203 はぁ。オーロラビームが出れば……。
「マヨネーズの材料は、卵、油、お酢、で最後に味を調える程度の塩で作る」
莉奈は冷蔵庫や棚から材料を取り出し並べた。卵は浄化魔法はかけてあるそう。莉奈がチョイチョイ生卵を使う料理を作るので、あらかじめかける様にしたらしい。
マヨネーズの材料は家庭にある物で出来る。ただ、後は面倒くさい作業があるのみ。
手作りマヨネーズなんて久々で少し緊張する。あっちの世界ならマヨネーズを作るだけのグッズもあるから、面倒な作業はほとんどないけど……。
あ~あ。手を翳したら魔法で "マヨネーズ" が出来ないのかな?
チャッチャチャーン……って?
「リナ……何をやってるんだ?」
願望が思わず行動として出ていたのか、莉奈は材料に向かって手を翳していたらしい。
リック料理長達は、怪訝そうな顔をしている。
「魔法で簡単に出来ないかな……と」
魔法ってそういうモノじゃないの?
「ぷっ……マヨネーズを作る魔法ってなんだよ?」
マテウス副料理長が失笑する。莉奈の発想が面白すぎるのだ。
「氷を作るみたいに、手を翳すとマヨネーズが出来る」
「手を翳すと!?」
マヨネーズが何かは知らないが、調味料が魔法で? リック料理長も堪らず吹き出した。どんな魔法なのか訊きたい。
そもそも、そんな魔法があったとして、料理以外になんの得があるのか。
「親指は醤油、人差し指は味噌、中指はマヨネーズ、薬指はケチャップ、そして小指はソース」
それが魔法で出てきたら、超便利だ。中指と薬指の指2つでオーロラソースが出来る。
"オーロラビーム" なんつって?
はぁ……4属性の魔法を持つより、そんな魔法が貰えれば良かったのに……。莉奈はブツブツ文句を言っていた。
「「「…………」」」
皆はもはや、莉奈が何を言っているのか分からなかった。
調味料の話をしているのは、なんとなく分かる。だが、指から何故そんな物を出したいのか、どうしてそんな魔法を欲しがるのか。そして、そんな魔法がなんの役に立つのか……。
魔法が4属性も使える方が、どんなにスゴい事なのか。皆は莉奈に苦笑いしか出ない。
魔法より調味料の方が大事とか……オカシイだろう? と。
◇◇◇
ブツブツ言っても、手を翳してもマヨネーズは出来ないので、仕方なく人力で作る事にする。
「マヨネーズを作る時は本当はガラスのボウルがイイんだけど、ないから木のボウルを使うよ」
「ん? なんでステンレスとかじゃダメなんだ?」
「良く分からないけど、油とかお酢を使うから鉄臭くなるとかならないとか? まぁ、言う程気にはならないと思うけど」
「「「ふぅん?」」」
アレ? 木も匂うのかな?
莉奈も聞きかじりで詳しくは知らないので、言いながら首を傾げていた。
皆は余計に分からないのか首を傾げている。
「まずは、卵は卵黄だけしか使わないから、卵黄と卵白を分ける事から始めるよ~」
莉奈は試していく内に分かるだろうと、ボウルに卵をカパカパと割り卵黄と卵白に分けていた。
そんな地味な作業をしながら、指からマヨネーズ出る魔法をシュゼル皇子が研究してくれればイイのに……とため息が漏れた。
だが……そんな魔法が開発出来るのなら、彼は調味料なんか出さない。他に絶対に出すモノがあるからだ。
そう、出すならきっと……生クリームやチョコレートを出すに決まっている。
……もう……なんでもイイから開発して~!!
莉奈は、ここにはいない宰相様に、勝手な願いを懸けながら作業していた。
「卵黄だけしか使わないのか? 卵白は?」
ボウルに卵黄と卵白を分けているのを、疑問に思ったリック料理長が訊いた。
全卵を使わないから素直に、疑問に感じている様だ。
「使わないからスープとか、お菓子に使えばイイんじゃない?」
マヨネーズは濃厚クリーミーにしたいので、卵黄しか使わない。
卵白は泡立ててスープに入れても、フワフワ食感で面白いし、オムレツにしても楽しい。
メレンゲにしたりしてお菓子に良く使う材料だから、取っておいても損はない。
そのままで保存が出来る魔法鞄は、本当に便利である。
「「「お菓子!!」」」
皆は、スープでなく "お菓子" に食いついた。
なんか知らないが嬉々としている。
「スープに・入・れ・る!!」
だから、言い直した。お菓子なんか作らん。ついつい余計な事を言ってしまった。
「「「お・菓・子!!」」」
もう、何を言ったところで誤魔化せないらしい。スープよりお菓子が気になって目がキラキラしている。
「次に卵黄に塩とお酢を入れて、良く混ぜる」
莉奈はガン無視した。
だって、シュゼル皇子じゃないから怖くないもんね。そんな目で見られたって全然気にならな~い。ホホホのホ。
莉奈は皆の視線を無視し、ボウルに分けた卵黄に塩とお酢を入れてグリグリ混ぜていた。
卵白は魔法鞄にしまっておいたけど。
「え~お菓子~」
ブツブツ誰かが口を尖らせていた。
お菓子と聞いて、頭がお菓子の事でいっぱいみたいだ。
「お砂糖だってそんな使えないでしょ?」
とそれらしい事を言って、諦めさせる事にした。
お菓子なんて煎餅とかポテトチップスとかでもなければ、ほとんどの物が砂糖を使う。作るのも1人2人分ではないし、桁が違う。
洋菓子なんか作るとしたら、砂糖なんかどっさり必要だ。
「「砂糖いっぱいあるよ?」」
誰かが嬉しそうに言った。作るなんて言ってないのに、砂糖がたっぷりあれば作ってくれると、イイ方向に考えた様だ。
「え? いっぱいあるの?」
莉奈はいっぱいあると聞いて、思わず振り返った。
高価だから王宮の方でも、そんなにたくさんはないのに。
「軍部の人達、全然使わないから配給されたまま残ってるよ?」
軍部の料理人サイルが、ニコニコしながら教えてくれた。
話を聞いてみると甘い料理は作らないし、紅茶に入れて飲むくらいしか使わないから、王宮より大分残っている様だった。
「へぇ。なら……全部頂こうか」
莉奈はニコリと笑って、手を出した。
そんなにあるのなら、寄越せ……と。
「「「……え?」」」
「全部・頂・こ・う・か?」
「「「……悪党だ!! 悪党がいる!!」」」
皆は、その言葉と行動に目を見張った。
まさか、そう返してくるとは思わなかったのだ。たくさんあれば作ってくれると思っていた。
なのに砂糖を寄越せと手を返してきた。想定外である。
「ほれほれ」
莉奈は出せと手を動かす。どれだけあるか知らないが、あるなら寄越せ……と。
「……」
皆は苦笑いしていた。実にイイ笑顔で言うその姿は、さわやかな恐喝な気がする。
皆がなんとも言えない表情をして、タジタジになっていると背後から―――
「たかりかよ」
と呆れた声が聞こえた。




