21 魔法の鞄とシュゼル皇子
いつも、お読みいただき、ありがとうございます!!
「エドも、持ってるんでしょ?」
「……お前……欲しいんだろ?」
興味津々な莉奈の表情で分かったのか、エギエディルス皇子が呆れた様に言う。
「…………くれ!」
莉奈は、手を伸ばし真っ正直に言った。
モニカのは、個人持ちではなく"侍女用"に2、3ヶある内の一つを使わせてもらってるらしい……が、私は個人持ちが欲しい!!
だって、くれるならマジで欲しいし……遊びたい!
モニカじゃないけど、出したりしまったりしたい!!
「……すごいな……お前……そこは遠慮……」
「くれ!」
なおも食い気味に言う莉奈に、若干引くエギエディルス皇子。
この鞄を見た、大抵の人間は欲しがるから、予想はしていた。
だが、ここまで食い気味に言ってくるとは思わなかった。
「……持ってどうすんだよ……。入れる物ないだろ、お前」
莉奈の私物など、ほぼないに等しい。それは、エギエディルス皇子にだって分かる。
部屋に置いとけば済む話だ、なのに何に使うのか。
「まだ、ないけど……欲しい!」
と力強く言う莉奈に、エギエディルスは苦笑い。
ここまでハッキリ言われれば逆に、清々しささえ感じる。
「……俺のお古でいいなら、あげてもいいけど……許可が必要だから…その後な?」
「……マジで?」
言ってはみたものの、こんなにすんなりくれると思わなかった。
まぁ、許可が下りるかは別だけど……。
「……許可出るかな……?」
たぶんだけど、シュゼル皇子とか魔法省長官辺りに許可を申請するのでは?と思う。
「……さぁ?」
エギエディルス皇子は、紅茶を飲みながらしれっと言った。
「……ちょっと~」
「だってソレ、一応国宝級だぞ?……持ってない国も多いんだよ。
持ってんのバレたら、ヤバイ代物だってくらいわかんだろ?」
あー。……略奪されちゃうカンジですか……。
「まっ、奪った所で使えやしないけどな」
「……え? なんで…? 電流でも流れるの?」
魔法があるんだから、防犯システムで、奪ったら電流がビリビリきちゃうとか?
ブザーが、鳴るとか?
「……お前……電流って、すごいな」
エギエディルス皇子は、莉奈の過激な発言に若干引いた。
「「…………」」
ラナ女官長、モニカも半歩引く。
「……え? だって国宝級なんでしょ? そのくらい当然じゃないの……?」
莉奈は、しれっと言った。
護りは堅い方がイイんじゃないのかな……。
「……電流……は、流れないけど……使用許可を登録制にしてあるんだよ」
まだ若干引き気味な、エギエディルス皇子は答える。
「……ふ~ん。んじゃ、新規登録か追加登録すれば使えるんだ」
妙な所で凄い現代的だ。
「そういう事」
エギエディルス皇子は、頷きながらも感心していた。
普通は、なんで? どうして? と訊いてくるものだが、理解力があるのか、すぐに納得していたからだ。
「ちなみに、ソレどのくらい入るの?」
まさか無限って事はないだろう。
「モニカが持ってるヤツは、一畳ぐらいか?」
おぉ、畳のない文化っぽいのに一畳とか言うんだ……。
後で訊いたところ……何百年か昔、ムシロとか云う "ござ" みたいな物があって、それを一枚一畳とかって数え始めたのが起源だとか……。
大きさ的にも、あっちの世界の一畳と大差ないみたいだ。
……で、魔法鞄に入る許容量は、高さは2mくらい広さが1畳の四角い空間。
分かりやすく云えば、畳1畳の部屋に棚があって、そこに収納する感覚だとモニカが教えてくれた。
「ちなみに、シュゼ兄が持ってる物には、この離宮ぐらい入るヤツがあるぞ?」
「……は?……そんなにナニ入れるの?」
飛行機?……なんてないし。
あー引っ越し……王宮が引っ越すってナニ?
莉奈が驚いてると、エギエディルス皇子は吹き出した。
「……お前っ……驚くトコそこ?……普通は大きさにビビんねぇ?」
と言った。
あぁ……そうか。
そんなに入る事が驚きなのか……。
「いや、だってそんなに、何入れるのかなって……」
……ゴミ……?
いやいやいや……ゴミは大概スライムが処理してるし……。
どうしても捨てられない物?……思い出……とか?
……ナニ言ってるんだろ…。
「……お前……変わってんな……面白いケド……」
エギエディルス皇子は笑った。
……え? その言葉いるカナ?
変わってるとか、面白いとか……一言二言、多くないですか?
「何入れるかだけど……まぁ主に輸出入する時に、使うカンジだな」
ちょっと莉奈に睨まれたエギエディルス皇子は、笑って誤魔化しつつ説明をする。
「……あぁ、なるほどね」
納得だ。
人件費、輸送費の削減にも繋がるし……何より強者に持たせて行けば、警護もほぼいらない。
そりゃ、他国はこぞって欲しがるのも頷ける。
「ちなみにだけど "人" も入るの?」
莉奈は、なんとなく興味本位で訊いてみた。
「「「……………」」」
エギエディルス皇子達は、絶句した。
「……お前……それ……犯罪者側の考え方だし………まぁ……入るけど……」
莉奈の言葉に、呆れ渋々ながらも答えてくれた。
……まぁ、確かに犯罪者寄りの考え方かもしれないけど……。
知っておいて損はない。
「……って、入るんか!!」
思わず突っ込んだ。
ダメダメじゃん! 誘拐に使えるじゃん!
………だからの登録制か?
「……ん?」
同時に疑問が沸いた。
……ナゼ "人" が入る事を知っているのだろう……と。
「……エド……入った事あるの?」
思わず訊いた。
見たか、聞いたか、入ったか……そのどれかだろう。
「………シュゼ兄がな……」
エギエディルス皇子は、どこか遠い目をした。
「……い……入れられたの?」
まさかの、皇子誘拐……?
「………から……」
「……は?」
「……自分から……」
「「「……え?……はぁ!?」」」
……ナニゆえにーー!?
その言葉には、莉奈どころかラナ女官長、モニカも声を上げた。
それもそうだろう、どうなるのか分からないそんな "魔法鞄" に皇子……しかも一国の宰相が御自ら……。
……え……ナニシテルノ?
「……その後は…大変だったけどな……」
「……でしょうね……」
だって、この国の "宰相" だもの……。
その大事な宰相様が、御自らそんな訳の分からない "魔法鞄" に入った……となれば大騒ぎでしょうよ。
「……で」
「……で?」
「それを知った、フェル兄がガチ切れして……シュゼ兄引っ張り出して………しばらく反省牢にブチ込んだ……」
「「「…………」」」
莉奈達は、他人事なのに背中が凍り付きゾクリとした。
あの、漆黒の王を……怒らせただとーーー!?
恐怖で鳥肌立つの、初めて知ったんですけどーーー!?
……魔王怒らせたらアカン。
……この国の……この世の終わりだ……。
……ねぇ…? シュゼル皇子。
あなたナニシテルノ?