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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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129 クラクラ



「そのマティーニって酒さ、別名があるんだけど、なんだと思う?」

 エギエディルス皇子は、莉奈に先程教えてもらった、その別名を、今度は自分から言いたい様だった。

「別名など、あるのですか?」

 それにはフェリクス王ではなく、シュゼル皇子が興味深そうに訊いてきた。

 お酒とお酒を、混ぜる発想も面白いが、そのカクテルに名が付いているのも、面白い。

 そして、別名があるなど、ますます興味深かった。

「あるんだよ。フェル兄のためにある様な別名が……な?」

 と、エギエディルス皇子は莉奈を見た。

「ふふっ……そうだね? エド」

 そんな、エギエディルス皇子が可愛くて、笑ってしまった。


「……別名……ねぇ」

 自分のためにある "別名" とは、何なのだろうか?

 フェリクス王は、残り僅かになったマティーニを、名残惜しそうにしながら考えていた。

「……兄上のためにある……なんでしょう?」

 シュゼル皇子も、兄王をチラリと見ながらも考える。

「……一刀両断……とか?」

「…………どういう意味だ」

「まんま……ですけど?」

「……ほぉ?」

 シュゼル皇子が言う言葉に、フェリクス王は目を眇めた。

 自分をどう見ているのか、問いただしている様だった。



 ……一刀両断。



 そんな別名がついているカクテルなんて、イヤすぎるんですけど?



「アハハ……んな、別名じゃねぇし」

 エギエディルス皇子は、兄達のやりとりに笑う。

「……では、何なのですか?」

 さっぱりわからないので、シュゼル皇子が訊いた。

「……カクテルの王様」

「カクテルの……王様……ですか」

 なるほど……と、シュゼル皇子は頷きつつ、空になったグラスを見た。そして、先程から気になっていた疑問を口にする。

「そもそも、"カクテル" というのは?」

 そういえば、後でそれを説明しようとして、忘れていた。

「あ~えっと、お酒とお酒、お酒と果汁などを混ぜた物を "カクテル" と言います」

「なるほど……しかし、なぜ "カクテルの王様" という別名が?」

 だから、兄王のためにある様なお酒とはわかった。

 では、何故それが、カクテルの王様と云われるのかが、気になったのだ。

「カクテルの中の最高傑作と、呼ばれているからです」

 飲んだ事はないので、それ以上は説明しようがないけど。

「……最高傑作……ですか」

 シュゼル皇子は、考え深げに頷いていた。

 そして、なにがどう "最高傑作" なのか、飲んでみたい……なと思っていた。



「だが、俺に言わせれば、もう少し……」

「エクストラ・ドライ・マティーニです」

 辛い方が……と、言うだろうフェリクス王の言葉を遮った。

 そして、莉奈は魔法鞄(マジックバッグ)から、もう1つカクテルを取り出し、フェリクス王の前にススッと置く。

 やっぱり、そう言ってきた。これも作っておいて大正解だ。

「………………」

 フェリクス王は、もう1つ出てくるとは思わなかったので、少し時を止めていた。

 意味ありげに笑う莉奈をチラリと見て、そのカクテルを手に取った。

「………………っ!」

 エクストラ・ドライ・マティーニを口にした瞬間、フェリクス王の口端がゆっくり綻んだ。

「いかがですか?」

 その表情(かお)を見ればわかるが、ぜひとも言葉で訊きたい。

「お前……俺の好みをわかってるな?」

 とさらに口を綻ばせて見せた。

 口に含んだ瞬間、先程のマティーニとはまったく違い、ピリリとした辛さが口の中を走ったからだ。

 白ワインベースの、ドライ・ベルモットが多く入っていたマティーニとは違い、ドライジンの辛さが口の中を引き締めていた。

「……9:2……いや……10:1か」

 カクテルのテイスティングを、実に楽しんでいる様だった。

「……正解です」

 割合まで当てた、フェリクス王に莉奈は、感嘆していた。

 それと、同時に……想像通りの酒豪にも感嘆ものであった。



 マティーニのアルコール度数は、40を遥かに越えているのだ。

 なのに平然として、飲んでいるから驚きでしかない。

 ビールを5とすれば、8倍ものアルコール度数。

 お酒の中でもアルコール度数が、強いとされているウオッカでも40そこそこ。ドライ・ジンは同じか、それ以上なので強いお酒だ。

 それを、平然と飲んでいるだけでなく、表情一つ変わらない。いかに、フェリクス王がお酒に強いかが、よくわかる。



「……こっちの方が、旨いな……」

 しかも、味わっていた。相当な強さだ。

「……さようでございますか」

 莉奈は、感嘆の声しか出なかった。

 父親も強い方だったけど、フェリクス王はそれ以上だ。

「8:1ぐらいでもいい」

 ドライ・ジン、ドライ・ベルモットの割合まで、好みを言う程。

「……では、今度はその様に致します」

 と莉奈が言えば、フェリクス王は実に満足そうに、微笑んでいた。



 ……ダメだ。



 その表情……マジでドキドキする。



 莉奈はお酒を飲んでもないのに、酔った様に頭がクラクラしていた。

 フェリクス王の笑った表情(かお)に、人知れずクラクラと酔ってしまっていた莉奈だった。






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