表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/650

12 王の優しさ



「……シュゼル」

 呆れた様な声で、弟に言うフェリクス王。

 王も、まさか莉奈の頭を撫でるとは、思わなかったらしい。

「……失礼……つい」

 と、ほのほの微笑むシュゼル皇子。

 何がどうすれば"つい"なのか、莉奈にはさっぱり理解できない。

「……まぁいい……リナだったな」

「……はい」

 気を取り戻したフェリクス王は、莉奈に向き直す。

「まずは、愚弟エギエディルスがしでかした事を、兄として詫びる」

 フェリクス王は、組んでいた足を下へ降ろすと、軽くとはいえ御自ら頭を下げた。



 …………っ。



 王が自ら頭を下げるとは思わなかった。

 自身には、関係ないと言われたらその通りなのだから。

「………もったいなきお言葉」

 そう返すだけで、いっぱいいっぱいだ。

 当人のエギエディルス皇子や、シュゼル皇子達にも謝られたとはいえ、その時は "あぁ、そうですか" ぐらいにしか感じてなかった。

 だが、王が自ら頭を下げてこられると、なんだかくるものがある……。

「……で、一応訊くが。"聖女" ではない、相違ないか?」

 と、チラリとシュゼル皇子を見る。

 別に責めているのではなく、確認しておく必要があるのだろう。

「……相違ありません。……鑑定では "聖女" 特有の魔法は持ち合わせておりませんでした」

 シュゼル皇子が、王を正面に見据えて言った。

「……そうか。……してリナ。お前は4属性もの適性があったとか」

「鑑定では、そう出ました………しかしながら、これまで一切使った事もなければ、魔法などない世界から来ましたので、どこまでお役に立てるかは存じません」

 あくまでも "素質" がある…と分かっただけだ。それを活かすも殺すもこれからだ。

「……役に立つなら良し、立たぬなら立たぬで構わん。気負うな」

 と、フェリクス王はどうでもよさげに言う。

 その心遣いに莉奈は感謝した。

 ひょっとしたら王にとって、本当に心底どうでもいいのかもしれないが。

「……そもそも "聖女" なんて者がいるのか、眉唾もんだしな。いた所でンな都合良く召喚できんのかって話だ」

 フェリクス王は、そう言うと足を組みあっけらかんと言った。



 ……確かに、そうだけど!!

 巻き込まれた私の前で、それ言っちゃいますかね?



「………王……」

 シュゼル皇子も、そう思ったのかフェリクス王を窘める。

 身も蓋もないとはこの事だ。

「大体だ。本当に "聖女" が召喚出来たとして、その聖女とやらが、この国ましてや、この世界のために力を貸してくれるかって話だろうが」

「「…………」」

「俺だったら貸さねぇなぁ。………勝手に召喚された挙げ句、なんでそんな "オレ達至上主義" なアホのヤツ等のために、身を犠牲にしてまで救ってやらなきゃいけねぇんだ? 俺だったら、そんな国、逆に滅ぼしてやる」



 ………は?




 ………はぁ!?



 ……いやいやいやいや……。

 ……滅ぼしてやるって……なに言っちゃってんの? 王。

 滅ぼしたら、アカン!!



「………兄上……」

 さすがにシュゼル皇子も、言い過ぎだと思ったのかこめかみを押さえた。

「…………」

 莉奈は、あんぐりと口を開け唖然としていた。

 自分も勝手に召喚され、怒ったし嘆いたが"滅ぼしてやろう"なんて微塵も考えなかった。

 ってか、そんな発想ないわ~。


「……どうする? やってみるか?」

 フェリクス王は、意地悪そうにくつくつと笑う。

「……やりませんよ」

 ………ってか、やれませんよ。

 やろうとした所で、絶対フェリクス王にブチ殺されるでしょうよ。



 ………。



 ……あぁ。



 ………フェリクス王は、すべてをわかった上で、そう言ってくれてるんだ。

 ……お前には、その権利があるんだぞ? と代弁してくれてるんだ。



 不器用な程の王の優しさに、莉奈は心から感謝し、それと同時に敬服した。


 私は、存外 この国に喚ばれて良かったのかもしれない……と。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ