177 ジャンケンしよう!
「良し……出来た」
オーブンから取り出すと、上にのったチーズはこんがりと焼けていて、ふわりと良い香りが充満する。ガーリックバターの良い香りだ。食欲がそそられる。
――――ゴクッ。
匂いに負けた人の、生唾を飲む音がする。
「これ、一口ずつなら皆で食べれるんじゃない?」
とりあえず皆の分として10皿分作ってみた。
今は食事の時間帯ではないから、食堂にはあまり人がいない。皆で分ければ少しずつは口に出来るハズ。
独り占めしようとするから争いが起きる訳で。
なんならベーコン抜きなら、全員分は作れるのだから分ければいい。
「足りない」
「減る」
「ガッツリ食いたい」
あ~そういう感じ。
要は譲る気はない――と。
マジでどうかしてるよキミタチ。
莉奈は呆れかえっていた。
「ジャンケンだな」
誰かが呟いた。足りなければジャンケンをすればいい……と結論付けた様だ。ジャンケンで済むなら、平和といえば平和だ。
―――というか、ちょっとした娯楽のご褒美感覚で楽しんでいるのかもしれない。
食いしん坊なだけかもしれないけど……。
「 "ジャンケン" とは何ですか?」
小窓からシュゼル皇子が顔をひょっこりと出していた。
出来たなんて呟いたものだから、待ちきれずに見に来ていたらしい。
「え?」
「ジャンケンとは?」
「え……あっと、ジャンケンというのは――」
突然顔を出すのは心臓に悪いので止めて頂きたいな……と苦笑いしつつ、莉奈はジャンケンについて簡単に説明した。
「なるほど……面白そうですね?」
シュゼル皇子がほのほのと微笑んだ。
ジャンケン文化のないこの国に、運だけで解決する方法は面白いと感じた様だ。隣で聞いていた弟も、なんだか楽しそうである。
「これで、ジャンケンは分かりましたよね?」
と確認しつつ、莉奈は面白い事を思い付いた。
「ええ、分かりました」
莉奈が何かを思い付いた事など、知らないシュゼル皇子はニコリと微笑んだ。
「では本日の特別ゲスト、殿下お2人、それとイベールさんも参加して頂きジャンケン大会を開きたいと思います!!」
莉奈は手を高々と掲げ、満面の笑みで提案した。
本心かはさておき……王族だから、身分が高いからという理由で貰えるから、下じもの人達が不服を申し立てる訳だ。
なら1度くらい、下っ端に混じって、同じ土俵に乗ってもらえばイイ。…………面白そうだし。
「「「え……えぇ――――っ!?」」」
料理人達は、莉奈の提案に驚愕し叫びを上げた。
畏れ多くて顔が強張っている。
「お……おい……リナ」
リック料理長が青ざめながら、莉奈の肩を叩いた。
莉奈の提案が恐ろしすぎるのだ。いくらなんでも宰相様達をジャンケンに参加させ、間違って勝ってしまったら怖すぎる。どうしたらいいのか分からない。
「でも、3皿分増えるから……確率が上がるよ?」
ここに何人いるかは知らないが、6分の1から4分の1くらいの確率にはなりそうだ。
「「「…………」」」
確率が上がる……という魅惑的な言葉を受け、皆はゴクリと言葉を飲み込み押し黙った。
王族とジャンケンで決める=恐ろしい=だが取り分が増える。
畏れ多いが取り分が増える。
頭の中はそんな方程式が、グルグルと回っているのかもしれない。
「リ……リナが……そう言うのなら……」
「……ねぇ?」
「ま……まぁ……庶民に混じって参加するのも……」
「1度くらいは……リナが言ってるし」
誰かがボソリと言えば、提案したのは自分達ではないとアピールをしながらも、皆が莉奈やシュゼル皇子達をチラチラ見つつ追随する。
万が一何かを言われたとしても「莉奈が提案したから」とでも言って、逃げるつもりでいるに違いない。
「確かに面白そうですねぇ。ジャンケンで決めるのは」
不敬過ぎる莉奈の提案も、何だか楽しいのか、シュゼル皇子はほのほのと言った。
相手と褒美があってこそのジャンケンだと、今の説明で理解した様である。
しかし……これが甘味だとしたら、そうは言わなかったのかもしれない。だが甘味ではないので、そこまで執着はしないのだろう。
「え――――っ」
だがそれにブーイングを上げたのは、弟のエギエディルス皇子だ。
面白い面白くないではなく、自分は美味しい方を確実に食べたいのだ。莉奈の余計な提案にも不服ものだが、兄が了承してしまった……不納得でしかない。
「ジャンケンに勝てばイイんだよ。エド」
莉奈はバシンと、エギエディルス皇子の肩を叩いた。この人数なら多くても2回くらい勝てば多分食べられるハズ。
「痛ぇっ! 簡単に言うなよ」
眉間にシワを寄せて、ものスゴい渋い顔をしている。
ジャンケンに勝てる気がしないのかもしれない。
――――気持ちで負けたら終わりだよエド。
莉奈はお爺ちゃんの様に、顔にシワを寄せているエギエディルス皇子に笑うのであった。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
ガンバるぞっ o(`^´*) と意欲がわきます。




