144 仕事しろ
「「「カンパ~イ!!」」」
「くぅ~! マティーニ最高!! 」
「なんだよ~~お酒混ぜると、こんなにウマイのかよ!」
「カァ~今日俺はこのために生きていたのか!」
夜勤明け組の警備・警護兵の人達が、男女問わず一足先にカクテルを味わっていた。そこだけ、居酒屋の様なテンションだ。
「「「「「…………チッ」」」」」
夜勤ご愁傷さま……なんて普段は他人事の様に思っていた皆が、一様に舌打ちをしていた。
夜勤明け組は、これから自由時間。なので、いち早くお酒を口に出来たのだ。皆がうらやましく見る中、そして真っ昼間のお酒はさぞ美味しいに違いない。
莉奈は、憎悪に近い人達の眼差しに呆れていた。遅かれ早かれ口に出来るのだから、そんな眼で見なくても……と。
◇◇◇
―――それから数時間。
「……あんな所で……寝るかね?」
「蓋が割れたらどうするんだよ」
「せめて、食堂で寝ろよ……」
厨房にはボソボソと話す声が……。皆が呆れ笑いをしているその目線の先には、うたた寝している莉奈の姿があった。騒ぎに騒ぎまくる皆と視線に疲れていたのだろう。
だが、何処でうたた寝しているのかが、大問題である。
―――何処で……?
それは、ごみ箱の上だった。
下にスライムが入っているのを気にもせず、その蓋の上に座りコクリコクリと、うたた寝をしていたのだ。その度胸には感服ものである。万が一蓋が割れたら……スライムの中にドボンだ。
「だけど、最近のリナ……可愛いくなったよな~。ヨダレたらしてるけど……」
「ホントそれ! 大分痩せたからじゃね? 態度デカイけど……」
「リナの元気な声には、こっちも力が出るよなァ。時々コワイけど……」
莉奈の寝顔を見つつ、誉めているのか貶しているのか、皆は好き勝手な事を言っていた。
最近の莉奈は、予期せぬ強制 "糖" "脂肪" 抜き食事と、日課のジョギングにより日に日に痩せ、元の "美少女" に戻り始めていた。この調子でいけば、理想的な体型に戻る日も近いだろう。
面倒だからと何事も "鑑定" しない莉奈は、自分の現体型を知らない。痩せたな~くらいにしか感じていなかったのだ。
痩せ始めたお陰で一部の男共の視線に、熱が籠り始めているのも、まったく気付かないでいた。だから、今もこうして安心して、うたた寝なんかしているのである。
そんな莉奈を横目に、ガヤガヤとにわかに廊下が騒がしくなり始めていた。廊下を走る軽やかな音が、段々と近づいて来た。厨房の皆は、それが何なのか察しており作業を中断し、迎え入れる様姿勢をつくる。
「リナはいるか!?」
バタンと勢いよく開いた厨房の扉から、たった今帰って来たエギエディルス皇子が入ってきた。少々息を切らしているのは、走って来たせいなのか。
「「「無事のご帰還、心よりお待ちしておりました」」」
皆は一斉に頭を下げた。膝を折らなくても良いという、エギエディルス皇子に従い、厨房では折らなくても不敬には、ならなくなっていた。
「たかが、その辺の魔物討伐くらいで大袈裟だし……リナは?」
本心からかどうかも分からない、皆の労いの言葉など、どうでもいいエギエディルス皇子は、キョロキョロ莉奈を探す。
魔物と戦う事のない人間からしたら、たかがも何も魔物を倒せるというだけで、感服ものなのだが。エギエディルス皇子にとって、この辺りの魔物は小物の様だった。
ツカツカと厨房に入りながらも、いつも通り自身に "浄化魔法" をかけていた。皇子のその配慮には自然と、皆の口元も緩む。
「うっわ……寝てるとか、マジでありえねぇし」
スライムのごみ箱の上に座り、船を漕いでいる莉奈を見つけ呆れていた。場所もさることながら、自分が魔物討伐に行っているのに寝てる……マジでありえない。
エギエディルス皇子が大丈夫だと安心しての所業なのか、どうでもいい事だと思っているのか……真偽はわからないが。
「オイ!!」
口調こそ強いが、エギエディルス皇子は莉奈の肩を優しく揺らした。何処かの師団長とは大違いである。
「ふにゃむにゃ……」
「……お・き・ろ!!」
「ん~……あ、エドお帰り~」
目や口を擦りながら莉奈は、エギエディルス皇子の顔を見てフニャリと笑う。
「お前なぁ……俺が魔物と戦ってる時に寝てるとか、マジでない!」
と腰に手をあて少しふてくされる。少しくらい心配してくれるとか、皆程でないにしても出迎えてくれるかも……と期待した自分がバカだった。
コイツは "莉奈" なのだ。普通とは違う事を忘れていた。
「人生の大半は "食う" か "寝る" かなのよ?」
と悪びれもなく莉奈が笑うから、エギエディルス皇子は
「……仕事しろ」
と呆れていた。
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