208 タルタル?
あっ!! そうだ、そうだ。
味見用のマヨネーズと、タルタルソース用のマヨネーズに分けておかないと、この人達……容赦なく食べ尽くすに違いない。
もう1つのボウルに、マヨネーズを半分掬って分けておく。
「茹でたじゃがいも2個ちょうだい」
エギエディルス皇子と自分の、味見用のじゃがいもを貰わねば。
「じゃがいもはイイけど、マヨネーズを半分に分けてどうするんだ?」
サイルが莉奈にじゃがいもを渡しながら、ボウルに取り分けたマヨネーズはどうするのか訊いた。
「こっちはタルタルソース用」
「タルタルソース用? マヨネーズを使うのか?」
「そうだよ? あれ。言ってなかったっけ?」
「マヨネーズとタルタルソースを作るとしか聞いてないよ」
なんか言った気になっている莉奈に、横で聞いていたリック料理長から苦笑いが漏れた。莉奈の中では当たり前の事でも、こちらはすべてが初見である。
「あれ~? まっいっか」
今言ったしイイかと勝手に納得した莉奈は、小皿に茹でたじゃがいもとマヨネーズを載せた。
マヨネーズが嫌いな人も意外と多いし、エギエディルス皇子も苦手だと困るので、味見程度に少しだけ脇に添えてみた。
もちろん、たっぷりつけたいと言われたら、つけられる様に別盛りでも持って行くけど。
「こっちのマヨネーズは味見で食べてイイけど、こっちは使ったらぶん殴る?」
「「「ぶ……了~解!!」」」
料理人達は苦笑いしながら頷いた。首を傾げて可愛らしく言ってはいるが、食べてしまったら本気で殴られるに違いない。
莉奈は一応注意してから、食堂の窓からひょこひょこ覗く、可愛いエギエディルス皇子の元に行くことにする。だって、これだけの人がいれば、たっぷりつけたがる人も絶対いるハズ。
注意しておいて損はないので、先に言っておいたのだ。
もう腕が疲れたし、これ以上作りたくはないからね。
色んな意味で莉奈に笑いつつ、リック達も早速マヨネーズの味見をする事にした。
「この黄色いクリームみたいなのが、マヨネーズだよ」
食堂で今か今かと待っていた皇子に、莉奈はホカホカのじゃがいもが載った小皿を置いた。
マヨネーズを気に入ってくれればイイけど……少し不安だ。
「甘いのか?」
「甘くはないよ。お酢が入ってるから酸味がある」
甘いか聞くエギエディルス皇子に笑いつつ、どんなモノか軽く説明した。子供のうちってお酢系が苦手な子も多い。まぁマヨネーズは別な気がするけど。
「少し食べてみて、ダメだったらヤメてイイからね?」
無理して食べる必要はない事を言っておく。
エギエディルス皇子、基本優しい子だから無理するかもしれないからね。
「わかった」
頷くとまだ熱いホクホクのじゃがいもに、マヨネーズを少し付けて恐る恐る口に頬張った。
マヨネーズに興味はあるが、ドキドキするみたいである。
「……っ!?」
口に頬張った瞬間、目を見開いたエギエディルス皇子。
生まれて初めて食べるマヨネーズの味に、驚いている様子だった。一瞬鼻にお酢の香りが抜けた後、まったりとしたクリーム状のマヨネーズが、ホクホクのじゃがいもと口の中で混ざり合う。
今まで食べた事のない酸味と、まったりとした不思議な食感の調味料。だが、お酢とは全然違って酸味がイヤではなかったのだ。
「……どう?」
莉奈は不安そうに訊いた。
吐き出さないし、モグモグと咀嚼をしているからイヤではないとは思う。だけど、無言でパクパク食べているから、気に入ったのかダメなのかがまったく分からない。
「……う……ま~いっ!! 少しすっぱいけど、なんかウマイ!!」
エギエディルス皇子は満面の笑みを見せてくれた。良かった。気に入ってくれた様だ。これならタルタルソースも大丈夫だろう。
「良かった。あっ、チキンカツもあるから味見する?」
「する!!」
嬉しそうに言う彼の前に、魔法鞄から残り物のチキンカツを出すと、ふわりと揚げ物の匂いがする。ナスはご飯の時でイイかな。
「ナニこれ。からあげと違ってなんか周りについてる」
「パン粉だよ。サクサクして美味しいよ?」
周りについたパン粉を不思議そうに見ながらも、フォークで刺して口に運んでいた。
――サクッ。
カラッと揚がったパン粉のイイ音がした。その瞬間エギエディルス皇子の顔が綻んだ。カリカリ食感が楽しいみたいだ。
「サクサクしてウマイ!!」
「これにね……タルタルソースをつけると、すっごく美味しいよ?」
「タルタルソースって?」
「マヨネーズに色んな具材を混ぜたソースかな?」
エギエディルス皇子の質問に、莉奈はナニが答えとして正解なのか分からなくなる時がある。彼の質問は純粋な疑問過ぎて、言葉に詰まる。
「ふ~ん。で、タルタルソースの "タルタル" ってなんだ?」
「しらん」
分かる訳がない。君は時々困惑する疑問を投げ掛けてくるよね?
そういうモノだと当たり前に使っていたけど、聞かれても何も分からない。だって、タルタルソースはタルタルソースだもん。
"タルタル" のなんたるか……なんて考えた事もなかったし。イチイチ気にした事もなかったよ。向こうに帰れたら、調べたい事が多い質問ばかりである。
「まっ。とにかく、タルタルソースを作って見せるよ」
語源までは分からないが、作り方は分かる。マヨネーズとタルタルソースの違いを、とりあえず見せようと思う莉奈だった。




