167 パリッ!! ポテトチップスはヤメラレナイ
「……リナ? やっぱりリナか」
「え? あれ……サイルさん」
莉奈はふいに声を掛けられそちらを見れば、王宮の厨房でしばらく働いていたサイルであった。
よくよく見れば見知っている顔もチラホラある。料理やパン作りを教わりに、軍部から何人か来ていたのだが、一旦こちらに戻っていた様だった。
そうそう、パンといえば……りんごのパン酵母も安定して作れる様になり、毎日柔らかいパンが出る様になっている。
そして、酵母に砂糖を少し足し、さらにふわふわにさせたパンは、特定の人にだけだが口にする事が出来ていた。
バゲットより、食パンみたいな柔らかいパンが好みなのか、出来立てを渡したら、シュゼル皇子は花が咲いた様に喜んでいた。
「こっちでも何か作ってくれるのか?」
サイルは王に一礼した後、莉奈に話し掛けた。莉奈がわざわざ来る……という事はそういう事だろうと思ったらしい。
サイルがそう言えば、料理人の皆は莉奈が何者かが分かった様でザワザワとし始めた。最近、新しい料理で賑やかしている少女だと。
「え? いやいやいや……そんなつもりはないけど?」
厨房がどんなものかな……と覗きに来ただけで、作りに来た訳ではない。莉奈は慌てて手を横に振った。
「「「え~~っ」」」
料理人達は、明らかにガッカリして肩を落とした。
ドコヘ行っても莉奈=美味しい料理を作る人……という方程式になっているらしい。
「リナ……なんか作ってやれば? 俺、その間 竜でも――」
見てるし……とエギエディルス皇子が言おうとした瞬間、ガシリと頭を兄王にわしづかみされていた。
「……痛ぇ! 痛ぇって!」
「なら、久々に剣の相手でもしてやろう」
「げぇっ!? イイ!! しっ死ぬから!!」
エギエディルス皇子は兄の言葉に驚愕すると、顔面が文字どおり蒼白になっていた。蒼白ってああいう色なんだ……と莉奈は感心する。
「死ぬ訳あるか……いつも最小限に加減してやってるだろうが」
「フェル兄の加減は……全然加減じゃねぇんだよ――っ!!」
頭を掴まれたエギエディルス皇子は、バタバタと渾身の力で抵抗してみせた。
だが、体格差もさることながら、その力の差にビクともする訳もなく……ズルズルと引きずられて行ってしまった。
「エド……お大事に~~?」
フェリクス王は、1時間後に迎えに来ると言って去って行った。
……という事は1時間近くシゴかれるのだろう。
魔王VS人間……莉奈は大変そうだなと、遠ざかって行くエギエディルス皇子の背に手を振ったのだった。
◇◇◇
軍部 "白竜宮" の厨房も、王宮と変わらない設備が整っていた。奥にはゴミ処理のスライムも入っているみたいだし。ただ少し違うといえば、最近王宮に運び込まれた例の大きな鍋が3つもある。
体が資本の軍部だし、大食漢が大勢いるのだろう。大鍋は混ぜやすい様に斜めに設置されていて、何度見てもグリグリするのは面白そうだ。
「で、何を作ってくれるんだ?」
ワクワクした様な表情のサイルが訊いてきた。
「何を作ろうかね~~」
莉奈は冷蔵庫や保管用の魔法鞄の中身を確認しながら考える。夕食にはロックバードが控えているから、ガッツリ系は遠慮したい。
だが、フェリクス王にも食べて貰いたいから、甘味類はダメ。
「じゃがいもがたくさんあるから……ポテトチップスでも作ろっか?」
これなら、揚げるだけでスゴく簡単だし、なによりお酒のツマミにもなる。フェリクス王も喜んでくれるに違いない。エールにポテトチップスは最高だろうし。
「何?……ポテト?」
「ポテトチップス」
"ポテト" は分かるけど "チップス" は分からないのか、首を傾げる料理人達に軽く説明する。
「薄く切ったじゃがいもを、たっぷりの油で揚げた物」
青のりや粉末のコンソメなんてないから、塩、胡椒、ハーブ、チーズ味くらいしか出来ないけど。
「スライスして揚げるって事?」
なんとなく分かったのか、サイルが言った。フライドポテトはあるから、想像が出来たらしい。
ちなみにこの国のフライドポテトは、油が良くきれてないからべしゃべしゃだったけど。
「そっ……簡単だから、みんなで作ろうよ」
莉奈が提案すると、サイル達は楽しそうに大きく頷いた。
ポテトチップスは超簡単だ。じゃがいもを薄くスライスして、水に浸ける。
そして、水を何回か変えてじゃがいものデンプンを取るのだ。これがポイント。デンプンがしっかり取れてないと、カラッと揚がらない。
……ん? そういえば、王宮の倉庫に片栗粉があったな。この底に溜まったデンプン……乾燥させたら片栗粉が出来るのかな?
莉奈はボウルの底に溜まったデンプンを見て思っていた。
純粋な片栗粉は片栗の根から採るけど、市販の片栗粉のほとんどはじゃがいものデンプン、馬鈴薯の片栗粉だ。
確かこの国の食糧庫にあったのも、じゃがいもの片栗粉だったハズ。
誰が思い付いたか知らないけど、尊敬するよね。そのおかげで色んな料理が出来るんだから。
「リナ、後はどうすればいい? 水気を取ればいいのか?」
サイルが訊いた。皆のボウルを見てみれば、スライス厚さに差があるものの、大量に出来……おやつにしては、大量にあり過ぎる気がするけど……。
「うん、そう」
じゃがいもの水気をキッチンペーパー……がある訳ないから、ふきんでよく取る。鍋に3センチ程の油を注ぎ、温めて数分揚げる。カラッとしてきたらバットに上げ出来上がりだ。
後は、好みの味つけにすればいい。
―――パリッパリッ。
莉奈は出来立てを、早速口に放り込んだ。
うん!! 上出来だ。パリパリッとして美味しい。
塩味にしたが、なかなか旨い。海はあるのだから、青のりもドコかに存在はしているハズ。めざせ青のり味! である。
「ウマイ……!」
「スライスして揚げただけなのに……パリパリして美味しい!」
「俺、エールが欲しい!!」
皆もそのパリパリ食感と軽さに、次々とポテトチップスに手が伸びる。まさに、ヤメられない止まらない状態である。
「チーズ最高!!」
「絶対エール!!」
莉奈がバジルと粉チーズを振りかけて出せば、皆の手も加速して伸びていた。味の変化に、食欲が止まらなくなった様だ。出来上がる側から次々と減っていく。
アハハ……太れ……太るがイイ……!!
莉奈はハイカロリーなポテトチップスを、太るモトとは知らずに、パリパリと頬張る皆を見て1人ほくそ笑んでいた。そう……莉奈は悪魔なのであった。




