレンゲ" っていうモノを作るんだけど、体力が必要」
「マヨネーズくらい?」
「マヨネーズより」
莉奈は、多少の筋力も必要だと教えた。
マヨネーズは混ぜるだけ。メレンゲは泡立てるから、体力と筋力が必要である。下に押すと回る手動の泡立て器や電動のハンドミキサーがないからね。
この国に補助する機械はないんだし……お菓子なんて、か弱い女子の作るモノではないと思う。
「ねぇねぇねぇねぇねぇ。手伝ったら、味見で貰えるの?」
"ねぇ" が多すぎるリリアンが、莉奈の肩を突っついた。
大変でも貰えるのなら参加したい、という事らしい。
「先着5名に―――」
「「「はいはいはいはい!!」」」
言い終わる前に、皆がものスゴい勢いで挙手してきた。なんだったら食い気味過ぎて、圧を感じる。
「とりあえず。料理長のリックさん、副料理長のマテウスさん……後は、体力の有り余るリリアン。軍部のサイルさん―――で最後」
最後の1名は……と、莉奈は辺りを見回した。皆は固唾を飲み込む。全員になんて行き渡らないのだから、試食がしたい。
「小窓からガン見してる、アンナにする」
莉奈はいつの間にか、ギラギラ獲物を狙う様な目で見ていた、警備兵のアンナに決めた。
無駄に体力と筋力があるし、お菓子が出来たら出来たでうるさいだろう。なら、巻き込んでしまえと選んでみた。
「やったぁ~っ!!」
アンナは手を挙げて、飛び跳ねた。休憩時間に、覗きに来てみた甲斐がある。
選出されなかった料理人達は、ガックリと肩を落としていた。口に出来るとしたら、後は運次第だからだ。
厨房に入るので、リリアンに浄化魔法をかけてもらっているアンナは、妙なテンションで小躍りしている。動きの1つ1つがウザいと思った莉奈は、人選を間違えた……と少し後悔した。
「え~。では、早速メレンゲを作っていきたいと思います」
――――パチパチパチパチ。
お菓子作りに選出された5人が拍手をしていた。
実に楽しそうである。背後には恨めしそうな料理人達がいるけども……。
「メレンゲとは、卵白を泡立てたモノだから、卵白をひたすら泡立ててもらいます」
莉奈は、大きめなボウルに卵白を入れ、泡立て器でカシャカシャと泡立てて、こんな感じとお手本を見せた。
「泡立てるってどのくらい?」
リック料理長が訊いてきた。泡立てる様な料理がほとんどないので、基準が分からない様である。
「 "ツノ" が立つくらい」
泡立て器を持ち上げ、泡立て器から落ちないくらい固くである。
「「「 "ツノ" ?」」」
理解が出来ないのか、皆が首を傾げた。
「牛のツノ?」
「トナカイのツノ?」
「一角ウサギのツノ?」
「デビルボーンブルのツノ?」
「ユニコーンのツノ?」
知っている限りのツノを上げる皆。莉奈のいうツノが、なんのツノだか分からない。
―――そこからかよ!!
莉奈は遠い目をしていた。
"ツノ" はツノである。泡立てる時はツノが立つまでと、日本では普通に使っていたが、ココではやはり通じないらしい。
そして、ユニコーンがいるのか……。幻想の生き物ではないのかと、少しだけワクワクしていたのは内緒にしておく。
「まぁ。ツノは人それぞれ。リックさんはラナが怒った時に、頭に見えるツノの固さを想像して、泡立ててくれればイイよ」
「……卵白では絶対無理だ」
この世界にも、鬼に似たモノでもいるのか、莉奈のいう処のツノが理解出来たらしい。
莉奈にそう言われたリック料理長は、怒り狂った妻のラナ女官長を想像し、ブルッと身体を震わせた。顔面も蒼白である。
――卵白では無理って……どんなツノを想像したの?
「マテウスさん達は、イベールさんのツノでも想像して泡立てたら?」
「「「卵白では無理だ」」」
マテウス副料理長達も、げんなりして項垂れた。
――だから、どんなツノを想像してるのかな?
◇◇◇
―――シャカシャカしゃかしゃかシャカシャカ。
リック料理長達が、必死に卵白を泡立てる音が厨房に響いている。
皆が皆。それぞれのツノを想像して……。
――シャカシャカシャカシャカ。
ツノの固さは誰も聞かない。このくらいでイイ? と途中で訊いてきても良さそうなものだけど、絶対に固いと分かったらしい皆は、一心不乱で卵白を泡立てている。
皆は何を想像しているのだろう。
そんな皆を見つつ莉奈はふと、フェリクス王なら? と想像してみた。
『お前は悪くない』
「ひぎゃあ~~っ!!」
途端に莉奈は、妙な奇声を上げてボッと顔を赤らめると、泡立て器でガシャガシャと勢いよく泡立て始めた。
昨夜の事を思いだし、恥ずかしくてどうしていいか分からない。あ~あ~と消し去る様に、卵白にその想いをぶつけていた。
一心不乱に卵白を泡立てる莉奈達。
そんな莉奈達を横目に、他の皆は思う。
何を想像すると、そうなるのだろうか?




