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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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220/703

220 忘れたいような、忘れたくないような?



 『おはよう』




 ―――翌朝。




 ―――優しい声が、聞こえた様な気がして目が覚めた。




 フェリクス王と、ずっといた様な気がした。

 夢かと思ったけれど……現実だった。

 ベッドの脇に、あの時羽織らせててくれた法衣ローブがあったのだ。

 結局……フェリクス王は、何故あそこにいたのだろうか?

 分からない……が。昨日の事を思い出すと、頬が火照った。

 


 

 『お前は悪くない』




 あの言葉で……心が救われた気がした。




 法衣ローブを手に取ると、ほのかにフェリクス王の匂いがした。

 莉奈はなんだか、そのこそばゆい香りに、思わず笑みを溢す。匂いが心地良かったのだ。お父さんとは全然違う、男の人の匂い。

 だけど、嫌ではない。安心する匂いだった。



「リナ。おはよう、入るわよ?」

 優しく温かい匂いに、包まれていると、隣の部屋からラナ女官長の声がした。



 ―――あんぎゃあ~~っ!!



 途中まで出かかった叫び声を、慌ててゴクリと飲み込んだ。

「……お……おはよう!!」

 莉奈は、慌てて法衣ローブから手を離し、思わず布団の中に隠した。

 やましい訳ではないが、何故か見られたくないというか、知られたくないというか、複雑な気持ちだったのだ。



「熱でもあるのかしら? 顔が真っ赤よ?」

 ラナ女官長が寝室に入って来ると、莉奈の顔を見て心配そうに窺った。

 昨夜の事を思い出していたら、顔が相当真っ赤になっていたらしい。

「ちょ……ちょっと暑かったから!」

 熱を計る様に、おでこに触れてきたラナ女官長の横を、すり抜ける様にベッドから起き上がった。

 フェリクス王がここに来たなんて、絶対に言えない!!



 ……っていうか。

 自分の足でベッドに戻った記憶がな―――い!!



 腕に包まれて、ドキドキし過ぎて記憶にない。

 慰めてもらったまでは、ぼんやりと記憶にある。

 ……たけど、そこから記憶がない。どうやって寝室に戻ったんだ?

 法衣ローブがここにあるのは何故?

 まさか、あのまま寝ちゃって運んでもらったの!?



「うっわ、う~~~っわ~~っ!!」

 莉奈は急に恥ずかしくなり、顔を手で覆って床に丸まっていた。

 冷静になれば冷静になる程、スゴく恥ずかしい!!

 お子様みたいに抱っこされて、頭ナデナデされて……。



 ―――うわぁ~~っ!!



「リナ? 大丈夫なの?」

「大丈夫だけど……全然大丈夫じゃない!!」

「え? 何? どっち!?」

 莉奈がしゃがんだまま悶えているので、ラナ女官長は眉間にシワを寄せた。一体何があったのか。

 大丈夫なのか、大丈夫ではないのか。

 答えが分からない。



「あ~っ……あ~っ」

 莉奈は忘れたいのに、忘れられず、恥ずかし過ぎて悶えていた。

 アレはダメだ。破壊力ありすぎる。私が壊れる。

「「…………」」

 そんな莉奈を、ラナ女官長や後から来たモニカが、怪訝そうな表情で見ていた。何故、変な声を上げて悶えているのだろうか?

 何か変なモノでも食べたのだろうか?



 莉奈は見られているのも知らず、しばらく団子の様に床に丸まっていた。とにかく今は、頭から消し去りたい。莉奈は、一生懸命奮闘するのであった。




 ◇◇◇




 夜は明けたけど……今日は何もしたくない。

 昨夜の余韻が消えなくて、どうしてイイのか分からなかった。なんなら、あの法衣ローブにくるまって寝ていたい。



 ……うぁ~っ!! 何言っちゃってんのかな!?



「散歩だ!! 散歩に行こう!!」

 莉奈は、頭を冷やそうと外に走り出した。

 ジッとしていても、胸がムズムズしてソワソワしてどうしようもなかったからだ。身体を動かせば、落ち着くのではと気付いたら走り出していたのだ。



「たのも~う!!」

「だから。その挨拶は、なんなんだよ!」

 走りに走り回って結局、いつもの通り王宮の厨房の扉を、勢いよく開けていた。様子が変な莉奈を、皆が苦笑いしつつ迎えてくれる。

 莉奈は、そんないつも通りの皆の顔を見たら、頭が切り替わった。変わらない日常って大事だよね。

 忘れるには、何かを作って食べるに限る!!



「ねぇ、ねぇ。何作るの?」

 ワクワクした様な声が聞こえた。見ればリリアンである。

 莉奈の変わった挨拶なんて、どうでもイイらしい。

「作らないという、選択肢はないのかな?」

「「「ない!!」」」

 一応訊いてみたけど、全員即答で返してきた。

 


 ……なんだろう。このモヤッとする返答。



 ただ、見に来ただけっていう選択肢があってもイイと思う。

 でも、今日は作る気はある。だから、莉奈は文句は返さず、棚からボウルを取り出した。

「「「マヨネーズだな!? マヨネーズを作るんだな!?」」」

「なんでだよ。昨日作ったでしょ!!」

 ボウル=マヨネーズではないのだ。大体、2日連続でそんなモノは作らないよ。

 昨日作り方を教えたのだから、莉奈が作る必要性はないのだ。食べたければ自分で作ればイイ。


「んじゃ。何を作るんだ?」

 ボウルだけ出した処で、何のヒントにもならないのか、皆が期待に満ちた目で見ている。

「昨日、卵黄しか使ってないから卵白が大量にある。だから―――」

「「「お菓子を作るんだな!?」」」

 莉奈が最後まで言うまでもなく、皆の勝手な想像で言葉を切られた。

「……」

 正解だけど……決め付けられるとイラッっとする。

「「「お・菓・子っ!!」」」

「「「ふ――――っ!!」」」

 まだ、何も言ってないのに、背後では料理人達が小躍りしている。もう、莉奈がお菓子を作ってくれると、思い込んでいた。

 う~ん。卵白でお菓子が出来るなんて事、言わなければ良かったのかもしれない。





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