10 王の帰還
ーーーその夜、王宮は異様な慌ただしさと、ピンと張りつめた空気が漂っていた。
離宮にいる莉奈の部屋でさえ、その異様な雰囲気は感じ取れる程に。
ーーーコンコン!!
「………失礼します!!」
慌ただしく部屋に、侍女のモニカが入って来た。その表情から読むに、ただ事ではなさそうだ。
「……どうしたの? 騒々しい」
ラナ女官長が、眉間にシワを寄せ窘める。
「……へ、陛下が!! フェリクス陛下が、御帰還なされました!!」
モニカは、走って来たのか息も絶え絶えだ。
……王様キター!!
と、内心ゾワリとした莉奈にラナ女官長は
「リナ!! 紅茶を飲んでる場合ではありません。お着替えを!!」
と立ち上がらせた。
「……え?……着替えって…?」
後は、風呂入って寝るだけじゃないのかな……?
ビックリし過ぎて、莉奈はポカンとしていた。
「国王陛下の謁見がございます!!」
理解してない莉奈に、ラナ女官長が力強く言った。
……えっけん…。
……謁見。
……謁見!!
王様に会うだとーー!?
「………ナゼにーーー!?」
莉奈は、驚愕し声を上げた。ただの一般市民が、王様に謁見などあり得ない。
勿論、莉奈もそれに当てはまり、逢う事などないだろうと、たかをくくってた。なのに……だ。
「リナは、先日、この国の皇子である、王弟エギエディルス様により、この世界に召喚されたお方。兄である陛下が、お逢いになるのは至極当然かと………」
……あのバカ皇子~!!
莉奈は、心の中で叫んだ。
王様に逢ってどうすればいいのよ。"聖女じゃない" って、王様が知ったら私どうなるの!?
シュゼル皇子達は、とりあえずの衣食住は、補償するみたいな事、言ってくれたけども!!
そんなの、王様の一喝で吹き飛ばせるでしょうよ。
「………ただのブタに用はない」
って言われたら、しゅ~うりょ~う! じゃない!?
……やだやだ、怖い。
そんな悲しくとも、虚しい莉奈の叫びを、再び扉を叩くノックの音によって遮られた。
「シュゼル殿下がいらっしゃいました」
この離宮にいる警備兵の声が聞こえた。
……居留守、できませんよね~。
「……どうぞ、お入り下さい」
ラナ女官長が、当然の様に言い扉を開ける。
……部屋の主の意味な~い。
「御寛ぎの処、申し訳ありません。リナ」
……そう思うなら、帰って~。
とは、言えず。
「………いえ」
とニッコリ笑って見せる。
「国王陛下が先程 御帰還なされました。愚弟のした事を報告した処、すぐにお逢いしたいと……。ご足労だとは思いますが、謁見の間へお越し下さい」
シュゼル皇子は、口調こそ固いが優しく言う。莉奈を気遣ってくれているのだろう。
「……こんな格好ですけど、いいんですかね?」
と莉奈は自分の着てる服を見る。シャツに緩いスカート、ラフな格好だ。
"逢わない" という選択肢がないのなら、せめてちゃんとした方が印象が良いのでは?……と。
「服装に関しては、突然の事だと陛下も了承なさっておいでです。どうぞ、そのままで……」
と言うのだから待たせるなよ? って事か……。
「……分かりました」
全然分かりたくないけど、わ~か~りました~。
莉奈は、仕方なく了承した。
だって、後回しした所でいい事ないし。
ましてや、王自ら "来い" って言ってんのに、やだぴょ~んとは言えない。
遅かれ早かれ、逢う事にはなっただろうし。
だって、喚んだの王弟だもんよ……シュゼル皇子が報告しない訳がない。
あ~もぉ、せめて心の準備欲しかったよ……。
……はぁ……。