114 甘酸っぱいレモンシャーベット作り
「さて、レモンシャーベットを作りますか」
莉奈は、気合いを入れた。約束したものは仕方がない。
ついでに、フェリクス王にも食べられるシャーベットを作って持って行こう。どういう反応をするか楽しみだ。
……喜んでくれるかな……?
……さて……と。
難しい事はないから、教えればたぶん、エギエディルス皇子にも出来る。
「エド。一緒に作ろっか?」
「え?」
「スゴく簡単だし。見てるより面白いよ?」
ビックリしたエギエディルス皇子の前に、もう1つ小鍋を置いた。混ぜて凍らせるだけ、火の取り扱いさえ注意すれば、小さな子供でも出来る。
「……やる!!」
"面白い" に食いついたのか、袖を捲りやる気を見せた。
「んじゃ、後は……」
料理長のリック辺りにでも、と周りを見て莉奈は、眉を寄せた。
さっきはグッタリしていて気が付かなかったが、なんだかいつもより、さらに人が多い気がするのだ。
「……なんか……さらに、人……増えたね?」
もう1度辺りを見回したら、見慣れない顔ぶれがいる。休暇中の人が出勤して来たのだろうか?
「リナの料理を学びに、王宮外の領地からも、徐々に来る様になったからね」
と、リック料理長が説明をしてくれた。
食事の改善のために、色々な領地から料理を学びに来るらしい。
……は? 徐々に……?
……マ・ジ・か!!
……何人来るんだよ?
ゾッとするんだけど!?
すると、新参者……と言っても、ここではなので。
領地ではたぶん、それなりの地位の人が、前に出て軽い自己紹介と、お辞儀をしてきた。
「「「よろしくお願い致します」」」
「えぇ? よろしく……お願い……致します……?」
莉奈は、頭を下げつつ頬がひきつりまくる。
お願いだから、私ゴトキに頭なんか下げないでくれませんかね?
……あ~もぉ、なんか、エライ事になってきたし。
家庭料理の延長みたいな、料理しか教えられないのに、こんな偉い料理人達に教えていいのだろうか……?
しかも、真面目に料理を習った訳ではないから、適当だし。
作り方も正統ではない。ズボラ料理と言ってもいい。
なんだったら、間違った知識の方が多い。
……エド……。
せめて【召喚】するなら、一般人じゃなくてプロにしなよ。
その道のプロ。
教えておいて今さらだけど、モヤモヤする。
プロを呼んで教えてあげたい。
「……はぁ」
もう、仕方がないか。美味しければいいよね!!
私が法律だ!! だよ。
違ったとしても、誰も咎めないし、私が右と言えば右だ。
みんな、私に従うがいい…………アハハ。
…………莉奈は、考えるのをヤメた。
「んじゃ、リックさんとマテウスさんも、鍋用意して」
味見軍団のためにも、いつもより多めに作る事にする。
"ソルベ" に似ているからって、食べるに違いない。
「「……え」」
突然の参加に、2人は驚いた。見ているだけで済むと思っていたのだろう。だが、そうはさせない。
いくら簡単だからって、見ているだけなんてありえない。
「食べるんでしょ?」
莉奈がニコリと微笑み、魔法の言葉を言えば、2人は苦笑いしながらも小鍋を用意した。
この言葉を言えば、ほぼ、100%逆らえない。魔法の言葉だ。
莉奈は、皆の鍋に水を入れてもらい、火にかけた。沸騰し始めたらそこに、砂糖を入れて溶かす。溶けたら火を止め牛乳を入れる……。
「……また……牛乳……」
牛乳を入れるのを見ていたモニカが、背後で呟いた。
出たよ、モニカ……。
どうせ、出来れば……食べるくせに……。
絶対、牛乳寒天を作ったって、食べるでしょうよ!
もう、あんまりうるさいと、鼻から牛乳入れるよ?
「牛乳を入れたらどうするんだ?」
「え? モニカの鼻に?」
「「「……は?」」」
「……え?」
……うわっ……。そんな事を考えていたら、思わず口にしてたよ。
「「「…………え……モニ……リナ?」」」
皆、目が点だよ。そりゃあ、ビックリするよね?
私もビックリだよ。
モニカの鼻に入れて、どうするんだって話だ。
「……えっと、レモン汁を入れて、擦った皮を香り付けに少し入れて……」
皆が、耳を疑ってくれたのをいい事に、なかった事にした。
アブナイ、アブナイ……モニカの鼻に入れたって、口から出るだけだよ。
「……了解。うん、作り方は、ソルベに似てるな」
「そうですね」
聞かなかった事にしてくれたのか、作り方を見て、リックとマテウスが頷く。
モニカが、なんか訝しんでいる感じの目で見てるけど、無視だ無視。牛乳が出てくるたびに、何か言うキミが悪い。
やっぱり、エギエディルス皇子が言った様に、ソルベなる物はシャーベットに似ているらしい。皆も、そんな話をしている。
「ミントは、好みが分かれるから、今日は入れないでおこうか」
チョコミントも、好き嫌いがハッキリしているしね。
ちなみに、私は苦手だ。
歯みがき粉を食べているみたいなんだもん。
弟は、逆に大好きだったけど……。
「さて、これを混ぜながら、凍らせれば出来上がりだけど……エド以外に "氷の魔法" 使える人はいる?」
一気に凍らせて、フードプロセッサーで砕いた方が早いが……フードプロセッサーがない。
かき氷機もない……だから、人力だよ。人力。
じ~ん~り~き。
「予想はしてたけど……また魔法かよ。お前、何度も言うけど、魔法の使い方間違ってるからな?」
エギエディルス皇子が呆れていた。
魔物退治とか、壁を造るとか、そういう実用的な使い方しかしないらしい。
食べ物を作るのに使うなんて、ないそうだ。もったいない。
「いいじゃん! 早いし、ちょ~便利……誰が使える?」
と莉奈が挙手を求めれば、もれなく数名の手が挙がった。
その中に、魔法省と軍部から来ている料理人の手があった。なら、今後のためにも、この2人に手伝ってもらおう。
「じゃ、2人1組で。1人が氷の魔法でゆっくり固めて、1人がフォークで軽く撹拌させる。エドのは私が撹拌するからね」
リック料理長と魔法省の人。マテウス副料理長と軍部の人。
莉奈とエギエディルス皇子の組み合わせだ。
「ゆっくりって、アイスクリーム作った時くらいか?」
エギエディルス皇子が、冷やす加減を訊いてきた。
「ん~。それより早くでも平気。空気を入れながらじゃなくて、砕く感じだから」
なめらかにする必要はない。ジェラートなら、なめらかにした方がいいのかもだけど。
「わかった」
理解出来たのか、エギエディルス皇子は頷いた。
冷えた牛乳を入れたから、鍋も熱くはないし……。
魔法をかけるのに、縁を手で触っても平気そうだ。
よし、冷やし固めよう。
誤字、脱字の報告、いつもありがとうございます。
助かります。(*´ω`*)




