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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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194 竜の部屋



 とりあえず……莉奈の竜騎士団入団は保留となった。そう、"否" でなく保留。竜が選んでしまったかららしい。



 竜騎士団は、近衛師団兵が竜の番を持つと入る……とはなっていたのだが、それは大抵近衛師団兵でもない限り、竜を持ちたいと思う者がいないからである。

 一般人は、まず竜を持ちたいとは思わない。第1一般人が、竜に会う事も稀。そして、ほぼ10割が竜に会ったら怯える。自分に怯える様な人間を、竜が番に選ぶ訳がないのだ。



 莉奈が稀なケース……というかオカシイのである。



「まぁ。とりあえず竜騎士団の炊事長官に任命する」

 白竜宮に戻り、肩から下ろした莉奈の両肩を、ゲオルグ師団長は力強くバンと叩いた。

「……なんでだよ」

 今の今、保留になったでしょうが!!

 彼の力加減が甘すぎて、叩かれた肩がヒリヒリと痛かったが、莉奈はそれどころではなかった。

 どうなってるんだよ? もう、敬語で話す気力が湧かない。



 大体 "炊事長官" ってなんなんだよ。聞いた事がないんだけど?



「リナは近衛師団ではないからな。だから、戦わない竜騎士、炊事長官だ」

 ハハハ! と声高く笑うゲオルグ師団長。不信感たっぷりで見ていたらそんな事を言い始めた。

 竜騎士団に入らないという選択はないのだろうか?

「なんか立派な身分になったな」

 エギエディルス皇子が、苦笑いしていた。呆れているともいう。

 少しは憐れんでくれているのかもしれない。

「いらん」

 確かに "長官" なんて付くとやけに偉そうだ。魔法省にいるタールさんも、魔法省長官なんて立派な肩書きがある。

 長官だけでいうなら、同等か近付いた気もするが。仕事内容は雲泥の差である。

 そんな職なんかに就いたら、名ばかり過ぎて、同じ長官のタールさんに申し訳なくて仕方がない。



「まぁ。長官でも上官でも構わねぇが。番を持っちまったんだから、竜の宿舎を用意する必要があるな」

 フェリクス王は、その話を完全にスルーした。



 構わねぇって、何そのどうでもイイ感じ。



「逃げましたけど?」

 あなたのせいでね? と莉奈は軽く睨んでおく。

「頭が冷えたら戻って来るんじゃねぇの?」

 と、フェリクス王は適当な事を返してきた。

 その言葉の語尾に "しらねぇけど" って付いてる気がするんですが?



「契約しちまった以上は戻って来る」

 莉奈が、不信感をたっぷり含ませた目で見ていたら、フェリクス王は苦笑いしながら付け足した。



 "しちまった" って何かな?

 しろって言ったの王じゃないのかな?



 結局のところ、どちらかが死なない限り、番は変わらない。だから戻って来るって、言いたいのだろうけど。

「ふ~ん?」

 莉奈はもはや、どうでも良くなっていた。面倒くさいし。

 竜騎士になりたい訳ではないし……。




 ◇◇◇




 【竜の宿舎】

 いわゆる、竜の部屋は白竜宮の目と鼻の先にある。

 白竜宮の目の前は、竜の広場。左は壁を挟んで王宮や離宮がある処。右が竜の宿舎。宿舎の先には平原があって、その先がこの間見た崖の場所である。

 ちなみに白竜宮の左、壁沿いに軍部の宿舎がある。見張りも兼ねているらしい。



 王宮もそうだが、自分のいる離宮の屋上など、すべての屋上には竜が着地出来る様になっている。

 ヘリポートならぬ竜ポートといったところなのかな?



 この間は、宿舎の横を通って奥の平地、崖を見に行ったけど今日は竜の宿舎をじっくり見学させてくれた。番を持ってしまったからだろう。

 宿舎は外観は丸太を組んであって、一見ちょっと豪華なログハウスっぽい。入り口に扉などなく、中に入ると真ん中は竜の通り道、いわゆる廊下がある。

 それを挟んで、竜達の部屋になっている。大きくて頑丈な馬小屋、だが、王城にあるから外見だけは豪華といった感じである。

 部屋の仕切りは分厚い板張りだけど、竜仕様なので1部屋1部屋の大きさがものスゴく大きい。

 竜1頭の部屋の大きさは、家の2階建てくらいは軽くありそうだった。



「質素な部屋ですね」

 莉奈は、広さには圧倒されながらも呟いた。

 外見はそれなりに、豪華な造りなのに中は質素過ぎる。当たり前だが、竜の部屋に家具などはない。壁紙が貼ってある訳でもないし、絵画なんて飾ってあるはずもなかった。

 あるのは、床にたくさん敷いてある藁のみ。だから、殺風景である。

「豪華にする意味はねぇしな」

 フェリクス王は、ため息混じりに言った。

 人間みたいに、家具は必要ない。食べるか寝るかだけの部屋に、竜は何かを求めたりしないそうだ。落ち着いた頑丈な部屋を用意すれば、それで文句は言わないとか。

 本来の竜の棲みかは、岩場や崖だ。だから、雨風が防げればいいらしい。

 ちなみに王竜は先程、用は済んだとばかりにどっかに飛んで行ってしまっている。弟のエギエディルス皇子は、番を一生懸命見つけようと広場に残ってる。



「まぁ、そうなんでしょうけど」

 それにしても、何もない。何もないのに、竜は自分の部屋が分かるのかな?

「あっ……部屋の柱に鱗がある」

 正確には部屋の上にある、梁らしき丸太に鱗が飾ってある。空いてる部屋にはなく、いる部屋には鱗が飾ってあったのだ。

「番になれば、竜が勝手に空いている部屋を見つけて、そこが気に入れば鱗を1つ剥いで落とす。それを、自分の部屋の目印にとああやって飾ってやる」

 莉奈が疑問に思えば、フェリクス王が目線で指しながら説明してくれた。

 鱗を目印代わりに飾ってあげるのか……あの高い所に……。



 え?……誰が?



「ゲオルグ辺りに言えば、付けてくれるだろうよ」

 莉奈が眉を寄せていたら、その様子に気付いた王が自分でやれとは言ってねぇ……って表情(かお)をしていた。

「……ですよね」

 ホッとした。これも番になった者の仕事かと思ったら、ゾッとした。やってやれない事もないけど……危険である。

「食事は?」

「用意する必要は、ほぼねぇよ。腹を空かしたら勝手に食ってくる。やりたきゃ、たまに果物でもやっとけ」

 かったるそうに教えてくれた。食事の面倒なんか見てられるかって話みたいだ。

 基本食事の面倒は見ない。寝床は軍部に頼んどけばいいとの事。

 言葉で意思の疎通も出来るし、比べては失礼だけどペットより楽そうである。

「質問は?」

 とフェリクス王が訊いてくれた。

 美形なのに顔は怖いが、基本優しい御方である。



「あの子いつ、戻って来ます?」

 飛んだっきりはなさそうだけど、いつ戻って来るのかも分からない。そもそも戻って来るのだろうか?

「しらねぇ」

 そう言って、フェリクス王は笑った。

 うん。実に無責任である。

 




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