105 ネコはもういなかった
「……遅かったですね?」
とシュゼル皇子はニッコリ。
たぶん、扉の外の会話は、聞こえていたと思うのだけど……。
わざとか、わざとなのか……!
「大変申し訳ございません、フェリクス陛下ならびに、シュゼル殿下……実は、ここに居られるエイプリル殿下が伝え忘れた様で、耳にしたのが何分先程でした……」
「……ェ…ィ……」
フェリクス王は、一瞬目を見開くと……下を向いて口を押さえていた。
莉奈が、頭を深々と下げながらシレっと言ったからだ。自分のせいではないのだと、アピールするのもあり得ないが、弟の名前をわざとなのか適当に言ったからだ。
"エイプリル殿下" とは、誰なのかまず訊きたい。普通なら激昂し間違われた殿下、エギエディルス皇子は勿論のこと、兄王達に斬られた所で、誰一人として異議を唱える者などいない。
「……お前……マジで……スゲェわ」
エギエディルス皇子は、呆れを通り越して脱帽していた。
兄達に向かって、堂々といい加減な事を言ったのだ。
莉奈の強靭過ぎるメンタルに、エギエディルス皇子は唖然だった。
「くくっ……お前……ネコを飼う予定は、もうないのかよ?」
莉奈が、猫を被らず始めから素なので、言った様だ。
この時点で普通、それなりの罰があってもおかしくはないのだが、フェリクス王はそれすら楽しんでいる様だった。
「私……ネコアレルギーなんで」
と微笑んで見せた莉奈。
実際の所、別にアレルギーなんてものはないが。本性がバレているのに、今さら猫を被る意味があるのかな……と。
「……くっ……そうかよ」
さらに、フェリクス王は笑っていた。
どうやら、フェリクス王的には、こっちの莉奈は、お気に召したらしい。エギエディルス皇子も、シュゼル皇子も、兄が怒る所か楽しんでいる様なので、莉奈を叱責するのはやめた様だった。
「……はぁ……リナ、程々に……座りなさい」
シュゼル皇子は、深いため息を1つ吐くと、一応、形だけ注意をし、自分の向かい側に座る様に促した。楽しんでいるのは、別に兄王だけではない……自分の中にもどこかにいたからだ。
「……失礼致します」
あ~帰りたい。
莉奈は、表情こそ出さなかったが、内心は帰りたくて仕方がなかった。
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作者の "幸運" が上がりました。(*´ω`*)




