178 シュゼル皇子は微笑むだけ
ブーブー文句を言いつつも、勝負事は楽しいのか結局エギエディルス皇子も参加する事にした。2人の皇子が参加すれば、否とは言えないのでイベールも参加する様だ。
莉奈の突飛な思い付きで皇子2人と執事を含んだ、ジャンケン大会を行う事となったのである。
「では、ジャンケン大会上位13名に、ベーコン入りじゃがバターチーズを……さらに優勝者には……」
莉奈はさらに、皆の士気を上げようと声を張り上げた。
「「「優勝者には!?」」」
"優勝者には" と耳にし、皆の表情がキラキラしたものへと変わった。
皇子達が参加するのには、困惑気味だった。だが、優勝者に特別なご褒美があると聞けば、そんな不安も一気に吹き飛んだ。
「ブラックベリーを使ったアイスクリームを贈呈致します!!」
―――キュピ――ン。
莉奈がアイス……と口にした途端、背後からボオッと熱気が上がった気がした。その瞬間を見てしまった一同は、1度上がったテンションが一気に下がり、背筋がゾッと凍り付いた。
「……?」
莉奈は何故、皆が凍り付いているのか分からず、視線の先に顔をゆっくりと向けた。
――――あっ。
視線の先には、獲物にロックオンでもした様な眼をした、我が国随一の賢者様であり最強と名高い宰相様がいた。
アイスクリーム……は余計だったかも。
「ブラックベリーのアイスクリームですか……負ける訳にはいきませんね?」
フフフ……と微笑んだシュゼル皇子。
微笑んでいるハズなのに目が笑っていない。殺意にも似た、燃え盛る闘志みたいなモノを感じるのは、気のせいでしょうか?
「……え……っと……シュゼル殿下は、アイスクリームを作る手伝いをして頂きたいので……優勝してもしなくてもアイスクリームは献上させて頂きますが……?」
と莉奈は脂汗を掻きながら、恐る恐る言った。
皆には悪いけど……宰相様の目が半端なく怖いので、シュゼル皇子には手伝いという口実を作って、アイスクリームは口にして頂く事にする。
でなければ……優勝者の今後が心配な気がしたのだ。
「……でも……いいのでしょうか?」
莉奈にそう言われたシュゼル皇子は、皆をクルリと見回しお伺いを立てる。
優勝してもいないのに口にしても良いのか、確認をしておかなければゆっくりと味わえない。
コクコクコクコクコクコクコクコク。
ほぼ全員……壊れた人形の様に、無心で首を縦に振っていた。
「…………」
莉奈は顔がひきつっていた。有無を言わせないって、こういう事だと思う。
笑顔は皆を幸せにする……って言ったのドコのどいつだよ!?
フフ……ダメですよ?
……って微笑みながら……シュゼル皇子ヤリそうですけど……?
「では申し訳ないですが、お手伝いの手間賃としてアイスクリームは頂きますね?」
シュゼル皇子が申し訳なさそうに言えば、皆はさらに壊れた人形の様に頷いていた。
「え――っ。俺も手伝うからナンかくれ」
それには、皆ではなく弟が不服を申し立てる。
兄ばかり、えこひいきだと言いたい様だ。
「ナンかって……タンスでもいいの?」
「何でだよ!!」
口を尖らせてみせるエギエディルス皇子が可愛くて、冗談を言ったら、さらに頬を膨らませて怒っていた。
莉奈はクスクスと笑った。アイスクリームが欲しいのに、自分だけタンスじゃそりゃ怒るよね。
「……」
その間中、執事イベールの冷たい視線が莉奈を串刺しにしていた。
何度言おうが、莉奈は莉奈だったからだ。半分は諦めているのだろうが、言動が気にならない訳ではないのだ。
「では、アイスクリームの準備を致しますので、少々お待ち下さい」
イベールの視線を横目に、莉奈はブラックベリーのアイスクリームを作るべく、準備に向かうのであった。




