185 食べすぎじゃないかな?
仕方がないから、知っているだけの知識を話す事にした。
カカオ豆というモノから精製して、作るモノだという事。
たとえカカオ豆があったとして、チョコレートを美味しくなめらかに作るとしたら……。それを精製する機械がないので、ものスゴい労力が必要だという事。
莉奈は説明しながら、ふと思った。
魔王……フェリクス王レベルの豪腕のある人が、手間暇掛けて作れば、ものスゴく美味しい物が出来るに違いない。
あの御方は、絶対に作らないだろうけど。
そして、口には出さないけど……作ろうと思うなら、自分にも出来ると思う。作り方自体は知っているから。
だが、いくら技能があったとしても、腕力や筋力までは増えたりしないので限界がある。だから、多分あまり美味しくはないと思う。そもそも、テレビで見たことあるけど、作る工程が超~~~っ面倒くさいっ!!
何時間と石臼をゴリゴリゴリゴリ……。
あ~。やだやだ!!
「「「…………」」」
莉奈がウンザリながらも説明すれば、もれなく3人は押し黙った。
カカオ豆なる物が、自分達は見た事もなければ聞いた事もない事。現時点でこの国にあるのかも分からない。
そしてチョコレートに加工するまでの果てなき道のりを聞き、諦める諦めない以前に無理だと悟ってくれた様だった。
これがシュゼル皇子だったら、この程度では絶対に引き下がらない気がする。いなくて超ラッキーだった。
3人とも、お口チャックだからね!!
知らない間に、口止め料へと変わったアイスクリームを堪能する3人。
「……大変なんだな」
エギエディルス皇子が、最後の一口を名残り惜しそうに口に入れた。ここにはないチョコレートより、今あったアイスクリームの方が重要の様である。
「……なくなっちゃった」
モニカは何もなくなった、ガラスの器と莉奈を交互に見ている。
見てもおかわりはあげないよ?
「はぁ~虜になる訳よね」
ラナ女官長は同じくなくなったガラスの器を見て、感慨深げに呟いた。
もっとゆっくりと味わいたかったが、溶けていくので必然的にペースを落とす訳にもいかず、なんだかもの足りないのである。
「あ~ぁ、チョコレートでも吐き出す魔物でもいたらイイのに……」
莉奈はテーブルに肘を突きため息を吐いた。
魔物や竜がいる幻想の世界なのだからいてもイイかな……と。
そうすれば、簡単に料理に使……え? 吐き出したヤツを!?
自分で言っておいてなんだが、魔物以前に何モノかが口から出した物を食べたくない。気持ち悪い。ナゼそんなモノを想像してしまった。
「「……は?」」
ラナ女官長、モニカは絶句し……
「あ゛? お前……ゲロ食うのかよ」
エギエディルス皇子は口を押さえていた。想像して気分が悪くなったのだろう。
口から物を吐き出す……それすなわちゲロ。
「……食べない」
莉奈も、昨日見た芋虫みたいな魔物がビチビチ蠢きながら、チョコレートを吐き出す姿を想像して、なんだか具合が悪くなってきた。
なんてモノを想像したのだ自分は……。あの芋虫がチョコレートを吐き出したとして、食べるのか? 食べないっ!!
「「「…………」」」
アイスクリームの美味しい余韻が、莉奈のいらぬ一言により全員キレイさっぱりと消えてしまったのは、言うまでもなかった。
◇◇◇
朝食後、莉奈は軍部 "白竜宮" に向かった。いつもなら厨房に向かうのだが、ガーリックバターと苺バターをゲオルグ師団長達に渡したいからである。
ついでに、竜をもっと見たかったのだ。幻想の竜が生きている。興奮しない方がオカシイ。
エギエディルス皇子も行くと言うので、一緒に白竜宮の転送の間に瞬間移動してもらった。
やっぱり、スゴい面白い!!
空間がグラリと歪む妙な感覚。何度やってもらっても面白かった。
「お前……本当楽しそうな?」
この感覚がキライな人もいる中、逆にこんなに喜ぶヤツもいない。
自分はどちらかと言うと、自分で魔法を掛ける分にはいいが、掛けられて飛ぶのは好きではない。主導権が他人だと、どうも勝手が違って調子が良くなかった。
「面白い!」
「そうかよ」
莉奈が楽しければ、それでイイかとエギエディルス皇子は笑っていた。
「リナ?」
話ながらゲオルグ師団長のいる執務室に向かっていると、その背に美声が掛かった。
「あ……シュゼル殿下……おは……ご機嫌いかがですか?」
と莉奈はお辞儀しつつ、口をグッと引き締める。
おほほ……チョコレートなんて知りませんよ~?
「ご機嫌は……まぁまぁでしょうか?」
莉奈が妙な挨拶をしてきたので、シュゼル皇子は小さく笑っていた。
莉奈は相変わらず面白い、程度に思ってくれたみたいだ。
さすがのシュゼル皇子も、今朝チョコレートの話をしていたなんて、言わなきゃ分からない様だ。
「こちらには何をしに?」
莉奈がここにいるのは珍しいのだろう。
「昨日ブラックベリーを頂いたお礼に、苺バターとかをゲオルグ師団長達に渡そうかと……」
「あぁ! 苺バターとても美味しいですね。朝から大変美味しく頂きました」
朝から眩しいくらいのシュゼル皇子の笑顔に癒される。
「お気に召された様で恐縮です」
その様子だと、また苺バターをたっぷりのせて食べたに違いない。そんな食べ方していたら、いくらあっても足りないと思う。
「ククベリーのもお待ちしてますからね?」
ほのほのと念を押された。
「……はい」
早く作れって催促なのかな? もしかしなくても。ハチミツがなくならなきゃいいけど。
そういうとシュゼル皇子は、ではまた……と去って行った。
兄が角を曲がり見えなくなると、エギエディルス皇子がポソリと言った。
「シュゼ兄……苺バターすっっげぇのっけて食べてた」
「あ~それじゃあ、2瓶渡したけど……足りないね」
タメて言うのだから、余程たっぷりのっけて食べていたに違いない。
なら、2瓶なんてあっと言う間だ。ククベリーを催促する訳である。
「全然足りねぇと思う」
今日は兄弟揃って朝食を食べていた。その時に兄王は、気持ちの悪い食い方をするんじゃねぇ……と愚痴を溢していたのだ。
「ハチミツ……足りるかなぁ」
そんなにたっぷりと持っている訳ではない。シュゼル皇子の食べ方に、手持ちが心配になるのだった。




