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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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106 ため息



 フェリクス王の執務室は、無駄な物が何一つとしてなかった。

 30畳程の部屋には、奥の窓際に執務用の机や椅子がある。右の壁側にも机が1つあるのは、氷の執事様、イベールのかな……と予想してみた。窓側の壁には、日が直接当たらない様に、書類棚と本棚。

 その机の前に、この来客用のソファとローテーブルがある他に、余計な物がない。

 社長室みたいに、歴代の王様の肖像画でもあるかと、勝手に思っていたけど、絵画的な物も一切飾ってなかった。当たり前だが、ゴルフのパターセット等もない。

 まぁ、フェリクス王なら、歴代の王様の肖像画を飾るイメージはなかったけど……花も何も飾ってなかった。フェリクス王の執務室に、花もなんだか変かもしれないから、これはこれで、らしくていいのかも。



 上座のソファがこちらの2人掛けより、少し高さがある気がするけど、背の高いフェリクス王仕様になっているのだろう。

 しかし、このソファはフカフカで本当に気持ちがいい。

 部屋の色合いも落ち着き、王様の執務室なのに、なんだか居心地はいい。本でも読んでいたら、眠くなりそうである。

 居心地が良くていいのか……? 複雑ではある。

「キョロキョロすんなよ」

 不躾もいいとこ。遠慮なく、部屋を見渡していた莉奈に、エギエディルス皇子が呆れ笑いした。今まで、気になるにしても、こんなに堂々と見渡す者を見た事がない。初めの緊張はどこにいったんだ……と。

「だって、王様の執務室なんて、見る機会なんてそうそうないでしょ?」

 莉奈は、正直な感想を言った。アッチの世界にしろ、コッチの世界にしろ、王の執務室なんて見る事はそうそうないだろう。だから、見れるだけ見て、目に焼き付けておきたい。

 怖さより、好奇心しかなかった。なんだか、まだ観光気分が抜けないのだ。修学旅行か一人旅なふわふわした気分。現実味がまだない……と云うか、深く考えたくないと云うか。 

「……で……?」

 どうなんだ? と面白そうに、フェリクス王が訊いてきた。莉奈の、言動が逐一面白いみたいだ。

「……フェリクス陛下達がいなければ、ゆっくり寛げそうです」

 思わず、思った事を口にした。

 ソファも座り心地はいいし、部屋の色合いもシックで落ち着いている。なら、邪魔……緊張する人がいなければ最高だ。

「……くっ」

 と、笑いを漏らしたのはフェリクス王。

 まさか、そんな返答があるとは、想像もしていなかったのだ。

 自分達がいなければ、そんな事をサラリと言う輩は、後にも先にも莉奈だけだろう。

「……私達が……いなければ……」

 一瞬、目を見開き横を向いて、なんとも云えない表情なのがシュゼル皇子。笑いを堪えているのか、肩が少し揺れている様にも見える。

「……まぁ……そりゃ……そうだろうな」

 莉奈の言動に、呆気な顔をしたエギエディルス皇子。

 例え、そんな事を思ったとしても、よく本人を目の前に言ったなと感心しなくもない。

「リナ……口を慎みなさい」

 と、イベールが感情のない声で叱責した。

 当人、フェリクス王達が何も言わないとはいえ、立場もあり何も言わない訳にはいかなかった様だ。

 だが、本気で怒ってはいないのか、呆れ果てているのか、諦めているのか、イベールの口調は何一つ、感情は含んではいなかった。



「……はい、すみません……あっ、そうだ。イベールさんも、そこに座ってもらってもいいですか?」

 莉奈は、一応形ばかりの謝罪をし、向かいのシュゼル皇子の隣の席に、イベールを勧めていいか、フェリクス王にお伺いをたててみる。

「……だとよ、イベール」

 フェリクス王は、実に面白そうに言う。

 莉奈が、何をするのかが予測不可能で、面白くて仕方がないのかもしれない。

「……隣席を失礼致します、シュゼル殿下」

 フェリクス王の許可が出た、と理解したイベールは、仕方がなさそうにシュゼル皇子の隣に座った。

 まぁ、無表情だから、勝手にそうだろうと、思っただけだけど。


「……で?」

 フェリクス王が、さらに莉奈に深い笑みを浮かべた。

 莉奈は、なんだか知らないけど、少しイラッとした。人のやる事なす事、面白そうにしているからだ。

「…………」

 楽しそうですね? と、思いを込めて見てみたけど……。

 フェリクス王の、あまりの美形っぷりに、こっちが恥ずかしくなり目を逸らす羽目になった。


「…………はぁ」

 恥ずかしさを誤魔化すために、莉奈は下を向いてため息をついた。そうでもしないと、顔が火照りそうだった。

「俺の顔を見て、ため息を吐く女は、お前くらいなものだぞ?」

 フェリクス王は、莉奈が恥ずかしがっているのに気付いていないのか、呆れ笑いをした。自分の顔をガン見した後、ため息を吐く人間は、身内くらいなものだからだ。

「吐きたくても、吐けないのでは……?」

 魔王様に向かってなんて、怖くて吐けないだろうし。



 ……まっ……私は、吐きましたけどね。



 それに、イケメンの王の前だ。出たとしても、ピンク色の吐息だろう。

「…………くくっ……なるほど」

 フェリクス王はさらにくつくつと笑う。不敬極まりない言動だとしても、裏表のない莉奈の返答は、王族として育ったフェリクス王にとって、心地よく実に愉快な事なのだろう。

「……リナ」

 義務的に、一応イベールが注意した。

 皆が皆、それでいい……と容認してはいけないからだ。



 ……もぉ、ため息くらい いいじゃん。

 ……ゲロ吐いた訳じゃないんだから……。



 莉奈は、ため息を吐くのさえ憚れる、この空気に少し嫌気がさしていた。



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