17 ナニ言ってるのかな
突然、牢獄にシュゼル皇子が現れると、魔導師達はガタガタと慌てたように、床に膝を折り、シュゼル皇子に頭を深々と下げる。
……が、シュゼル皇子はそれ等をチラリとも見ず素通りだ。
……うわ~。視界にも入れてあげないんですか。
見てたこっちの方が、なんかいたたまれなくて、莉奈はペコリと会釈した。
私がする必要は、正直ないと思うんだけど…素通りはなんか胸がイタイのよ。
魔導師達がいた牢、それよりもさらに奥に美少年がいた。
僅か10歳程度の少年であり、一応は皇子様である彼が独房に…うん、スゴいシュールだ。
「……あ……兄上……」
こちらに、気がついたエギエディルス皇子が、ベッドから降りてきた。
そして、一緒にいる莉奈に一瞬目を止めると、複雑そうな表情をした。
「……お前……痩せたな」
……開口一番が、ソレかい!!
他にもっと、言う事ありませんかね?
莉奈は、思わず遠い目をしてしまった。
だって、3回目だよ?
もう、聞きあきたって言うか、放っといてくれませんかね?
「……オイ!!」
莉奈が、あまりにも黙っていたため、痺れをきらしたエギエディルス皇子が声を荒げる。
「……口を慎みなさい、エギエディルス」
横にいたシュゼル皇子が、無表情に叱責した。
「……す……み……ませ……ん」
兄に怒られて、シュンとするエギエディルス皇子。
莉奈は、そんな彼になんだかキュンとした。
……だって、しょんぼりしてる姿が、仔犬みたいでキュンキュンくるんだもん。
彼のした事は許せないけど……それはソレ!
……超可愛いんですけど!
弟も、怒られてよくシュンとしてたな……とジンとくるものを抑える様に、目頭を押さえた。
「……リナ……?」
シュゼル皇子は、少し身を屈め声をかけた。
莉奈が、俯き加減になったのに気づいたのだ。
「……すみません……。こういう場所初めてなもので、萎縮しちゃって……」
莉奈は、何事もなかった様にみせた。
「……慣れていたら、困りますけど……ね?」
とシュゼル皇子はクスリと笑う。
確かに、牢獄慣れなどしたくない。
「……えっと……エキ? エギ?……ドス殿下?」
改めてエギエディルス皇子に向き直し、声を掛ける。
……うん。名前さっぱりわからん。
「……エギエディルスだ」
「……ん? エキエキルズ?」
「エギエディルス!!」
間違える莉奈に怒りつつ、エギエディルス皇子は怒鳴る様に言った。
……ゴメン、聞いてもまったく頭に入らん!
「……もう、エギドスでいい?」
莉奈は、疲れた様に言った。
人様の名前に、ソレでいいもアレでいいもないが、まったく覚えられる気がしない。
………ぷっ。
弟の名前を言えないだけでなく、適当な事を言う莉奈に、隣にいたシュゼル皇子は吹き出していた。
「……お前……バカなんだな……人の名前すら覚えられないぐらい……」
完全に小馬鹿にしたエギエディルス皇子が、呆れた様に言った。
ーーーカッチン!
その小馬鹿にした言い方に、時と場所も考えず頭にキタ。
「……なら! アンタはこれから、私の事を呼ぶ時は "生麦生米生卵" って呼びなさいよね!!」
ただし、怒りの方向性がナナメ上に間違っていた。
「……は?」
エギエディルス皇子は目を丸くする。
おそらくだが、何を言ってるのか、わかってないのだろう。
「生麦生米生卵!! はい!!」
「……何言ってんだ……お前」
エギエディルス皇子は、呆れを通り越して唖然としている。
……うん。言っといてなんだが、私もナニ言ってるのか、わからない……。