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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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191 莉奈と空色の竜



「頭痛に○ファリン、耳鳴りにポーション」

 莉奈は、ガサガサと魔法鞄(マジックバッグ)を漁り始めた。

 耳鳴りに効くかは全く分からないが、とりあえず飲んでみようと思ったのだ。耳の奥でいつまでもする音に、莉奈はフラフラとしていた。

「耳鳴りには効かねぇと思うけど?」

 なにやら必死に魔法鞄(マジックバッグ)を漁る莉奈に、エギエディルス皇子は苦笑いする。


「ん? エド、ミミズ食べたいの?」

 まだ耳の奥が、グワングワンしていて良く聞こえないが、そんな事を言った様に聞こえた。

「んなこと、言ってねぇよ!!」

 エギエディルス皇子は、間髪入れずにツッコんでいた。

 ミミズなんて、食べようと思うハズがない。

 耳鳴りで良く聞こえなかった莉奈は、彼が何を言っているのか良く分からず、適当に返していたのだ。

「エディ……ミミズを食うのか」

「食わねぇよ!!」

 兄王にまでからかわれ、エギエディルス皇子はむくれる。

 フェリクス王は、くつくつと笑っていた。いつもどこかオカシイ莉奈が、いつも以上にオカシイからである。



 そんなやりとりをしていると、にわかに空が騒がしくなっていた。

 王竜の咆哮によってなのか、いつも以上に竜達が集まり始めていたのだ。色とりどりの竜達が、何十頭と空をクルクルと旋回している。


「……すっげぇ」

 それに気付いたエギエディルス皇子が、惚けた様に呟いた。

 ほぼ毎日来ている彼でさえも、こんなにも多くの竜達が旋回しているのを見るのは初めてだったのだ。

 シュゼル皇子の真珠姫がいたのなら、全色の竜が揃ったに違いない。

「写メ撮りたい」

 莉奈はボソリと言った。勿論王竜も撮りたいが、こんなに色んな竜がいるのだ。目に焼き付けるとかではなく、写真に収めたい。

「あ゛?」

 フェリクス王が呟きを拾っていた。

 理解は出来なかったが、何かを言ったのは聞こえたらしい。

「……っ」

 その瞬間、莉奈は顔を赤らめフェリクス王から数歩、飛び離れた。今さらだが、腕の中にスッポリ収まっていた事に、気付いたのだった。

「今さらかよ」

 フェリクス王は、遅すぎる莉奈の反応に面白そうにしていた。




「フェル兄……竜が……降りてくる」

 旋回をしていた中の1頭が、ゆっくりゆっくりと柵の外に降りてきたのだ。

 竜が柵の外に降りるのも、稀な事だった。只でさえ人間との距離をつくる竜が、誰かの番でもないのに柵の外に降りてきたのだ。

 青空に溶けそうな、キレイな色の竜だった。

 頭の大きさからして、メス、女の子の竜の様である。



 ―――ドシンドシン。



 小さな地震の様な振動を起こしながら、空色の竜はゆっくりと歩いて来た。

 そして、莉奈を見つけると目を細めながら近付き――――

 ――――ナゼかその脚に口先を擦りつけ始めた。その様子は猫がゴロゴロと擦りつけるのと似ている。



「我れの友に……我を従えよ」

 空色の竜はしばらくすると、穏やかそうな顔を上げ、莉奈に向かって言葉を発したのだ。


「……え?」

「友に」

 そう言うとその空色の竜は、今度は可愛らしくクルクルと喉を鳴らしていた。



「リナ……竜がお前を選んだ」

 良く分かっていない莉奈の頭に、ポンと優しくフェリクス王の手のひらが乗った。

「え?」

 選んだって……何が? 莉奈は顔を上げた。理解が出来ないのだ。

「その竜は……お前を "友" "番" に選んだんだ」

「は?」

 莉奈は目を見開いた。竜が何故自分を番に選んだのだ……と。

 理由が分からなかった。竜は番には、女性は選ばないハズではなかったのか。さっきの王竜の咆哮と言葉に関係がある?



 ―――え? まさかとは思うけど……。



 ……私を……男だと判断したとか!?



 莉奈が不審そうに眉をひそめていると―――。

「 "友に" と言ってやれ。それが竜との誓約……契約だ」

 フェリクス王が小さく笑い……王竜が優しく見守っていた。



「……と……友に?」

 莉奈は、何がどうなっているのか理解出来ないまま、フェリクス王の言うように言葉に出すしかなかった。

 その瞬間、莉奈の額がポゥと熱くなり、小さな図柄を浮かべて光った。



 それが、竜と人との……契約の瞬間であった。



 ―――ピュ―――――ッ。



 まったく何も分かっていない莉奈と、空色の竜の契約が終わると――。

 莉奈の番となった竜が空に向かって、小さく長く鳴いた。

 それは、先程の咆哮とはまったく違い、心地よい口笛の音に似ていた。



 ―――ピューピューイ。



 空色の竜が可愛らしく鳴いていると、それを聞いた他の竜達が皆、応える様に色とりどりの音を奏で始めた。空を旋回する竜も、広場にいる竜も、すべての竜が皆声を上げ奏でていたのだ。

 それは、さながら……竜のオーケストラ。壮大にして優美な姿であった。



「……」

 莉奈は、一瞬熱くなったおでこを擦りながら、目を細めていた。竜の奏でる音は、高音低音と様々だったが、どこか規則性でもあるかの様に、耳に心地よい音楽だったのだ。


「……歓喜の唄」

 エギエディルス皇子が、呆けた様に呟いた。

「え?」

「俺が先に聞き……クソッ……信じらんねぇ」

 女は番を持てないハズなのに、莉奈が自分より先に番を持ってしまった。羨ましくもあり悔しくもあり、複雑な心境だったのだ。

 今、竜の唄を聞くのは、自分でありたかったのに……と。


「……はぁ」

 莉奈は何がなんだか分からず、呆けていた。

 彼曰く。先程のは竜が人と契約を結んだ証。竜が番を選んだ喜びを皆で分かち合う、歓喜の唄らしかった。

 自身も信じられないのだ。自分の何がこの竜に気に入られ、選ばせたのか。そのうち訊いてみようと思う。


 そんな皆の複雑な心情など、知るよしもない空色の竜は、莉奈にすり寄っていた。莉奈はそれを宥める様に触ってはいたが、番になっているのでどうやら触れても、自分を拒否したりはしないらしい。



「……ジョリジョリして痛い」

 コロコロとすり寄ってくれている頬が、なんだか痛いのだ。加減はしているのだろうけど、顔の鱗は硬くて細かい。

 その鱗を持っている竜が人の顔にすり寄れば、下ろし金で擦られている様なものである。皮膚が地味に削れている気がする。


「番を持った感想が……それかよ!! お前は本当に何なんだよ!!」

 エギエディルス皇子は半べそ気味だった。

 これだけ、番を持ちたいと必死にアレコレしていたのに、ぽっと出の莉奈が先に番を持つ。衝撃的過ぎて泣けてきたみたいだった。



「エド。たぶんだけど……エドも近いうちに番が見つかると思うよ?」

 これはあくまで勘だけど。そんな気がしたのだ。


「なんでそんな事が言えるんだよ!!」

 また適当かよ! 持っていない自分への慰めかと思ったエギエディルス皇子は、泣きそうな顔で怒った。

「掟が破られたからだ」

 それには、兄フェリクス王が苦笑いしながら答えた。

「女に番を持たせない、これが、今までの竜の掟だ。だが、リナがそれを打破した。だから、お前も……お前次第で変えられる」

 悔しそうに涙を拭う弟に、フェリクス王は優しく語った。

 フェリクス王は、女性が番を持てない理由を知っていた。だが、誰にも教えなかった。

 何故ならば、本当に持ちたいと願うのであれば、自身の口で訊き自身の耳で、確認するべきだと思っていたからだ。

 それも出来ない様なら、番など無理だと感じていた。


「……俺にも……持てる?」

 目元を擦り、兄王と莉奈を見た。

「たぶん……ね?」

 莉奈は苦笑いするしかない。なんとなくそう感じただけで、まったくの根拠もなく確証もないからだ。

 自分でも良く分からないのに、これ以上適当な事は言えない。彼が自分でどうにかするしかないだろう。


「しらねぇ」

 フェリクス王はどうでも良さそうに言った。

 だが、その言葉とは裏腹に、弟の頭をグリグリと優しく撫で繰り回していた。拗ねたり泣いたりする弟が、可愛いくて仕方がないみたいだ。



 莉奈はそんな兄弟に、やっぱり仲がイイな……と笑っていたのであった。




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