110 余計な一言
「んん~。この焼きリンゴも大変美味しいですが、紅茶をかけたアイスクリームは特に絶品ですねぇ。紅茶の苦味がまた、アイスクリームの甘さを引き立てる」
シュゼル皇子は、アイスクリームをにこやかに堪能中。
結局、屈託のない笑顔……と云うか、無言の圧力に負けた莉奈は、アイスクリームも差し出した。
氷の執事様イベールにも、もちろん出しましたよ。アイスクリーム作りに関わってた訳だし、何より賄賂は多い方が今後のためだ。
甘いのがダメなフェリクス王には、出してないけどね。
「……シュゼ兄……よく食うな」
エギエディルス皇子が、若干引き気味に言った。
ポーション、ポーションで過ごしていた日々が、本当にウソの様だから、余計に思うのだろう。
「デザートは、別腹ですよ?」
と、さわやかな笑顔。アイスクリームは特にお気に入りの様だ。
「………………」
そんな事言うの……女子だけかと思ったよ。
まぁ、実際、"別腹" ってのはあるらしい。
お腹いっぱいでも、好きな食べ物を見ると、胃がちょっとだけスペースを作るらしいって子供の頃、テレビでやってたし……。
人間って、不思議だよね。
「……リナ、お前は食わないのか?」
呆れてシュゼル皇子を見ていると、エギエディルス皇子が不思議そうに訊いてきた。莉奈も、食べると思っていたみたいだ。
でも個人的に……。
「あ~……脂っこい食べ物の後は、アイスクリームよりシャ……」
甘いアイスクリームより、サッパリ系のシャーベットだろうと言おうと思ったけど、口をつぐんだ。シュゼル皇子がチラリと見たからだ。
余計な事は言わないに限る。この国は特に鉄則の様な気がする。
「……アイスクリームより、"シャ"……なんですか?」
「……シャークリー男爵に会いたいな……と……ホホッ」
「「……あ゛? 誰だって!?」」
シュゼル皇子の微笑みに捕まり、適当な言葉で誤魔化してみたけど。エギエディルス皇子と、フェリクス王が眉を寄せて間髪入れずに、ツッコんできた。
いや、言ってて自分でも誰だよって思ったけど……。
息のあったフェリクス兄弟にツッコまれるとは。
「…………ぷっ」
まさかのツッコミに莉奈は、我慢ができず吹き出した。
何この絶妙なツッコミ!!
王族にしとくの勿体ないんですけど。
「……アハハ……ッ」
莉奈は、面白過ぎてお腹を抱えていた。
「…………リナ」
王族をからかっている様な莉奈に、氷の執事様の冷ややかな声が、突き刺さったのは言うまでもない。




